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DEFORMER 10 ――オモイシル編

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 私はここでも居心地がいいと思っていたのだと気づいた。毎日ここで学生のために食事を作り、昼が終われば片付けをして、士郎の下校時刻までを適当に過ごして……。
(こんなことも、あとどのくらい続けられるのだろうか……)
 昼休みが終わり、食堂のテーブルを拭き、片付けを終える。
 時計を確認した。少し待てば士郎の下校時刻となるが、もう待っていることもない。
 食堂内を見渡す。今日は特に気になる物はない。
 脚がガタついていたテーブルはすべて修繕した。食器棚の扉の不具合も改善した。冷蔵庫も掃除は完璧で、生ごみの処理もとっくに終わった。もう、やるべきことが見つからない。
 待つ意味などないとわかっているが、何か理由を探してしまう。何かあれば、偶然を装える。だが、そんなに都合のいい事柄は、見つけられなかった。
 学園を出て、ひとり家路につく。
 夏休みの少し前まで士郎と歩いた通学路は、今も変わらず暑く、いまだナリを潜める気配のない蝉の声がかしましい。
 シャンシャンと大合唱するクマゼミの声は減り、ツクツクボウシの声がする。
(晩夏だな……)
 夏も終わりに向かっている。
 こんな気分でここを歩くことになるなど、思ってもいなかった。
 この道の途中で士郎と見つめ合ったのは夏の前、ほんの数か月前のことだというのに、我々はずいぶんとよそよそしくなったものだ。
「は……」
 ため息か自嘲か、こぼれ落ちたのは、苦い苦い呼気。
(あとどのくらい、士郎の傍にいることができるのだろう?)
 そんなことを思いながら、入道雲を見上げた。



***

(あ……)
 校門を出ていく姿が見えて、寂しさが胸を掠めた。
 アーチャーの仕事もはじまって、毎日、学食が開いている。だけど、俺は購買でパンを買って昼を済ませている。
 食欲がないのと、学食に入りたくないのとで、そういう選択になった。
(そうだよな……)
 アーチャーはいつも俺が帰る頃に校門に現れた。学食で働くアーチャーは、俺の下校時間よりも早くに仕事が終わるはずで、どこで時間を潰しているのか、ほんとに、いつも俺が校門に着く頃か、少し過ぎたところでアーチャーと出くわす。
 二学期がはじまってからは、一度もそれがない。
(待っててくれてたんだな……)
 そんなことに今頃気づいて、それがなくなったことに寂しさを覚えて、ほんとに俺は身勝手だ。
 恋人かどうかも怪しい俺たちには、一緒に帰るという選択肢はない。
 そうアーチャーが結論付けたんだと理解はできている。だけど、俺はやっぱり寂しくなってしまうんだ……。
 今、アーチャーは、俺に気を遣ってくれているんだってわかってる。
 なのに、俺はいまだに答えを告げられないままで……。
(答えは出てるっていうのにな……)
 そう、答えは出てるんだ。俺はアーチャーが好きで、ずっと傍にいてほしい。
 だけど、それを言っていいのかどうか、そこが悩ましいところで、何も告げられないままだ。
(どうすれば……)
 アーチャーとは、このところ会話というものもしていないし、面と向かって顔を合わすこともない。
 学校ではもちろん、家でも目が合うことは全然……。
 それが辛くて仕方がなくて、また手足が冷たくなるのに、答えを告げていない俺は、何も言うわけにはいかないから……。
 二学期がはじまって、そんなことで悶々としている俺に、タサカさんは追い打ちをかけるみたいに、
「別れちゃったんだー」
 と笑ってきた。
 相手にする気はなかったのに、俺はつい、睨みつけてしまった。
「へえ、ほんとに、別れたんだ」
 ほくそ笑んだ彼女に反論できなかった。
 もう恋人じゃない。
 ただの主従だ。
 突き付けられた現実が、さらに俺の迷いを強くする。
(俺の答えは……、間違っているんじゃないのか……?)
 疑心暗鬼に陥ってしまう。何が正しいのか、何をどうすべきなのか、俺には判断できる気がしない。
「別れたんだったら、いいよね」
 タサカさんの言葉が脳裡にも胸にも突き刺さった。
 アーチャーは彼女に靡いたりしないってわかってるのに、もしかしたら、って不安になる。
 どこをどう見ても、幼児体形の俺とタサカさんでは、女として完全に負けている。
 中身はどうかとか偉そうなことを言っても、結局、ヤるのは身体なんだ。アーチャーだって男なんだし、いや、俺も元々は男だけど、やっぱり、俺みたいな身体よりも彼女のような女性らしい身体つきを望むだろう。
(わかりきったことだけど……)
 アーチャーが彼女に興味を引かれると思うと、胸がずっしりと重くなってくる。
 結局、放課後、学食に足を運んでしまった。今日は短縮授業で、まだアーチャーは帰っていない。
「ねえ、お兄さん」
 タサカさんの声だ。思わず入口のドアに隠れてしまう。
 彼女はいったい、どうやって教室からここまでを移動したんだ?
 俺だってグズグズしていたわけじゃない。
 もの凄い勢いで階段を駆け下りたりしたんだろうか?
 ちらり、と室内を覗き込むと、テーブルを拭くアーチャーの前にタサカさんがいる。アーチャーの背中越しに、彼女がアーチャーの頬に触れたことがわかった。
 ズキズキと頭が痛くなる。動悸が激しくなってきて、いろんなことを後悔した。
 学食になんて来なければよかったとか、彼女に悟られるような態度を取らなければとか、そもそも、どうして、俺はさっさと答えが出たと伝えなかったのかと……。
 じりじりと後退って、玄関まで走った。
 そのまま走って、逃げるように家へと急いだ。



「遠坂、契約解除の方法、教えてほしいんだ」
「はあ?」
 夕食後、遠坂の自室(俺の家の別棟の洋室だけど……)に引きあげた遠坂を訪ね、前置きなしに告げた。
「だから、契約解除の、」
「いきなり、どうしたのよ?」
「アーチャーと契約を解除するから」
 きっぱりと言えば、遠坂は眉根を寄せて、うーん、と唸っている。
「早く」
 地団太を踏むように急かした。
「あのね……、理由は何? 答えはどうしたの?」
 遠坂は冷静に訊く。
「そんなもの、要らないだろ」
「要らないって……」
「だから、早く! 契約解除の、」
「何をとち狂ってるのよ!」
 べしん、と頭をはたかれた。
「何すんだよ! 俺が契約は解除だって言ってんだから、それで――」
「いいわけないわよ! アーチャーは物じゃないのよ! そんな横暴働くんなら、許さないわよ!」
「遠坂には関係ないだろっ!」
「へえ。関係ないですって?」
 あ、なんか、やばいくらい、遠坂が笑ってる……。
「あんた、英霊をなんだと思っているの? そりゃ、魔力をかたに魔術師の言いなりで、契約するのもやめるのも魔術師の意志が働くのは当たり前よ。だけどねえ、アーチャーを喚び出したのは、私。この、遠坂凛よ! あんたは、そのおこぼれに与っているだけよ! 勝手なこと言わないでもらえるかしら!」
「な……、た、確かに遠坂が召喚したんだろうけど、今のマスターは俺なんだぞ!」
「ろくに魔力も供給できないくせに、何がマスターよ!」
「ぐ……、ぅ、そ、そう、だけ、ど……」
 俺の勢いはここまでだった。遠坂は一度大きなため息をこぼして椅子に座り直し、正面から俺を見つめる。