君のためなら
「歳ですか? カークランドさん、やっぱりお若いですね。私は27です。いいなあ、羨ましいです」
やっぱり年上だった。
かあと顔が熱くなる。
「す、すまなかった。歳上だとは思わなくて、言葉遣いが、その」
「ふふ。気になさらないでください。私、童顔ですし、体型も大人っぽくないでしょう? ですから、フランクに声を掛けてくださる方が多いのですよ。そうでなくても、カークランドさんらしくて好きですよ。その話し方」
本当に、困る。あんまり、火を焚き付けないで欲しいものだ。
「……すまなかった」
「そのままで、構いませんからね。その方が、私も嬉しいです」
「仲がいい感じがして」と笑う彼女は、どうしてみても可愛い。けれど、あいつに、アルフレッドに見せる笑顔と同じなことが、惜しいと感じた。
「そろそろ戻るよ。あんまり長居してもな。本田も風呂入るんだろ?」
「あ、はい。そうですね」
あ、少しだけ、顔が曇った。そんなふうにされると、期待してしまうじゃないか。
カップを洗うと申し出たが、断られてしまった。まあ、あんまりうろうろされたくないか。
玄関まで見送ってくれた。靴を履いて、振り返る。
一つだけ、まだ残してることがあるからだ。
「――部屋に入る前にどうして戸惑ってるか、聞いてもいいか?」
しん、と静寂が落ちてきた。玄関口のオレンジの光の下、動揺した瞳を見たが、瞬きの間に、本田は消してしまった。
「なんのことですか?」
艶やかな黒髪の上に疑問符を浮かべてみせる。
「……いや。じゃ、またな」
答えないなら、答えたくないなら、触れるべきではないのだろう。知り合えたことに浮かれすぎたかもしれない。知り合えただけで、名前を交換しただけで、俺たちはまだ、他人だ――
to be continued.