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ぼくらの日常

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「こんな傷作って、人のこと言えないんじゃない?」
 カイジはかっとして、アカギの手を振り払った。
「るせー、事情も知らないくせに」
「ごめん、怒った?」
 アカギは何故カイジが機嫌を損ねたかわからないらしく首を傾げた。
「じゃーな、帰りにあいつらに見つからないように気をつけろよ」
 カイジも自分の傷について説明する気はなく、今度こそアカギに背を向けた。


「……カイジさん、カイジさーん」
 前の席に腰かけて、同じクラスの佐原が寝ていたカイジを突き起こした。
 佐原は同い年だが、何故かカイジに対しては敬語だ。それ以外に関しては実に馴れ馴れしいものだが。
「カイジさん、校門の前、何かヤバそうな連中がいるんすよ」
「え?」
 自分には関係ない、と思いながら窓を覗いて、カイジは青ざめた。
 この間の連中だ。
「うわっ……」
「え、何か心あたりあるんスか? やっちゃったんスか? マジでマジで?」
 思わず呻いたカイジに佐原はぎゃはははは、と笑いながら手を叩いた。
 窓越しにも見つかりそうな気がして、鞄で身を隠す。
「何やったんすか、カイジさん。マジやばいっしょアレ。あんな連中相手に何かしでかしたなんて、カイジさんマジうけんだけど」
「るせー……俺は何もやってねーよ!」
 小さな声でわめいたカイジに、戸口のところから声がかけられた。
「嘘。飛び蹴りしたじゃない。綺麗に決まったよね」
「お、お前……」
 そこに立っていたのは、赤木しげるだった。
「あ、赤木しげるだ。カイジさん、いつの間に知り合ったんですか?」
 カイジに対してなされた佐原の問いに答えたのはアカギだった。
「ついこの間、ちょっとね。同じ学校なのはわかってたけど、探したよカイジさん」
 アカギはするっと教室に入ってきた。
「なんでオレの名前……」
 確か別れた時には名乗らなかったはずだ。カイジが不思議に思っていると、アカギは佐原を指さした。
「名前は今知った。名字の方は、あんたの風体を聞いて何処のクラスか聞いてるうちに。本当は礼をしたかったんだけど……どうする、カイジさん」
 ちょんちょん、と窓の外をアカギは指差す。
「お、オレは関係ないだろ……?」
「さぁ? 連中がどう思ってるかは、オレは知らないね」
 アカギの答えに間髪をいれず、外から大きな声が聞こえてきた。
「赤木しげるくーん、伊藤開司くーん、あっそぼうぜー」
 ぎゃはは、ぎゃははは、と下品な笑い声を上げながら、彼らはカイジたちが困ることを見越して大声で騒いでいる。
「な、なんで……オレ、関係な……」
「……飛び蹴り、したんでしょ?」
「それにその髪、目立つからね」
 金髪と白髪の波状攻撃に、カイジはガタリと立ち上がった。
「お、お前らに言われたく……」
「あっかぎくーん、いっとうくーん……!」
 再び名前を叫ばれて、カイジはびくっと飛び上がりそうになった。
「カイジさん。呼ばれてる」
「い、嫌だ……なんでオレまで……」
「どっちみち、これだけ騒がれたら後で呼び出しは喰らうだろうなー……」
 ぼそっと佐原が呟いた。
「うっうぅ……」
「あの連中に付きまとわれるのも面倒だ。行こうぜ」
 アカギは遊びに行こう、とでも言うように軽くカイジを誘った。
「いってらっしゃーい」
 ひらひらと佐原が手を振る。
「て、てめぇ……他人事みたいに……」
「だって他人事ですもん。生きて帰ってきてくださいね。カイジさん居なくなったら、俺寂しいんで!」
「じゃあ、オレも一緒に行きますぐらいのこと言えよ!」
「嫌ですよ。オレ平和主義者ですし」
「ほら、行くよ」
 今度はアカギに手を掴まれて、カイジはずるずると引っ張り出されることになった。


