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DEFORMER 10 ――オモイシル編

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 それだけでいい。士郎が誰と過ごそうとも、私はそれに文句を言える立場ではない。
「それ……だけでっ……」
 灼けつくように胸が燻る。
 そんなことは許さないとばかりに、士郎に迫ってしまいそうで、自身を抑えることに必死だ。
 ずっと触れていない。キスすらできない。抱き合うことなど、なおのこと無理だ。
 こんなことで私は士郎のサーヴァントとして存在できるのだろうか。
 ただ、傍に在るだけの存在ですむのだろうか……。
 自信がない。
 傍にいて、手を伸ばさないと約束できない。
 ならば、距離を取らなければならない、できるだけ……。
 しかし、魔力はどうする?
 このままでは、いつまでも凛に支払いを続け、魔力の補填を受けるやり方しかないが……。
「仕事を増やすか……」
 資金難に陥れば、魔力が足りなくなる。収入を増やさなければ立ち行かなくなるのは目に見えている。だが、仕事を増やすにしても限度というものがある。戦闘ではないにしても、稼働すれば魔力も消費されるのだから、四六時中働くということもできなくはない身だが、少々魔力ロスが大きいかもしれない。
 では、代わりに、セイバーの食費を支払ってもらうというのはどうだろうか?
 彼女の食いっぷりは、士郎との契約時の、なけなしの魔力量の時と変わらない。今、魔力は満たされているはずであるのに、なぜ彼女はああも食欲旺盛なのか……。
 衛宮家の資金繰りでネックなのは大食漢が常に二人、時には桜も加わって、という……、ああ、いや、エンゲル係数増の話はまた別として、魔力補填料のことだ。
 いっそ、食費と引き換えに補填料をチャラに……。
「あ、いや、そこまで甘くはないな、凛は……」
 窮しているのはこちらだけで、セイバーの食費は我慢さえすればどうにかなる、というものだ。秤にかけるには些か重要度が違いすぎる。
(悩ましい……)
 まさか、こんなことで悩むことになろうとは。
 そもそも士郎がまともに魔力を供給できないことが原因で、直接供給など必要がなくなれば、なんの問題もないはずだ。
 だが、まだ、そういう段階には至っていない。
「直接供給か……」
 触れたい。
 士郎に触れたい。
 足が勝手に向かう。寝静まった衛宮邸で、足音を忍ばせて、士郎の部屋へと向かう。
 ガラス戸は開け放たれていて、少し涼しさを伴う風が入ってきている。
 吊るされた蚊帳が、深層の姫君が眠るベッドの天蓋の如く見えて苦笑をこぼす。
(やはり、私の目はどうかしている……)
 蚊帳の中で眠る士郎は、横向きになって身体を丸めていた。
 その姿は、いまだ、改善されていない士郎の睡眠の質を物語っている。うなされているわけではないのかもしれないが、手足が冷えて、冷たい汗をかいているのだろう。
 強く抱きしめれば、折れてしまいそうに細い身体。毎朝続けている筋トレは、身体を逞しくするというよりも、引き絞っているように思う。
 無駄な肉がなく、かといって、骨と皮というわけでもない。その身体を思い出すだけで熱くなる。
 抱きしめたくて仕方がない。伸ばしてしまった指先が蚊帳に触れ、慌てて手を引く。
 いつのまにか、士郎の部屋に足を踏み入れていた。ここにいろと言われたことで気が緩んでしまったようだ。
「…………」
 蚊帳の裾が、触れるか触れないかの所に正座し、ただ見つめていた。そこに存在する愛しい者を。
「ん……」
 ころり、と寝返って、こちらを向いた士郎の瞼が少し開いた。
「ぁ……ちゃ?」
 起きたのか?
 いや、寝ぼけているのか?
 念のため、霊体になっておいた。ここにいたことを咎められるのは、少々辛い。
 夢だと思っておけばいい。
 私がいることなど、気づかなくていい。
 ただ、穏やかに眠れる手段として、私はここにいるだけだ、だから……。
(気づくな……)
 膝に置いた手を握りしめる。
 すぅ、と穏やかな寝息を聞いて安心する。
(本心は、どうだろうな……)
 気づいてほしいと思いながら、気づくな、などと強がりを。
 ほとほと呆れる、己の性質には……。
(士郎、私は、お前に触れたいと思うのだが、お前はやはり、割り切れないと、私を拒むか?)
 言葉にしては訊けない。
 何度胸の内で吐露しても意味がないと思うのに、私はお前に訊く勇気がない。
 お前は、どうしたい?
 お前は、私に何を望む?
 恋人か、ただの従者か?
 お前の意志を尊重する。
 私の考えを尊重してくれたように、私はお前に自身を押し付けることはしない。
 お前の気持ちが聞きたい。私を引き留めたお前は、この先を、私とどうやって生きるつもりなのかを……。


 士郎は、やはり私を避けているようだ。
 少し話すことが増えたが、二人だけになるとよそよそしくなる。そわそわして落ち着かない様子だ。
 学校からは、また一緒に帰っているが、以前と同じ距離ではない。半歩まではいかないが、少し離れている。
 これが、士郎の答えなのだろうか。
 供給のことも話し合わなければならないし、いつまでも凛に補填料を支払うには、それなりの資金も必要になるが……。
 魔術協会からの補償や、あの魔術師の財産を受け取った分を切り崩して賄えるうちはいいが、それも無限ではない。足りなくなれば先はないのだ。
 そういう現実的な話をしようにも、士郎がすぐに席を立ってしまうために、遅々として進まない。
(今度の日曜くらいには、じっくり話さなければ……)
 私が直接供給を断った手前、私の方から言うのはどうかと思うが、差し迫った問題があることだし、直接供給をするか、しないか、という結論だけでも出さなければならない。
 魔力が少なくなってきている。
 次の補填の前にどうするかを決めなければならない。
 次の日曜がリミットだ、とカレンダーを見据え、心を決めた。


「アーチャー、ちょっと」
 凛について来いと言われ、彼女の部屋へと入る。
「魔力はどう?」
「週明けくらいまで、だな」
「そう。それで、供給はどうするの?」
「それは、私ではなく、マスターに――」
「あんたの意思はどうなのよ?」
「…………」
「言い方、変えましょうか?」
 尊大な態度にムッとして凛を見据える。
「士郎を抱きたいの、抱きたくないの、どっちよ!」
「っ……」
 まさか、そんな詰問を受けると思わなかった。
「凛……、魔力の供給、だろう……」
「取り繕ったところで、どっちみち、やることは同じでしょ」
「いや……、それを、君が言っては……」
「ただの主従ならそんな訊き方しないわよ。あんたたちだからでしょ。それで? どうなのよ」
「……抱きたいに決まっているだろう」
 もう開き直って言い切った。何を言っても凛には敵わない。
 彼女は私の天敵と大差ない。敵わないし、歯向かう気すらなくなる。
「そ。わかった。じゃあ、思う存分、全力で、士郎を落としなさい」
「は?」
 にやり、と凛は不気味に笑う。
「日曜に映画を見てきなさいよ」
「な、にを、言って?」
 さらに難解になった。
 思う存分、士郎を落とせ?
 映画を見てこい?
 何を言っているのか、凛は……。