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奏で始める物語【夏】そのいち

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「心外ですねェ。これでも俺だって受験生の自覚ありますよ。それに銀八の旦那も来るっていうなら、なーんか面白そうな事の一つや二つありそうですしね」
 恐らく前者の理由はとって付けたものだろう。沖田は妙に銀八を気に入っている節がある。何かにつけ準備室にも足を運んでいるようだし、銀八も同様に沖田を気に入っているらしい事を土方は気付いていた。
――先生、他の奴らと接する態度と総悟への態度ってちょっと違うんだよな。
「何ですか? そんな恨めしそうに見られる覚えはねぇんですが」
 ハッと我に返った土方は無自覚で沖田を見つめていた事に気付き、狼狽する。
「べ、別に見てねえよ! つーか、何だよ。その恨めしそうなって!」
「ああ、あれですね。羨ましそうな、の間違いでした。すいやせん」
 顔に熱が篭るのが分かる。反論しようとするが、生憎土方の口は都合良くは動いてくれない性質だ。土方自身が嘘を吐けない性格の所為だ。
 何せ沖田の言葉が図星だったのだから。反論しようにも何を言えばいいのか、上手く頭が働いてくれない。
 漸く出てきた言葉は。
「うるせぇ! だから、見てねえって言ってんだろうが!」
 土方の精一杯は結局声を裏返してしまった所為で何の威力も持ってはくれなかった。
 これ以上は沖田のペースに嵌ってしまう。そう判断した土方は勢いよく立ち上がると着替えるために更衣室へ足早に向かった。
 その後ろ姿を見ながら沖田は「本当に困った人だ」と誰に言うでもなく呟いた。
「総悟、トシは何をあんなに怒っていたんだ?」
 土方の胸中も沖田の思惑も、何一つ気付いていない近藤は心底不思議そうに尋ねた。
「あれじゃないですか。乙女の日にでもなったんじゃないんですかィ」
 土方が聞いていれば更に激昂すること間違いなしの沖田のデリカシーの欠片も無い言葉に近藤は。
「――乙女の日というのは怒りやすくなる日のことを言うのか? だとすればトシは毎日乙女の日だな! ん? でも男であるトシにもその言い方は当て嵌まるのか?」
 揶揄する言葉も近藤には何一つ通じない。本当に無垢というか無知というか。とりあえず沖田は近藤のことは慕っているので一つだけ付け加えた。
「間違っても志村姉達の前でその言葉は使わない方がいいですぜィ」
 自分から言っておいて何を言う、と近藤はまた不思議そうな顔をして問い返そうとしたが、マネージャーの武道場を閉めるという言葉に話はそこで終わったのだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 翌日。土方は集合時間の十五分前には校門に着いていた。
 元来の性格でもあるし、部活動や委員会活動でも規律に厳しい部分があるので自然と約束の時間の十五分前にはその場所に居る事が土方にとっては当たり前になっていた。
 なのに、だ。同じ部であり委員会でもある沖田は集合時間になってもやってこない。近藤や山崎は着ているというのに。しかし、沖田のマイペースな性格は今に始まったわけではない、と誰も気に留めてはいない。
 校門にはZ組の生徒に加え、昨日近藤が言っていた通り他のクラスの生徒の姿もチラホラどころか団体で見つける事が出来た。
――こりゃ、本当に大層な話になってたんだな……。
 まだ校門に来ていないのは沖田だけではないらしい。今回の勉強会の発起人として取りまとめをしている志村姉弟は忙しなく参加者リストらしき紙を手に人数を確認し回っている。
