二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
ミスターN
ミスターN
novelistID. 63008
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

『ともだち』

INDEX|7ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

私の使命は、天国の弟の夢をかなえること。プロの歌手として活躍して、そして天国の弟に私の歌声を届けること。その為には、全てを犠牲にしなければならない。これは私が背負った十字架。誰にも触れてほしくないし、指一本触らせるつもりはない。
 あれから天海さんは私に説教をしなくなった。天海さんは歌がどんどん上達し、うまくなればなるほど、彼女は更に歌うことの楽しさを見出していくようだった。
 時が経つにつれて、私の天海さんへの感情が少しずつ変化していることに気付いた。どこか天海さんのことを「かわいい」と思えるようになったのである。こういう言い方は変だと思うが、まるで自分に妹かなにかができたかのように感じていた。不思議だった。彼女といると、心が安らぐような感じがした。
 私たちは、いつの間にかタメ口で話すようになっていた。彼女なら私の「トモダチ」にしてもいいと思ったのだ。
 私の家庭はついに崩壊した。
 私と天海さんがユニットを組んで3か月後、両親が離婚することになったのである。そして私は・・・一人暮らしをすることになった。両親に勧められたのだ。
「アイドル活動をするんだったら、もっと事務所に近い所に住んだほうがいいんじゃないか。」
 私には一瞬で分かった。私は両親から「捨てられた」のだ。父も母も、私のことを引き取りたくなかったのだろう。だから私に「一人暮らし」を勧めたのだ。
 正直な話、内心ほっとしていた。もう両親のあの醜い争い、金切り声、怒鳴り声、叫び声を聞かなくて済む、そう思うと心のつかえが取れたようだった。
 でも、それは私の心をだましたに過ぎない。自分の中でどう取り繕っても、父も母も、私のことを嫌い、そして捨てたという事実には変わりなかったからだ。
父も母も嫌いだった。私が弟の死に対してどれだけ責任を感じていたか、考えることもせず責め立て、私の気持ちなんかお構いなしに毎日けんかして、陰で泣いていたことも気づかず、常に蚊帳の外に置かれていた。そんな両親のことを、私は嫌っていた。
 私が両親のことを嫌っていたから、両親も私のことを嫌っていた。ただそれだけの事。単純なことだ。ずっとこうありたいと願ってきたではないか。両親の暗く、重たい影から自由になりたい。一人暮らしをしたい。誰にも束縛されず、私は私のことだけを考えて生きていきたい。そう願っていたはずなのに・・・。
 一人になり、狭い筈のワンルームマンションに腰を据えてみると、あまりにも部屋が広いことに気が付いた。物がないのだ。
捨てたからだ。自宅を出るときに。軽くなりたかった。引きずりたくなかった。過去の自分を、そして両親とのいさかいを。だから、いらない私物はどんどん捨ててしまった。
 そして気づけば、辺りは空っぽになっていた。そんな室内を見て、空疎な思いで身が縮こまった。まるで私の人生そのものじゃないか、と思ったのだ。
 「トモダチ」はどんどん捨てていった。小学校のころからそうだった。クラス替えで、かつての「トモダチ」と疎遠になると、廊下ですれ違って声をかけてくれても、まともに挨拶すらしなかった。
 私にとって「トモダチ」は、その時の不便さを解消してくれるなら何でもよかったのだ。「トモダチ」とは、私にとってそういう存在だった。
 私は気づいてしまった。私はずっと今まで「孤高」に生きていると思っていた。みんなが群れあって、もたれ掛って生きていた中で、私だけは違った、私は自分の力だけで生きている、そして生きていけると思っていた。そうやって、私はほかの人に対して冷淡に接してきた。
 だけど、こうやってものさみしい室内にいると、私が「孤高」だと思っていたものは、単に「孤独」なだけだったと気づかされたのだ。
 私は怖くなった。どうしてこんな恐怖心に苛まれたのかわからない。両親に捨てられたことがショックだったのか、それとも自分の身の周りのさみしさが原因なのか。歌さえあればいい。歌さえあれば生きていける、そう思ってきたのに・・・。
 私たちのユニットの記念すべきファーストシングル収録を目前に控えて、私は「声」を失った。医師の診断は失声症、精神的ストレスによるものだった。
 声の出ない歌手など、翼のもがれた鳥と同じ。地上に墜落した鳥に生きる術はない。同じように、声を失した私など・・・。
 私は家に引きこもった。学校にも行かず、事務所にもいかず、レッスンにも行かず、どこにも行かず、やることもなく、ただ家の中で引きこもっていた。
 事務所にはメールを出して、天海さんとのユニットの解消を申し出た。天海さんには大きな迷惑をかけてしまった。本当は直接会って謝らなくてはいけないのだが、臆病で卑怯な私は、彼女の前に姿を見せる勇気がなかった。あれだけ天海さんに大言壮語しておきながら、収録前に「失声症」にかかるなんて、恥ずかしくて顔向けなんてできなかった。
 どうせ私は事務所をクビになるだろう。レッスンも仕事も何もかもほっぽり出して、家から出てこないのだ。愛想が尽きるのも時間の問題だ。
 私には自分のことを心配してくれる人などいない。両親が尋ねてくることも、トモダチが尋ねてくることもない。私の存在など誰も気にするはずがない。そう思っていたのに・・・。
ピンポーン
 また今日もインターホンが鳴る。これで3日連続だ。私はインターホンのカメラのスイッチをつける。そこには、リボン頭のあの子が立っていた。
 事務所の人も何人かここを訪れた。けれど私がか細い声で、振り絞って「帰ってください」というと、もう二度と家を訪れることはなかった。あの子以外は。
「如月さん、今日はいいものを持ってきたんだよ。じゃーん!」
 そういって天海さんは、カメラに向かって、両手に持ったリンゴを見せつけていた。
「私の親戚のおじさんが青森でりんご農家をしてるんだけど、今年も豊作になったからって、送ってきてくれたんだ。私だけじゃ食べきれないし、一緒に食べない?いっぱいあるよ!」
 私はうんざりして、インターホンを切る。天海さんは、どうしても自分を中に入れてほしいらしい。
 どうもリンゴはたくさんあるらしい。ここで追い返してしまったら、またリンゴを持って帰らなければならない。どうやって持ってきたかは知らないが、天海さんにもう一度持ち帰らせるのは忍びない。
 しょうがない。彼女を中に入れよう。
 私は玄関先へと向かい、チェーンを外し、鍵を開けた。扉を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた天海さんが立っていた。そして地面には、段ボールいっぱいのリンゴが詰め込まれていた。これ全部私にくれるのだろうか?こんなに食べきれるはずがない。
「如月さん、久しぶり!入っていい?」
 私は少し困惑した表情を浮かべながら、首を縦に振った。
「じゃあ、お邪魔します!」
 そういうと彼女は、段ボールを重そうに抱えて中に入った。
「どこか置いていいところある?」
 1LDKの室内に入った天海さんは、段ボールの置き場所を求めていた。私はとっさにスーパーの広告チラシを取り出して、そこに置くように目で指示をした。
「じゃあ、ここに置くね。よいしょっと。」
 ドスンという音とともに、リンゴが地面に置かれた。
「如月さんの部屋、意外に広いんだね。」
作品名:『ともだち』 作家名:ミスターN