 案の定校門まで行くと、集まっていた連中と教師たちが小競り合いになりかけていた。
「だーかーらー、オレたちは赤木しげるくんと伊藤開司くんのお友達なわけ。なぁ」
「そうでーっす!」
 リーダー格の男が振ると集まった連中が肯定し、何が楽しいのか笑っている。
「そうですよ、先生」
 アカギは、ぽんと不良たちと交渉をしていた教師の肩を叩いた。
「彼らは俺のことを迎えに来てくれただけです。ね?」
「てめえ、アカギィ……」
 先ほどまでの教師たちを小馬鹿にしていた態度からは一転、アカギを睨みつける男たちに不穏な空気が流れる。
 ……帰りたい、とカイジは切実に思った。
「友達が遊びに行こうって誘いに来てくれたのに、何か問題があるんですか?」
 アカギが首を傾げると「しかし、そうは言うがなぁ」と教師たちはごにょごにょ言いながら引き下がった。教師だって人間なのだから、武器を携えた集団と相対したいなどとは思わない。
「ほら、行こうぜ。下校する連中の邪魔だし、ここにたまってちゃ先生方のお仕事の邪魔にもなる」
 にぃ、とアカギは不良たちに凄絶な笑みを見せた。その表情に、隣にいたカイジも逃げ出したいと思う。
 どうにかして教師が救いの手を差し伸べてくれないかと思ったが、教師たちは被害者側だろうアカギがそういうのなら、と引き揚げ始めてしまっている。
 ……おい、無責任だろ! どう見たって友達なんかじゃねーだろうが! 少なくともオレはこいつらと友達になったつもりはねえ!
 カイジの心の叫びもむなしく、カイジも不良の取り巻きに囲まれた。どうやら逃げ出すわけにもいかないらしい。
「……くそがっ」
 覚悟を決めてカイジは拳を握りしめた。


「だらっしゃぁあああっ!」
 もう拳に力も入らず、組んだ両手を振り回して最後の一人を沈めると、カイジはひぃひぃ息をつきながら額の汗をぬぐった。
 こんな河原で喧嘩なんてまるで青春ドラマだ。笑える。と一人自嘲する。もっとも、こんなところで二対多数になるのであれば、おそらくその二人は親友か何かだろうに、まだカイジとアカギは出会って間もない。
「嫌がってた割にやるじゃない」
 アカギは血まみれのまま、くっくと笑った。アカギが流しているように見える血の大部分は返り血だ。
「るせー……降りかかった火の粉は払わなきゃならんだろうが……」
「ま、そうだよね」
 アカギは軽く言って煙草を取り出すと、ひと吸いふた吸いしてリーダー格の男の頭に身をかがめた。
「……で、まだやるの? オレは別にそれでもかまわないけど」
 吸いさしの煙草を顔に近づけられて、不良のはずの男はひぃっと悲鳴のように喉を鳴らした。
「やらねえ、やらねえよ……化け物が……!」
「あらら、ひどい言われよう……」
 アカギはくっくっくと肩を揺らして愉快そうに笑った。あれだけの数を相手に大立ち回りを見せておいて息ひとつ乱していないのだから、確かに化け物だよ、とカイジは呆れた。
「じゃ、行こうよ。カイジさん」
「あ、あぁ……」
 アカギに促されて立ち去ろうとして、ふと倒れている連中を振り返ると、川の向こうに大きな太陽が沈みかけ、空を赤く染めていた。
 ……どこの青春映画だ。


「いてててて……」
「大げさだな」
 手当を手伝わせるつもりで家に連れてきたが、アカギは不器用かつ乱暴だった。
 そんなわけで、カイジは自分の手当てを鏡を見ながら自分でするしかなかった。
「それで、なんでお前はそれしか怪我してねーんだよ」
作品名:ぼくらの日常 作家名:千夏