 土方もいまだに姿を見せない沖田をそれとなく探しているとピンク色の髪の毛の留学生が校門脇で座り込んでいるのを見つけた。確か彼女も今回の発起人の筈だ。一人あんな所で何をしているのだろうか、と土方はその傍らに歩み寄った。
「おい、お前こんな所でサボってていいのかよ」
「……マヨラーが何の用アルカ?」
 よくよく見れば彼女は便底メガネの下の目を据わらせ、唇を尖らせている。至極面白くなさそうだ。
 土方の記憶が正しければ、この勉強会が決まった当初の彼女は凄く喜んではいなかったか? それが何故こんなにも機嫌が悪そうにしているのか。
「どうしたんだよ。お前今日を楽しみにしてたんじゃねーのか」
「お前には関係ないアル」
 フンッ、とそっぽを向かれて土方は動揺する。神楽は背けた顔を俯かせると尖らせた唇を噛み締めた。
 土方の知っている神楽は表情豊かではある。しかし、こんな風に拗ねている、いや、寂しそうな表情は初めて見た。沖田と喧嘩している時の凄い剣幕の彼女とはかけ離れた表情だ。
 気付けば土方は神楽の隣に腰を下ろしていた。
 その行動に神楽は訝しげに見やる。
「何アルカ。マヨネーズ臭が移るネ。近寄るな、マヨネーズくせぇアル」
「誰がマヨネーズ臭いんだよ!? つーか、マヨネーズの悪口は言うな! 俺の悪口はいいが、マヨネーズの悪口は許さねぇ!」
「お前マジキモいアルナ。そんなんじゃいつまで経っても童貞のままネ、うん」
「妙な納得してんじゃねーよ! ――まあ、それはどうでもいいんだよ」
「童貞はどうでもいいアルカ? お前一生童貞でもいいアルカ?」
「だからぁぁぁ! 女がそんな風に童貞、童貞連呼するな!」
――もっと慎ましやかにしてればそれなりに可愛いんだからよ、とはさすがの土方も口には出来なかったが。
 土方との会話で幾分気が紛れたのか、神楽は土方が隣に座ることをそれ以上拒否を示さなかった。
 暫く二人の間に沈黙が訪れる。土方は先程の神楽の反応から無理に聞きだそうとすることをやめにした。彼女が話したくなれば話せばいいし、話したくないならそのままでもいいと思ったのだ。
「……何でこんなに一杯他の奴らがいるアルカ」
 小さな声だが、確実に土方の耳に届いた呟きに、視線を隣へやる。
 神楽は真っ直ぐに校門に集合している生徒達を見つめており、やはりその目は寂しそうに揺れていた。
「お前らが集めたんじゃねーのか」
「私はそんな事しねーアル。なのに、いつの間にか金魚のフンみたいにくっ付いてきやがったアル」
 またもや神楽の言葉のチョイスに眉を顰めるが、漸く話し始めた彼女の腰を折る真似はしなかった。
「新八も姉御も一杯居た方が楽しいって言ってるけど、私は」
 そこでようやっと土方は神楽が何故こんなにも機嫌が悪いのか理解した。
 昨日の自分と同じ事を考えているのだ。
「……まあ、こんだけいりゃあ先生も一人に構ってられねぇわな」
 自分の言いたい事を理解した土方に神楽はクリクリとした丸い目を更に大きくして、土方を見やる。そして、再び正面に目線を戻すと呟く。
「銀ちゃんは私達の先生アル」
 他のクラスの奴らがでしゃばるんじゃねーアル。その言葉は一段と揺れていて、神楽の心情をありありと表していた。
「お前は本当に先生が好きなんだな……」
「……銀ちゃんはいっつも優しいアル。私が黒板に間違ったひらがなを書いても、テストの回答の言葉遣いを間違えても、いっつもしゃあねーなーって笑ってくれるアル。いっつもいっつも優しいアル」
「そうか」
 授業でもよく見かける風景。指名されて教科書を読む神楽が間違った読み方をしても銀八はさりげなく正し、間違った慣用句を使っていれば笑いながら正解を教えている。
 そう、銀八は優しいのだ。
 誰にでも。
「お前は、お前も銀ちゃん好きだロ?」