You can change your destiny.
「もう…昔の様に暗い影は無いのね…。1年戦争の時も…、ダカールでの演説の時も、ネオ・ジオンの総帥となってからも…兄さんの瞳にずっと暗い影があったわ…。でも、今は…。」
「アルテイシア…」
セイラに瞳から涙が零れる。
「良かった…。きっとアムロのお陰ね。」
「セイラさん…」
セイラはアムロに振り返ると頭を下げる。
「ありがとう…アムロ。兄さんを救ってくれて…。本当にありがとう。」
「セイラさん…そんな事…」
「アクシズショックのあの光を見た時…。二人は死んでしまったと思ったの。やっぱり、こういう形でしか終われなかったのかと…運命は変えられなかったのだと…。」
セイラの瞳からポロポロと涙が零れる。
「でも、貴方は運命を変える事が出来たのね……アムロ」
「そうだな…。アムロのお陰だ。アムロがいなければあのまま私はアクシズ諸共死んでいた。いや、正直なところ…アクシズを地球に落とし…その贖罪をアムロの手で下してもらおうと思っていた…。」
「シャア!?」
「だから…サイコフレームの情報をリークして、アムロが最高の機体で私と戦える様にした。」
「貴方、そんな事考えてたのか!?」
「勿論、君と対等な機体で互いに全力を尽くし、純粋に決着をつけたかった。ネオ・ジオンを率いながらもそれだけは譲れなかった。」
「シャア…。」
「しかし、君があの光の中で私に言った言葉が、ジオンの血に雁字搦めになった私を闇の中から救ってくれた。」
「え…?」
アムロはあの時の事を思い出し、顔を赤く染める。
「ちょっと、待てシャア!あの時はもう死ぬんだと思ったから俺、とんでも無い事を色々口走った気がする…。今ここで言うのは!」
シャアを止めようと立ち上がったアムロの手をシャアが握る。
「ちょっ!シャア!」
「君は、私に自由になれと言った。バカな事をして、傷付くのは私だと、何故私が人類の業を背負う必要があるのかと。ジオン・ダイクンと私は関係ないと…私は私自身として生きればいいと…。」
シャアはアムロを見つめて優しく微笑む。
「そして…、私の事が大切だと…支えたいと言ってくれた。サイコフレームの共振が見せた美しい光の中で人々の優しい心と君の心、君を求めていた私の心を見た…。君が見せてくれたんだ。アムロ」
「シャア…」
アムロは真っ赤になった顔を手で覆って隠す。
これを聞いているカイとセイラの顔が見えなくて良かったと、初めて目が見えない事に感謝した。
「兄さん…。兄さん一人にジオンの重しを背負わせてしまった私の罪でもあるわ…。兄さんはいつも私を守ってくれていたのに…私は兄さんを責めるだけで、自分はいつも逃げていた…。アムロ…、兄さんを自由にしてくれてありがとう。」
「セイラさん…」
「アムロ、兄さんの事をよろしくお願いね。兄さんも、アムロを守って下さいね。」
「ああ、アルテイシア」
「あの…、一応取材の方もしたいんですけど良いですかね?」
カイが3人を覗き込む。
その声にアムロはシャアが自分の手を握っている事を思い出し、慌てて手を振り払う。
そんなアムロにシャアはクスクス笑いながらもそれを了承すると、部屋の外に待たせていた側近のナナイと護衛のギュネイを部屋に招き入れ、カイの取材に応える。
その間、アムロとセイラはテラスから庭へ移動しゆっくりと緑の中を二人で歩く。
「この庭にね…、母が好きだった花が沢山咲いているの…」
「花?もしかして、少し甘い香りがするのはその花の香りですか?」
「ええ、そう。華やかな花では無いけれど、ひっそりと、でも力強く咲くこの花を母はとても気に入っていて、いつも庭に植えていたわ…。」
「そうですか…。それじゃ、もしかしてこの奥に咲いている花はセイラさんが好きな花かな?この香りともう一つ、爽やかな香りも感じるんです。多分花が咲いていると思うんですが…。」
セイラはアムロに導かれ、庭の奥へと進む。
緑のアーチを抜けると、そこには淡い黄色をした花が咲き乱れていた。
「ああ…」
セイラは両手で口元を覆い、薄っすらと瞳に涙を浮かべる。
「どうですか?セイラさん」
「ええ…、私が…昔、母と一緒の育てていた花よ…とても好きだったの…。」
「シャアは…この庭に、一番幸せだった頃を詰め込んでいたのかもしれませんね。」
「…ええ…そうね…。」
セイラは瞳を閉じ、花々の香りを感じながら懐かしい頃に想いを馳せる。
「アムロ…ありがとう。兄さんをよろしくね。」
「…あの…セイラさん…、その…俺とシャアの関係ですけど…、何ていうか…」
「二人が恋人同士だという事?」
「恋ッ!?え、えと……、はい。」
そんなアムロをクスリと笑う。
「同性同士だという事が気になる?」
「あ…はい。セイラさんとしてはその…お兄さんがそんな風になっても良いものかと…。」
戸惑いながらも話すアムロにセイラが微笑む。
「別に偏見は無くてよ?それに、兄さんを支えられるのはアムロしかいないでしょう?」
「あ…、はぁ。」
「正直兄さんにアムロは勿体無いと思うけど、お互いに惹かれあっている二人を引き裂こうなんて思わないわ。」
「セ、セイラさん!」
「ふふ。きっとアムロには兄さんがどれほど貴方を求めているか感じられるんでしょう?」
「…ええ。時々…想いが激し過ぎて、こちらが飲み込まれそうになるくらい…。そんな時…この人はどれだけの孤独と戦って来たのだろうかと…胸が締め付けられます。」
辛そうな表情を浮かべるアムロを、セイラはゆっくりと庭園の片隅にあるベンチに座るように促す。
「目の見えないこんな俺があの人を支えられるんだろうかと…もう、モビルスーツにだって乗れない。何かあっても助けられない。」
アムロは膝の上に置いた手を握り締める。
「兄さんはどんな貴方でも構わないと言わなかった?」
「…え?…あ…。言われ…ました。」
「兄さんにとってはアムロという存在が支えなの。物理的なものでは無く、精神的に貴方が必要なのよ。」
「あ…」
「それに…ただの勘だけれど…。アムロの目はまた見えるようになると思うの。直ぐにでは無いかもしれないけれど…。だから、大丈夫よ。」
セイラのその言葉にアムロは目を見開く。
「セイラさんに言われると、そうかもしれないって思えるから不思議です。」
「あら?信じてないのね。ミライには及ばないけれど、私の勘もよく当たるのよ。」
「ふふふ、信じますよ。」
二人は幸せの想い出が詰まった庭園で微笑みあい、色々な事を語り合った。
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「昼間は随分とアルテイシアと話が弾んでいた様だな。」
ベッドの中でシャアがアムロの髪を好きながら呟く。
「ふふふ、妬けた?」
「…まぁな」
少し不貞腐れた表情を浮かべるシャアの頬をそっと撫ぜる。
「“キャスバル兄さん”の話を色々聞いた。」
「なっ」
シャアは少し顔を赤らめ、顔を手で覆う。
「とっても優しいお兄さんだったって言ってたよ」
照れるシャアをクスクス笑いながら眺める。
「妹に優しく接するのは当然だろう?」
「どうなんだろう?俺は一人っ子だからよくわからないけど…。聞いていて何だか羨ましかった。」
「そうか…」
「それから…俺たちの事…セイラさんに…その…一応確認したんだ。」
「ほぅ…、それで?」
作品名:You can change your destiny. 作家名:koyuho