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DEFORMER 10 ――オモイシル編

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「機会は作ってあげる。セイバーが無茶をしたお詫びだと思ってくれればいいわ。チケットは士郎に渡しておくから、しっかりやんなさいよ、アーチャー」
 なぜか、鼓舞されてしまった。
 何が何やらわからない状態で、日曜日を迎えることになった。



***

 遠坂が映画の券をくれた。
 色々あったことだし、気晴らしにアーチャーと行ってこい、と。
 みんなで行けばいいって言えば、私たちは忙しいの、とバッサリ断られた。女子会を開くんだそうだ、遠坂と桜、二人のサーヴァント、それから藤ねえも加わって。
 俺も女子になるんじゃないかと思ったけど、彼女たちの話題についていけるとは思えないから、気乗りはしないけど、遠坂の善意(?)を受け取ることにした。
「指定席だから、ちゃんとそこに座るのよ」
 なんだか当たり前な指令を受けて、少し早い昼食を済ませて、アーチャーと出かけることになった。
 二人きりなんて三十分ももたないかもしれない。みんなで一緒に、と言ったけど、遠坂の有無を言わせない表情と目力により、それ以上の声は出る前に萎んだ。
「指定席って……、わざわざ取らなくても……、そんなに人気のある映画なのか?」
 遠坂から渡されたチケットを財布に入れ、玄関の戸を開けると、
「な……」
「ぅわ……」
 互いに第一声が出たまま、しばし沈黙が降りる。
「ぅ、ど、どういう、風の、吹き回しだ」
 アーチャーがあらぬ方へ顔を向けて不機嫌そうに言う。
「何がだよ?」
 意味がわからなくて、顔をしかめると、アーチャーは俺の下半身を指さす。
「ああ、これ? スカートに見えるガウチョだって。スカートじゃないから気が楽だ」
 制服でスカートには慣れた。どのみち体操服のハーフパンツをいつもはいているから、厳密にスカートに慣れたかというと違うかもしれないけど……。
「いや……、そういうことではなくてだな……、なぜ、そういう格好なのかという……」
 ああ、そうか。そうだな、うん、いつもよりちょっと、っていうか、だいぶ女の子っぽい。柔らかい生地のふわっとしたブラウスだし、それにスニーカーじゃなくてサンダルだ。
「せっかく指定席を取ったんだから、これを着てけって、遠坂と桜が……。ライダーに取り押さえられて、無理やりジーンズとか奪われて、洗濯機にポイって、俺の靴もどっか行っちゃったし、もう、これしか――」
「わかった、もういい。哀れすぎて聞いていられなくなる……」
 玄関に辿り着くまでの攻防を説明すれば、アーチャーは嘆かわしいと額を押さえている。
「アーチャーもだろ?」
「は? 何がだ」
「なんで、白なんだよ?」
 いっつも黒いジーンズなのに、なんで、今日はオフホワイトだ。眼下が眩しいだろ。しかも、シャツはインだし、半袖じゃなくて、薄手の長袖を肘のあたりまで捲ってたりとか、ベルトの凝ったバックルがチラッと見えてたりとか、なんか、いつもと違うっていうか……。そんな服、持ってたんだ、っていうか、アーチャーも、もしかして?
「暑苦しいと言われてな……」
 やっぱり……。
「アーチャーも、似たり寄ったりの境遇じゃないか……」
「否定はしない。ただ、私は取り押さえられたわけではない」
 きっぱりと言い切るアーチャーに肩を竦める。
「どっちみち、みんなに俺たちは敵わないってことだよな」
「む……。全く以て、その通りだ」
 そういうわけで、アーチャーと新都の映画館へ向かうことになった。


「なあ、なんで、個室?」
「そのチケットを持つ者は自由に入れるらしいが……」
 俺の持つ券を指さすアーチャーもよく知らないみたいだ。二人して首を捻る。
 待つことなくバスに乗れて、映画館には上映時間よりも早く着いたものの、外にいるのも暑いからって館内に入れば、この券のおかげで、あれよあれよと案内されて、上映までは、まだ時間があるのに個室のウェイティングルームってとこに入ってしまっている。
 外は暑いし、涼しい室内で座っていられるなら楽だ。だけど、アーチャーと二人きりっていうのは、落ち着かない。なので、部屋の中をウロウロと見学している。
 ちらり、とアーチャーを見遣れば、ソファに腰掛けて、長い脚を組んで館内のリーフレットだか案内だかを見ている。
 話題がない。
 何を話せばいいかも全然思いつかない。
(俺たちは、どういう関係なんだろうな……)
 さっき案内をしてくれた映画館の人に、俺たちは、どんなふうに見えただろう?
 友達、兄妹、家族、親戚、会社の同僚、……恋人。
 どれも当てはまりそうで、違う気がする。
「士郎」
 呼ばれて、びくり、と肩が揺れる。
「な、なん、だよ?」
「座らないのか?」
 ちらり、とそちらを窺って、リーフレットから目を逸らすこともないアーチャーに少しほっとする。こっちを見ていたらと思うと変な汗が出る……。
「あ、ああ、うん、いい」
 ほんとは座りたかったけど、強がった。
 遠坂が用意したサンダルは、ヒールがあるようなものじゃなくペタンコで、履き心地はいいけれども、慣れていないからか、ベルト部分に擦れた足首が少し痛む。
 だけど、座るとなると、アーチャーの横だし、ちょっと、今は無理だな……。映画がはじまったらどうせ、隣同士に座るんだけど、ギリギリまで距離を取っておきたい。
(今まで、どのくらいの距離でアーチャーと接していたんだろう……)
 狂った距離感を取り戻すのは難しくて、俺は以前のようにアーチャーと接することができない。そのせいもあって、会話もできないし、話すことなんて、なんにも浮かばないし……。
(俺は……、どうしたいんだろう……)
 アーチャーを離したくないと思うのは本当だ。
 俺が引き留めた。
 だけど、アーチャーは前みたいに強引に触れてもこないし、俺を気遣っているのか、あんまり話しかけてもこないし……。
(アーチャーは、やっぱり……)
 俺に触れたいとは思わないのかもしれない。
(どうしようか、供給……)
 このまま遠坂に補填を頼み続けることもできなくはないけど、そうなると、資金繰りが……。
(高校を出て働けば、どうにかなるか?)
 いや、その前に、俺がきちんと魔力を送れるようになるのが先だな。魔術師として、サーヴァントと契約をしてるって自負を持てるように……。
(アーチャーは、ただのサーヴァントになるのか……)
 恋人じゃなくて、ただの従者……。
 だけど、ずっと傍にいてくれるって……。
(アーチャーは俺のこと、もう前みたく好きじゃないんだろうな……)
 だったら、どうして傍にいてくれるんだろう?
 疑問ばっかり増えて、訊きたいことがなんにも訊けずに、全然、何も解決できていない。
 いろんなことが袋小路にどんどん溜まっていく。
 アーチャーといる時間が苦痛に思うようになるなんて、考えてもいなかった……。

 映画がはじまる少し前になって指定席へ向かうと、
「え……」
「…………」
 俺たちは揃って絶句した。
 映画館なのに完全なる個室状態。いや、個室じゃないけど、オペラの劇場の、バルコニー席みたいっていうか……。
「えー……っと?」
 アーチャーを見上げると、アーチャーも困惑顔だ。
「こ、こんなとこ、初めて入った……」
「左に同じ」