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【たった一言「愛しているよ」と何度でも囁こう。】

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それから百年後…そこらだろうか、年月などもう覚えてはいないが。
ただ覚えているのは幾度と時代が変わり、戦国時代と呼ばれる頃徳川が勝ち、時代が江戸時代と変わり。
そして山城が京の都と呼ばれるようになった頃だった。
殆ど過去の古傷も癒え、過去の自分がとても幼く、頼りなかったと感じていた頃でもある。

羽衣狐が一度山に直々に来たことがあった。狐臭い。本当嫌になる。
以前の転生したコイツには配下の者が来たが、いい加減諦めて欲しいものだ。

「なあ、お主、矢張り妾の仲間にならんか?」

『…断る。
忠義を唱えられる程親しくもない上に、惹かれるものが何一つ感じられない大将の下にはつかんよ。
すまねぇな、他を当たってくれ。』

「ではまだ転生した時にお主が生きておったらまた勧誘させてもらおうかの、」

『へっ…、さあなあ?流石に死んでるかもしれんな。
まあそん時気が変わってたら仲間入させてもらうぜ。』


「 ふふ、なあ、 時にお主。妾の条件をのむことで愛おしいものが生き返るとしたらどうする?」

『…くだらんよ、女狐。』

そんな他愛ない話。
俺は嫌そうな表情を見せているのに、この狐は楽しそうだ。
実に気に食わない。
コイツに会ったのは2度目か。
魑魅魍魎の主…、そんな称号を持つコイツの畏は偉大だ。
ついていけば損はないだろう
だが俺はそれに興味はない。
どうせなら、面白いほうが好きだしな。
それに死んだものが生き返るなど、あってはならないことだ。
一度は揺るがされた。だが、もう、揺ぎはしない。
死者は死者、生者は生者
仕方がないことなのだから。
女狐が去っていった姿を見送ったその数日後。
どうやら一匹の妖怪が京の都で勢力を上げているとのこと。
元は江戸の者だとか。

その名は、ぬらりひょん…といったか。
興味深い、と口元に笑みを浮かべる。

そしてもう暫しの時が流れ、そのぬらりひょんがあの女狐を倒したことを噂で聞く。
どうやら陰陽師の力も借りたようだが、それでも上々と言ったところか。
だが、あの女のことだ。ただ倒されるだけではすまんだろう。
…何が何でも呪いとか掛けて死にそうなもんだが、実際に見てないものだから何とも言えない。
そしてなによりも驚いたのがぬらりひょんが女狐に喧嘩売ったのが女…人間の女を取り戻すためだとか。
かつての若い自分を思い出しては、くすりと静かに笑った。
今となってはこの胸は昔ほど傷まない。
思い返されるのは幸せだった頃であるし、苦ではない。

『…妖の世は安泰だな、』


そう呟いて俺は笑みを浮かべて夜空を見上げた。
妖の世も変わる。
ーーーそして…畏も十分に溜まっている。
…冬花、俺もそろそろ…前に進もうと思うよ。
いつまでもお前に囚われてはいけない。
長く生きるからこそ、強くなければ。
もう涙も流さない、今度愛おしいと思える存在に出会えたら。
今度は…ーー笑みを、最高の笑みを向けようと思うんだ。
そして煙管を軽く吹かして木の上から降り立った。