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バウムクーヘンの正しい食べ方 (仮)

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「あのあとの……そして、これからの君の隣にいられるのは自分だけだろうと、少し自惚れていた」
 10年間、心の奥底で抱き続けた想い。彼女を部下として迎え入れてから数年でより強くなった決意。
 長年言葉にできなかった気持ちは、梶山が思うよりずっとスムーズに、その口から零れ落ちた。

「ありがとう。梶山は、いつも私を支えてくれてたよ」
 夫の死の真相を探る勇気をもらった時。それが明らかになった時。酷似した男と対峙し、乗り越えられた時。いつも隣にいて、不器用で乱暴な優しさを注いでくれたのは、梶山だった。

「梶山といると、匡との楽しかった思い出を共有できるし、それは私にとって、すごく幸せなことだと思う」
 心のざわめきとは裏腹に、ここには、とてもとても、穏やかなものが流れている気がした。
 真壁の優しい表情が、梶山にそう感じさせるのか。ただ清流に身を任せるような、温かくて柔らかなものが、背中を包む。
「けど……それだけじゃ、生きていけない」

「あなたといると、私はずっと、あなたと一緒に匡との思い出をなぞることしかできない」
「ああ……」
「それは、とても、苦しいことだから」

 もう、やめてもいいよね、と。
 いつまでも過去に縛られて生きていると思った女は、未来を選んだ。



「管理官、これからも、よろしくね」
「ああ」

 穏やかな表情を引き締めた真壁につられるように、梶山も上司の顔に戻り、力強く頷く。
 何も変わらない、いつもの二人に戻るために。

 そうだ、と小さく声をあげた梶山は、部屋を出ようとした真壁の背中を引き留める。
「上司のスピーチが必要なら言えよ。遠慮するな。お前が拳銃を構えた犯人の前に飛び出した話だって、なんだってしてやる」
「ちょっとやめてよ……! いい歳だし、2回目だし、そんなことしないってば」

 大好きだったはずの真壁の無邪気な笑顔が、今の梶山にとっては、思わず目を細めてしまうほどに眩しく、痛く刺さるものだった。