Lovin 'you after CCA 5 〈後編〉
「あ…ジュドー。この人、基本的には自分で動きたい人なんだ。勘弁してやって。」
そうだ。アクシズでの作戦時も自らモビルスーツで出撃するような人だった。今思えば普通あり得ない。
トップ自ら出撃なんて…本当にあれは隊長と決着を付けたかっただけなんだ。
その為にあんな大掛かりな事を…。
ジュドーはガックリと肩を落とす。
「それに今回、私がここに来たのはカイルの指示だ。」
「カイルの指示って…。!まさか総帥自ら囮になる気かよ!?」
「ふふん。流石にバカではないな。」
ニヤリと笑うシャアにジュドーは開いた口が塞がらない。
そして、そんなシャアの横では護衛のギュネイがはぁっと大きな溜め息をつく。
「それよりもお前にやってもらいたいことがある。」
シャアはジュドーに指示をするとアムロの側に足を進める。
「アムロ、君は無理をするな。まだ昨日の疲れが取れていないだろう?それに少し熱もある…。」
そっと頬に触れながらアムロを優しく見つめる。
「大丈夫だよ。貴方も気を付けて。」
「ああ、任せておけ。」
優しく、触れるだけのキスをする。
唇を離して目と目を合わせた瞬間、シャアが思い切りアムロを抱き締める。
「シャア!?」
「本当に気を付けてくれ、もしも君を失うような事があったら私は何をするかわからんぞ。連邦政府に全面攻撃を行うか、今度こそ地球を人の住めない星にしてしまうかもしれない。」
「…総帥…、それ冗談に聞こえないから。」
「冗談ではないぞ」
溜め息混じりに呟くジュドーにシャアがサラリと答える。
「あー、はいはい。分かってますよ。この命に代えても隊長を守ります!」
「うむ、ジュドー・アーシタ。頼りにしている。さあ、そろそろ時間だ。皆、配置に付け!」
「「了解!」」
爆音と共にテロリスト達が病院へと突入してくる。
カイルの予想通り、ロビーを占拠するグループと病棟のアムロを攫うグループが同時に押し寄せた。
ロビーでは患者とスタッフを人質にテロリスト達が要求を訴える。
そして、アムロの病室にも数人のテロリスト達が乱暴に扉を開けて現れた。
「お前がアムロ・レイか?」
銃を構えた一人の男がアムロに近寄ると顎を掴んで上向かせる。
「何だ!?お前達は何者だ?」
「俺の質問に答えろ!」
銃を突きつけて男が叫ぶ。
アムロは小さく溜め息を吐くと、男を睨めつけながら答える。
「そうだ。私がアムロ・レイだ。」
そんなアムロを男がフンっと鼻で笑う。
「本当に生きていたとはな。それに女でシャア・アズナブルと出来てるって!?はじめに聞いたときは冗談かと思ったぜ。」
舐め回すように見る男をアムロが睨みつける。
「ふん。流石は白い悪魔だな。良い度胸だ。この状況でも睨みつける元気があるとはな。」
「私をどうする気だ?」
「さぁな。俺はあんたを舞台まで連れて来いって言われただけだからな。」
「舞台?」
「ああ、あんたの正体をネオ・ジオンの民衆の前に晒してシャア・アズナブルを総帥の座から引き下ろしたいんだとよ。」
「誰が?」
「…と、その手には乗らないぜ。あんたはただ俺たちの命令に従ってりゃ良い。大事な人質だ。馬鹿なことしなきゃ殺しゃしないよ。」
「分かった。…あなたにはそれ以上の情報は教えられていないんだね。」
アムロはそう冷たく告げると、銃口を掴みシーツの中に隠し持っていたスタンガンで男を気絶させる。
同時に病室内に潜入して来たテロリスト達もジュドー達によって一瞬で倒された。
「隊長、流石!でもさぁ、もっと女っぽく「きゃあ」って叫び声くらい上げても良かったんじゃないの?」
