螢
霓凰が螢を見に行くためについた嘘が、上手くいって、今回はバレなくとも、いずれはきっと、私と霓凰が、少しの会話も許されなくなるような事案が起こるだろう。
たまたま、今で、霓凰の計画が先だっただけだ。━━━━
「都は噂が広まるのが早い、悪い噂に変わるかもしれぬ。少し早まったな。」
「私に相談してくれれば、止めたものを、、、、。」
━━━━???止める???。状況も、私達の気持ちも知っていて、コイツはなんで私達が二人だけで行った気持ちが分からんのだろう、、、、━━━━
景琰が林殊をちらっと見て、林殊と目が合ってしまった。
目を丸く見開いて、じっと自分を見つめる林殊から、景琰は目が離せなくなってしまった。
「なんだ、、そんな顔をして、、。私は何か間違ったか?」
景琰が聞く。暫く間を置いて、林殊がぼつりと言う。
「、、、、、、いや、何も間違ってない。正しい、、、、、。」
「、、、景琰、、、、。」
「お前、好きな人っている??」
突然聞かれ、景琰は狼狽えてしまった。
「、、、、、今、関係ないだろう。」
「そうか、いるんだ。そうだよな、いるよな。」
━━━━で、、、なんで、分からないんだろう、、、。
そんなに好きでもないのかな。━━━━
「どんな娘??てか、誰???」
どうやら、景琰の想い人に興味を持ってしまったようだ。
「今は小殊の話をしてるんじゃないか、なんで私の事になる??」
「ああ〜、分かった分かった、よし、じゃ、当てるからな。」
興味津々で、景琰の言葉などは、耳に入らなくなってしまった様である。
「え──と、そうだなぁ、、その性格から、妓女ってことは無いよな。」
「周辺国の公主ってことも無さそうだしな、、、、。」
「権力闘争とか、する気も無さそうだから、寵臣の令嬢ってのも、、、、ん────、無いな。」
景琰の顔色を見ながら、可能性を潰していく。
「おいっ、、、私の話も聞け!。」
「だったら、静嬪の所の官女か?。、、、暫く行ってないから、分からないや、、。」
「探るな!!」
「誰がいたっけか、、、、。」
林殊が勘繰りを入れている間に、靖王府の兵士が書房に現れる。
文を景琰に渡して去っていった。
兵士が部屋にいたのはわずかな間だったが、林殊は隠れようともせず、堂々と部屋にいた。
景琰が、文を開ける。
「小殊、太皇太后からだ、お前にだぞ。」
「おばあ様から??なんて?」
「知るか、自分で読め。」
景琰から文を受け取り、ふと、林殊は何かに気が付いたようだった。
「あれ??なんで靖王府に私宛の文が届くんだ??。」
「景琰、バラした??」
「wwwwww。」
口には出さないが、大人しく謹慎など林殊がしない事も、その間何処にいるのかも皆分かっているのだ。
景琰は、太皇太后からの文のおかげで、林殊の頭が景琰の想い人から離れたようで、内心ほっとしていた。
いくら、気心の知れた友とはいえ、こんな風に探られるのは嫌だった。
今回は答えから程遠い所に行ったが、林殊は言葉尻と顔色から、隠しておいた心を読み解いてしまうのだ。
本人に悪気は無いのだが。
太皇太后からは、直ぐに太皇宮に来る様に、という内容の文であった。
━━━━もう昨日の出来事が、おばあ様の耳にまで入ったのだろうか。━━━━
いつもは味方になってくれ、太皇太后に叱られた事などなかったが、さすがに、この一件は見過ごす事が出来ずに、遂に叱られてしまうのだろうか、、、。。
事実がどうであれ、悪いのは林殊にしか見えないのだ。
他の誰に怒られても何とも無いが、太皇太后からのどんな言葉でも、きっと物凄く落ち込みそうな予感がする。
