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DEFORMER 10 ――オモイシル編

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 士郎は私を気遣ってくれていた。私が自分の感情ではないと言ったから、士郎は自身の想いなど押し付けてはいけないと、きっと、ずっと、冷えた手を握りしめて……。
「どうして……だろうな、セイバー……、私は……、後悔ばかりをしてきたというのに……、まだ、飽き足りないようだ……」
 自嘲の笑みが浮かぶ。
 許されないことをした。
 実際、士郎には許さないと言われた。
「アーチャー、あなたの気持ちは……、わかりたくもありません……、ですが、もう少し、器用になってください」
 セイバーの哀願が耳に痛い。
「そう…………っ……だな……」
 目が霞む。本当に、まずい。流れ出る魔力を留めることができない。
「アーチャーっ!」
 士郎の声が聞こえた気がする。
(幻聴とは……な……)
 もう消えるのだろうな、私は……。
 結局、約束は、何一つ守れずじまいだった。せっかく士郎が百歩譲ってくれたというのに……。



***

 始業式が終わって帰ってきても、居間には誰の姿もない。
「おっかしいな? セイバーとアーチャーはいるはずなのに?」
 セイバーは道場で瞑想でもしてるのかもしれない。
「アーチャーは、買い物か?」
 そんな疑問を浮かべながら、自室へ向かう。ふと庭に人影が見えた。
「なんだ、二人とも庭に……」
 様子がおかしい、アーチャーが地に膝をついた。
(なんだって武装して……?)
 疑問を浮かべる間に状況が変わった。アーチャーの脇腹から流れ落ちた血が庭土を赤く染めている。脇腹を濡らしているものが、黒い装甲だからすぐにわからなかった。
 真っ赤に染まった土を見て、血の気が失せた。
「っ……、アーチャーっ!」
 縁側から跳び出し、靴下のまま駆けた。
「アーチャー!」
「シ、シロウっ?」
 セイバーが俺を認めて目を丸くしている。
「なんで、アーチャー、何が、」
 膝をついたアーチャーは意識を失ったのか、俺の方に倒れてきた。脇腹からは血が流れ出ていくばかりで、傷口を押さえたものの止まらない。
 何があって、こんなことになっているんだ?
 喧嘩なのか?
 アーチャーがセイバーと本気で喧嘩なんてするとは思えない。何か原因があるんだとしても、ここまでするのは度が過ぎている。明らかにセイバーに非があると思う。
「なに、したんだっ、」
「シロウ、その、」
「アーチャーに、なんで、こんなこと、するんだッ!」
 セイバーを見上げ、睨みつける。アーチャーの魔力が現界ギリギリの量だってことはセイバーも知ってるはずだ。なのに、セイバーは剣を持って、武装して……。
 魔力満タンのセイバーにとって今のアーチャーなんか、デコピンでも倒せると思う。
「シロウ、わ、私は、」
 慌ててセイバーは何か言おうとしたけど、セイバーの言い分を聞いてる暇はない。
「傷を塞いでくれ!」
 セイバーの事情を聞くより前に、アーチャーの手当てが先だ。
「あ、は、はい!」
 セイバーが傷口に手をかざすと、次第に傷が塞がっていき、裂けた装甲も元に戻っていく。
「……っ」
 意識のないアーチャーを、俺は抱きしめていることしかできない。
 俺はアーチャーのマスターなのに、傷すら塞げない。悔しさに唇を噛み締めていることしかできないことを思い知る。
「シロウ、私は、我慢がならなかったのです……」
 ぽつり、とこぼれたセイバーの声に、返答ができなかった。俺が何も言わないから、怒っていると誤解した彼女が、シュンとしたのがわかっていても、声が出ないんだから仕方がない。
 頭の中は、失いたくないってことでいっぱいだった。
 失いたくないのに、俺が未熟なせいで、アーチャーを留めることすらできていないことを、嫌でも実感した。
 今、遠坂の協力がなければ、とっくにアーチャーは魔力切れで座に還っている。
 自分自身に悔しさが湧く。アーチャーを現界させることもままならないんじゃダメだ。アーチャーと一緒にいたいのなら、こんな未熟者では……。
 セイバーがアーチャーの傷を塞いでくれて、ほっとしたところに遠坂が帰ってきた。
「ただいまー、何してるのよ、そんなところでー? お昼ご飯はー?」
 縁側で遠坂が手を振っている。天の助けとばかりに叫んだ。
「と、遠坂! ま、魔力! 魔力の、補充、」
「はい?」
「シロウ、とにかく中に運びましょう」
 言って、セイバーは、アーチャーを軽々と肩に担いだ。
「え……」
「どうしました?」
「えっと……、いや……、なんか……」
 アーチャーが、ちょっと不憫だった。

「それで、セイバー……、やっちゃったのね」
「はい」
 いい返事をするセイバーを、じとり、と見据える。
 セイバーの治癒力と遠坂の魔力補填で、アーチャーは、今は眠っているだけだ。夜には目を覚ますだろうって遠坂は言う。
「なんだって、アーチャーと喧嘩なんか……」
「喧嘩ではありませんよ、シロウ。あれは、私の異議申し立てです」
 どこに剣を振り回して異議申し立てをする人がいるんだろうか……。
「当然の報いです」
 つん、としてセイバーは言い切る。
(ああ、ここにいたか……、この王さまがそういうことをする人か……)
 セイバーが、こうだ、と胸を張ると、そうですね、と言ってしまいそうになるから不思議だ。
 哀れなのはアーチャーだな。いくらアーチャーに非があるって言っても、あそこまで痛めつけられちゃ……。
「まあ、セイバーの気持ちもわかるわよ。アーチャーが全面的に悪いもの」
「ええ。ですから、私が成敗を――」
「消すつもり満々だったんじゃないか」
 俺が鋭くつっこめば、セイバーはシュンとして、すみません、と謝る。
 だけど、セイバーが暴走したのは、結局、俺たちが原因なんだし、謝られるのも何か違う気がする。
「あのさ、セイバー。怒ってくれるのも、俺の味方してくれるのもありがたいけどさ、俺だけが被害者ってことでもないと思うんだ」
「あら、答えが出たの?」
 遠坂が座卓に頬杖をついて訊く。
「まだ……だけど、俺がもう少しアーチャーにぶつかっていれば、違う結果になったのかなって、思わなくもない」
 あの時――アーチャーが自分の気持ちではなかったと言った時、俺はその言葉を尊重しすぎてしまったんじゃないかと思う。
 俺がもっと引き留めようとすれば、アーチャーも違う答えに行きついたかもしれない。もし、なんて仮定の話をしてもはじまらないけど、あの時に俺が尻込みせずに、アーチャーにきちんと気持ちを伝えていれば、また違う結果を生んでいたかもしれない。
「けれども、悪いのはアーチャーです」
 きっぱりと言い切るセイバーに苦笑いをこぼす。
「そうだな……、アーチャーが悪い」
「ええ」
 胸を張って頷くセイバーに続ける。
「だけど、俺も悪い」
「シロウ?」
「アーチャーだけが悪いわけじゃないって、今は冷静に判断できる。それから、俺がきちんと答えを出さないとってこともわかってる。遠坂、今日の分もつけといてくれるか?」
「ええ、いいわよ」