二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

DEFORMER 9 ――オモイコミ編

INDEX|6ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 士郎を隣の部屋へと連れ込み、いまだ呆然としたままの士郎のシャツを脱がせる。
「なに……して……?」
「供給だ」
 ぱちくり、と瞬いた士郎は、
「っざけんなっ!」
「っぐ!」
 側頭を殴りつけてきた。
「なんだ」
「するか! 大ばかやろう!」
 脱がせたシャツをさっさと着て、士郎は私を置いて部屋を出て行く。
「ま、待て! 士郎、供給をしなければ、このまま、」
「消えちまえっ!」
「な……」
 なぜ、そんな無慈悲な言葉が吐ける……。
 好いた男が困っているというのに、放置なのか?
「待て! 士郎!」
 廊下を歩く士郎が振り返る。凛が私を押し込めた老犬を腕に抱えている。
 ぐううぅぅ。
 老犬が私に唸った。まるで士郎の代わりに唸り声を上げているようだ。
「待ってくれ、士郎、話を、」
「魔力なら、遠坂にでも頼めっ!」
「なっ! 私のマスターは、士郎だろう!」
「都合のいい時だけマスター扱いとか、やめてくれませんかね」
「な、こ、このっ」
 なんだ、その口のきき方。
「士郎、」
 また背を向けて歩き出した士郎に続く。
「うるさい」
「このままでは、」
「知りませんね」
「っ、悪かった!」
 足を止めた士郎は、老犬を下ろし、やっと振り返る。
「じゃあ、これでいいだろ」
 その手に握られていたのは投影したナイフだ。
「っ、やめろっ!」
 士郎の腕に刺さる前に刃を握って止めた。
「何をするつもりだっ!」
「離せよ。供給なんて、できないだろ」
 低く呟く声に、ぎくり、とする。
「あんたがどういうつもりで現界しようとしてるのか知らないけど、可能性の低い直接供給よりも、こっちの方が手っ取り早い。魔力切れ寸前なら、なおさらだ」
「私は、士郎の傍に――」
「これ以上、あんたに振り回されんのは、うんざりだ」
「……すまない、私は、」
「結局、あんたは、同情しただけだろ。俺がこんな身体になって、可哀想だとでも思ったんだろ! ふざけるな! 俺は、そんなもの、要らない! とっとと、座に還れ!」
 反論など、浮かばなかった。士郎の腕とナイフから手を離す。
「……わかった。二日もすれば消えるだろう」
 踵を返し、士郎の前から立ち去った。


「は……」
 衛宮邸の母屋の屋根でため息を吐いた。
 今さらわかっても仕方がない。
 なぜ、あの魔術師の前での脈動が、真実だ、などと思ったのか。
 自身の想いを疑うだけならまだいい、私だけの問題だからな。
 だが私は、士郎の想いさえも否定した。恋人だと言った私のことなど、もうなんとも思っていないと……。
(そんなわけがないというのに……)
 私は士郎を傷つけただけだ。
(恋人だと言い、ずっと一緒にいると約束し、それが私の気持ちではなかった、などと言われて、士郎はどんなにか……)
 あの時の自分の息の根を止めたい。
 あんな理不尽極まりないことを言った私に驚く間も与えられず、何も反論もせず、ただ私の言い分を尊重して……、士郎はあの時、どんな気持ちで笑みを浮かべたのか……。
 そんな士郎の心遣いすら私はおかしな方へ勘ぐって、所詮は、私への想いなど、たいしたものでもなかったのだと決めつけてしまった。
 私は、己のことばかりで、士郎の気持ちなど欠片も考えていなかった。士郎が何も言わなかったのは、私が言わせなかったからだ。士郎の気持ちも考えも聞く耳を持たず、一方的に士郎に事実だけを突き付けようとしたからだ……。
 身体が反応したのだと、この肉体の持ち主の手記があったのだと、鬼の首を取ったように、私はなぜ、あんなに躍起になってしまったのだ……。
 蜩の声が聞こえる。
 物悲しくて、嫌になる。
 夏が終わる。
 夏休みもあと数日。
「っ…………」
 こんなところで、私は、何をしているのだろうか……。
 士郎がゴミとして纏めたパンフレットやチラシの束。
 夏休みの間に行こうと話していた場所。
 花火にも、祭りにも、墓参りにも行こうと約束した。
 何一つ、守れていない。
 どこにも行っていない。
 夏が終わる。
(終わってしまう……)
 何も……、約束一つ守れず、守りたかった士郎すら傷つけたままで。
(私は座に還るのか、このまま……)
 赤く染まった空を見上げることもできず、蜩の声をいつまでも聞いていた。



***

 赤い外套が翻った。
 その背中は、俺が見ていたいと思っていた、ずっと、好きだと思っていた背中だ。
 その姿が見えなくなって項垂れた、というか、中腰で両ひざに手をついて、身体を支えた。
「……っぅ……っ……」
 膝に手を置いたまま、顔が上げられない。
 どうしてここにいるんだとか、疑問も浮かんだけれど、何よりもただ、またアーチャーの姿を見ることができてうれしい。
(消えて……なかった……)
 もう二度と顔を見ることも、声を聞くことも、温もりを感じることもできないと思っていたのに、アーチャーはまだここにいる。
 あふれた涙は、止めようがなかった。
「……っ、ひっ……っ……っく、……ヒっ……、っ……」
 しゃくりあげて、片手の甲で口を押さえて、声が漏れるのを塞いだ。
 本当は声を上げて、子供みたいに泣きたいと思った。だけど、そんなことをしたら、アーチャーを驚かせてしまう。それに、泣くのは、卑怯だ。アーチャーは優しいから、大声で泣いたりしたら、変な責任を感じてしまうかもしれない。
(どうしよう……)
 ひくひくと喉をひきつらせながら、やっと身体を起こした。
 アーチャーが座に還っていないのはうれしい。だけど、俺には供給なんて……。
(二日ほどでって……)
 アーチャーの言葉を思い起こす。二日もすれば消えるって、確かにアーチャーは言った。
 アーチャーを失う結果は、いまだ目と鼻の先にある。少し時間が延びただけで、なんら状況は好転していない。
 足元で、わふ、とクロスケが一声鳴く。
「ああ、ごめ……、お腹、空いたか?」
 その頭を撫でれば、ぺたりと耳を後ろにつけて尻尾を振ってくれる。
(あれ……?)
 さっきまでと反応が違う気がする。
(なんだ? なんか……)
 首を捻りながら居間へと向かった。
 クロスケにドッグフードを差し出すと、かつかつかつ、と勢いよく食べている。
「違う……」
 全然食いつきが違う。それだけじゃない、なんだか、表情も……。
 いや、犬に表情って俺にはわからないけど、さっきまでと全然……。
(もしかして、アーチャーは、こいつの中に……とか?)
 目の前のクロスケが、明らかにさっきまでのクロスケと違うとわかった。
 さっき、貝殻を咥えて、俺を見上げていたのは確かにクロスケだった。
(だけど、あれは、アーチャーだったんじゃ?)
 自分がおかしな考えに至っているとわかってる。
 だけど、目の前のクロスケは全然違うし、座に還ったと思っていたアーチャーが、霊体でずっとこの家にいたっていうのも信じられない。
(アーチャーは、今まで霊体でいたんじゃなくて……?)
 ここに来たときのクロスケは、今と変わらなくて、ちょうどアーチャーが消えたころから、なんだか元気がなくなって、ごはんも食べなくて……。
「じゃあ……」
 夜中に俺の布団に入ってきたのは……、アーチャー?