だが、呼ばれたのならば行かねばならない。
太皇太后は、林殊が誠実でありたいと思う、大切な人の一人なのだ。
先延ばしにしても、なにも解決はしないのだ。
太皇太后に叱られ、父 林燮に叱られ、それで終わり。
林殊は、一人、王宮に向かった。
いくつもの門をくぐり抜けて、太皇太后の居る、太皇宮の外階段の前まで来た。
「林殊哥哥─────。」
霓凰の声だった。
霓凰は階段の上にいる。林殊は駆け上がって霓凰の側まで行った。
「林殊哥哥。」
霓凰も呼ばれていた様で、一足先に来ていたのか、、、。霓凰は泣きはらした様な目をしていた。
━━━━昨日の伝言は伝わらなかったのか、、、、。
、、、伝わったとしても、、霓凰は泣くだろうな、、、、。
泣き虫なのだ、霓凰も、、、、。━━━━
ここで会えたのが嬉しいのか、霓凰は笑っている。
「哥哥、行こう。」
霓凰に手を引かれて、太皇宮の中に入った。
どういう訳か、近衛の兵士も官女もいなかった。
「おばあ様。」
遥か壇上の太皇太后を見上げ、林殊は礼をする。
「おやおや、今日は元気が無いわ。」
「それもそうね、また、騒ぎを起こしたのだものね。」
太皇太后は笑っていた。
「今度の騒ぎは、堪えたと見えるわね。」
林殊は黙って下を向いていた。その様子を見て、太皇太后はからからと笑うのだ。
林殊は太皇太后が笑っているのが好きたった。全てが小さい事のように思えるからだ。
「小殊、霓凰。」
穏やかに話し掛ける。
「このおばあ様が、そなた達、二人の縁を結んであげましょうかね。」
驚いて林殊は太皇太后の顔を見上げた。
「他の誰にも結べない縁を、この私ならば誰にも害が及ばぬように、まーるく結べるわ。」
横にいる霓凰に視線をやれば、霓凰は林殊を見ていた。そして霓凰は大きく頷いた。
霓凰はもう、先にこの話を聞いていたようだ。
「二人共、こっちへいらっしゃい。」
手招きされて、段を上っていき、太皇太后の目の前に並んで跪いた。
「長く、長く、私は生きて来たけれども、決して楽しい事ばかりではなかったわ。」
思い出すのも辛そうに、一言一言を吐き出すようだった。
「皇族であれば、勝手に婚姻は決められないわ。」
「でも、惹かれ合うのは止められぬものよ。」
「そんな恋慕の情を幾つも見てきたの。」
「慕い合っても、国との関係や国政の立場に支障があって、皆思いを遂げることは、皆叶わなかったのよ。
中でも、あの孫のことよ、、、。
隣国の皇子と、、、、。とてもお似合いの二人だったわ、、、。なのにやはり叶わずに、。
私に助けを求めて来たというのに、、、私はどうすることも出来ずに、、、。」
「私は太皇太后などという称号を持ち、人から崇められようと、何の力もなくて、ただ見ている事しか出来ないの。何も出来ないお婆さんなのよ。」
「でもね、あなた達の事なら、私が何とかしてあげられるわ。
私が結んだ縁ならば、陛下ですら文句をつけられないでしょう。」
「さあ、そなた達の手を出してちょうだい。」
二人が手を差し出すと、林殊と霓凰の手を重ね合わせ、そして太皇太后は自分の両手で、二人の手を包み込んで、ゆっくりと二人の顔を交互に見た。
「そなた達が思い合っているのは、都中、誰もが知っているわ。
そなた達が結ばれるのは、この私の願いよ。」
「叶えてやれなかった孫達への、罪滅ぼしなのよ。」
太皇太后の眼から、ほろと一筋涙がこぼれ落ちる。
「霓凰を大事にします、、、おばあ様、、、。」
林殊が、約束をする、、太皇太后はうんうんと、何度も頷いた。
「おばあ様、、、、。」