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みとなんこ@紺
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Blessing

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――――どのくらいの間だったのか。
 流されている間にいくつものビジョンが過ぎったような気がする。
 知っているものと、知らないものと。何処か遠い、ここではない、場所の――――。

 ほんの数秒だったのかも、数分だったのかもしれない。
 長かったのか短かったのかすら判らなかった。
 だが気が付けば、もう一人の遊戯に庇うように抱え込まれていて。
 果てのない迷宮が高い天井一面に広がっているその光景には見覚えがあった。どうやら流された末に始まりの広間に戻ってきたらしい。
 そしてあれだけ辺りを満たしていた水は、まるで最初から何もなかったかのように消えている。
 呆然としたものを感じながら、取りあえず身体を起こそうとして身動げば、背に回されていた腕が少し緩んだ。
 もう一人の遊戯と共にゆっくりと身体を起こし、側の壁にもたれ掛かる。
 けれど、緩く囲われた腕はそのままに。
「もう一人のボク…?」
 もう一人の遊戯の様子が少しおかしい。
 何も言わない彼の様子を窺おうと身体を離そうとすれば、拒むように僅かに引き寄せられる。
「…どうかしたの?」
「・・・思い出した」
 え。
「何、を?」
「――――思い出した。今の、あれはオレだ」
 肩越しに声は聞こえても、彼の表情は窺えない。呟いた声が何処か遠く感じて、遊戯は僅かに眉を寄せた。
 されているように背中に軽く腕を回せば、宥めるように背を撫でられた。
「――――子供の頃、だ。ナイルのほとりに出掛けていって、遊んでいる最中に過って流れに落ちた」
「えっ」
「ちょうどイシスの星が・・・シリウスが再び昇った後で、川は緩やかに増水を始めていた。さっきみたいに流されたけど、すぐ岸に戻れて事なきは得たんだが」
 そこで何かを思い出したように、ゆるりと笑みを浮かべる。
「・・・無事に戻ったオレを抱いて、喜んでくれた。大騒ぎだったな。母なるナイルの祝福と加護を受けた、と」
 抱き締められている形の遊戯からは彼の表情はわからなかったが、その声は酷く柔らかく、しかしだからこそ余計に何故か苦しくなった。
「…怖くはなかったの?」
「よく覚えてはいないが、不思議と怖くなかった気がするな」
 ただ、水底から見上げた水面を透かす太陽と空がひどくキレイだと、そう思ったような気がする。
「――――長い沈黙の後、太陽とシリウスが同時に昇る朝が来る。東の空に2つの輝きが昇るんだ。そうすればナイルは人が生きていける恵みをもたらしてくれる。それが新しい年の始まりだ」
 ちょうど今くらいの時期に。
 ・・・今はもう、はるか遠い記憶だけれど。

「…これもキミの溢れた記憶の一つ、なんだね」
「そうだな」
「…エジプトって、もっと乾いてるイメージがあったんだ」
 でも、それだけじゃなかったんだね。
 流れに呑まれた時に感じた、水の温度、見上げた空、砂を含んで渡る乾いた風。
 きっと同じものを見たんだろうと思う。
 ただ懐かしいような、今はもうどこにもない、国の記憶。
 それを、自分は知っている。
「ボクねぇ、不思議に思ってたんだ」
 キミの部屋に入った時、砂の匂いのする風が吹く時があって。
 でも、千年パズルが作られた、エジプトの気配が残ってるんだとずっと思ってたんだけど。
「あれも、キミの記憶にあるエジプトの風、だったんだね…」
 そして、同じものを見ていたんだと。






「――――ありがとう、相棒」


「お礼を言われるようなこと、ボクは何もしてないよ」
 僅かに震えた声に、気付かれただろうか。
 だけど、そう囁く声が優しくて、お礼なんて欲しくないとは言えなかった。

「これも、お前が。お前達皆が取り戻してくれた大切なものだから」
 だからこの記憶は、今からの自分を生かす為に必要なもので。


・・・そして、今からのお前にも、必要なものなのかもしれない。


 これも、『解放』によってもたらされた、変化の一つだとすれば、自分たちはそれを受け入れなければならない。
 先へ、進むために必要な。
 大切な道標の一つ。それを取り戻してくれた。
「――――だから、ありがとう、だ。相棒」



 回した腕に、少し力を込めた。
 そうすれば同じように抱き返してくれる力に、寄り添った身体の温かさに、喩えようもない安堵を覚えた。

 ・・・今のまま変わって欲しくない時間がある。
 このまま、ずっと2人で歩んでいきたいと思う、時間が。

 2人の不安はきっと同じものだ。
 変わっていく先への不安と、それでも拭いきれない、未来を望む2極の願いと。


 必ず、彼は先を望むだろう。
 どれだけ苦しんでも、彼は前に進む事を諦めたりしない。

 だからそれに対するに相応しい者でありたいから。



 口に出してはいけない。
 それを口にすれば、その願いに互いを縛る事になる。

 予感がしている。
 行かなければならないその場所へ、きっともうあまり時間はない。

 だけど願わずにはいられなかった。





 どうか

 どうか、あともう少しだけ、このまま。





作品名:Blessing 作家名:みとなんこ@紺