「はぁ?馬鹿なこと言ってないで準備しな!ジュドー。」
「はーい」
その頃、ロビーではテロリスト達が患者や病院スタッフを人質にして立て籠っていた。
そして、シャアをこの場に連れて来るように訴える。
「シャア・アズナブルをここに連れてこい!あいつはネオ・ジオンを裏切っている!!ネオ・ジオンの民衆は騙されているんだ!あいつはただの独裁者だ!スペースノイドの為だと言って隕石を落として大量殺戮を行なった殺人者だ!」
そして、そこにテロリスト達に囲まれ車椅子を押されたアムロが姿を表す。
その様子をテロリストの一人がカメラで撮影している。
テロリスト達はこの騒ぎをスウィート・ウォーター内にリアルタイムで配信していたのだ。
「シャア・アズナブル!この映像を見ているか?この女が誰だか分かるな?この女の命が惜しければ今すぐにこのセントラル病院に来い!」
アムロは銃を突きつけられた状態で、他の人質達からは少し離れた所でテロリスト達に囲まれている。
その様子をニヤリと見つめる男達がいた。
ブラウン大佐率いるニュータイプ研究所の連中だ。
その視線を感じてアムロがビクリと肩を震わす。それは過去に感じた事のある禍々しい視線。自分をモルモットとして扱い、非道な実験を繰り返した悪魔達のものだ。
怯えたように身体を竦ませるアムロをテロリストに扮したジュドーが見つめる。手を取って安心させたいが今の状況では出来ない。
ジュドーは気付かれないように不快な視線の方向を見据える。
『あいつら絶対に許さない!』
その様子を、離れたところで見守っていたアルの元にカイルから連絡が入る。
《アル、病院スタッフ内の内通者が判明したよ。騒ぎ後の行動を監視カメラで確認したから間違いない。データを送ったから確認して。確保は特殊部隊に指示済みだからアルは他のスタッフへの対応をお願い。》
「了解」
アルが端末を操作しながらリストを確認する。
そして、一人の名に目を留める。
《それから…アルの言っていたあの人もやっぱりそうだったよ。双子達の避難場所がバレてるかもしれない。》
「まずいな。了解。僕は双子のところに行くよ。」
《うん。よろしく》
双子達は沐浴させるからとハンナとは引き離し、他の看護師に依頼して別の部屋に移動させた。
しかし、混乱を避ける為、詳細までは看護師達に伝えておらず、もしかしたらハンナに場所を教えてしまったかもしれない。
ハンナを信じたい気持ちもあった。だから敢えて口止めしなかった。けれどアルのその淡い期待は打ち砕かれてしまった。
その危機を別の場所にいたライラも感じ取る。
「カミーユ、双子が危ないわ。」
「え?」
「今、アルが向かってくれてる。間に合えば良いけど…。」
感知能力の高いカミーユとライラは別室で病院内の状況をトレースして危険を逐一カイルや皆んなに伝えている。
「僕たちも向おう。」
「ううん。お兄ちゃんが此処にいるようにって。」
「カイル君が?」
「うん。此処で爆弾が他に仕掛けられていないか確認してって。それからロビーで人質になってる人の中にテロリストの仲間がいないか確認してって。」
ライラは小さな掌をギュッと握りしめ、小さく震えながらも意識を集中させている。
両親や生まれたばかりの弟達が命の危険に晒されているのだ。きっと心配でならないのにカイルに言われた事を必死に守ろうとしている。
カミーユはそんなライラの頭を優しく撫ぜるとライラに微笑む。
「そうだね。俺たちは俺たちの役割を全うしなくちゃね。」
二人の透視でテロリスト達が仕掛けた爆弾の場所を特定し、特殊部隊が解除していく。
作品名:Lovin 'you after CCA 5 〈後編〉 作家名:koyuho