天衣創聖ストライクガールズ 第二章:ターニャ・ナッツ
一行はエクスタシオが示した海岸まで来ていた。しかし既にそこには花火に興じる観光客がいるのみでセフィーナの姿はどこにも無かった。
「くそっ!どこ行っちまったんだ・・・!」
(龍之介さん・・・今は彼女が意識を取り戻すのを待つしかありません・・・意識さえ取り戻せば私が位置を特定できますから・・・)
「マスター、冷静になれ。エクスタシオの言う通りだ。ここは待とう。」
情報共有のため、龍之介と手を繋いでいたセラはエクスタシオに賛同した。
「だけど・・・!」
「堪忍して!」
ターニャの声に一同が振り向くと、彼女は砂の上で土下座していた。
「ちょ、ちょっといきなり何?」
ターニャの唐突な謝罪に思わずミントは声を上げた。
「この件、多分半分はウチのせいやねん。その光のヴィーン・ボウ、間違い無く洗脳されたウチの親友やから・・・。」
独白を始めたターニャ。龍之介はここで彼女への疑問を口にした。
「やっぱり、君は洗脳されてなかったんだな。じゃあなんでヴィーン・ボウの真似事なんかしたんだ?」
「ヴィーン・ボウとしてエクスタシオを手に入れれば彼女・・・シュピナ言うんやけど、仲間やと思って油断した所にエクスタシオぶち食らわせて正気にもどそ思て・・・」
「そうか・・・なら最初から仲間になってくれれば良かったのに。」
「敵を欺くにはまず味方から、ゆうやろ?」
(欺けてへん、欺けてへん。)
その場の全員が、頭の中で関西弁で突っ込んだ。
「まあ、そういう事なら。」
龍之介はそう言うと砂の上に正座したままのターニャに手を差し伸べた。
「今から君は俺たちの仲間だ。いいよな?」
それを聞いたターニャはその手を取り、
「おおきに・・・」
そう言って微笑み、立ち上がった。
暗い、淀んだ空気。広いのか狭いのか、それすらも分からない。そんな空間でセフィーナは目を覚ました。
「ここは・・・?」
「あ、目え覚めた?」
セフィーナは声の方向を見た。そこには光属性のヴィーン・ボウスーツに身を包んだ娘が一人、何も無い空間に、まるでそこに椅子があるかのような姿で「座って」いた。
「あなたは・・・?その姿はヴィーン・ボウって事なんでしょうけど、可哀想に・・・あなたも洗脳されたのね・・・」
セフィーナはそう言って身じろぎしようとしたが、特に拘束されている訳でもないその体は、しかし全く動かす事は出来なかった。そしてその体には一糸も纏っていなかった。
「洗脳?何言ってんの。ヴィーン・ボウの思想は素晴らしいよ?あんたも仲間になるといいよ。私はシュピナ・マール。仰る通りヴィーン・ボウの戦士だよ。」
洗脳を否定する彼女。しかしセフィーナはその目に狂気の色を見た。
(セラは洗脳されてるといっても元の人格は残ってた・・・言ってみれば二重人格みたいな状態だったけど、この人は違う!完全に洗脳されちゃってる・・・)
セフィーナはそう思うと彼女に恐怖心を抱いた。
「とりあえずさ、裸も可哀想だし素敵なお洋服をプレゼントしてあげる。」
シュピナはそう言うと右手で指をパチンと鳴らした。すると空間の一部が歪み、ビーン・ボウスーツが現れた。スーツはセフィーナの体にまとわりつくように装着されていく。
「い、いや!やめて!こんなの・・・あああああっ!」
装着されていくと共に、セフィーナの頭の中にどす黒い意識が流れ込んで来る。これが誰も正体を知らないビーン・ボウそのものの意思だった。
「やめて!お願い!マスター!助けて!」
(見つけました!)
エクスタシオが叫んだ。
「どこだ!」
間髪入れずに龍之介も叫ぶ。その場の空気が一気に緊張した。
(うーん厄介ですー。シュピナ・マールはヴィーン・ボウ空間を作ってそこにセフィーナさんを連れて行っているようですー。)
「ヴィーン・・・空間?それって?どうやって行けばいいんだ?」
(奥の手、使いますー。)
「奥の手?」
龍之介が聞き返す間もなく、辺りは紫色の光に包まれた。やがて光が収まると、そこにはセフィーナよりもさらに長い黒髪をたたえた全裸の少女が立っていた。
「エクスタシオ、顕現ですー。」
少女は龍之介に振り向くとにっこり笑ってそう言った。
「エクスタシオの顕現・・・!伝説だと思ってたけど本当にこの目で見る事が出来るなんて!」
シルクが驚嘆の声を発した。
「すごい・・・巨乳ですね・・・」
キリスは見るべき所が違った。
「この姿の私の事はラブル・ゼニカと呼んでくださいー。では、マスター?」
「え、マスターって、エクスタシオと俺はそういう関係じゃないだろ?」
「ですから今は人間として顕現したラブルという女の子なんですー。とりあえず裸のままじゃ恥ずかしいんで天衣創聖してくださいー。」
「あ、ああそうだな。よし・・・天衣創聖!」
見事ピンク色の光が辺りを照らす。遠くからは派手な花火をやっているように見える事だろう。そして光が収まると、大きな白い翼が現れた。
「セレスティア・セラフィム!」
ミントが叫ぶ。
「これって伝説中の伝説の天衣!すごい!」
セラも目を見張った。
「神様の特権ですー。」
ラブルはそう言うと悪戯っぽくウインクして見せた。
「では皆さん、空間を移動しますー。私に掴まって下さいー。」
そして6人が無理やり彼女に捕まると、
「行きますー。」
ラブルと6人は光を発しながら垂直に上昇し始めた。そして地上数十メートルに達した辺りで一際明るい光を放ち、別空間へと消えた。その光景はまるで打ち上げ花火のようだった。
第六話 おかえり。
ヴィーン・ボウ空間。今シュピナは楽しそうにセフィーナの様子を観察していた。が、何か気配を感じ取り虚空を見上げた。
「あれ、来ちゃったんだ・・・まあいいや。もう手遅れだろうし。それじゃ、セフィーナちゃん、あとはよろしく。」
彼女はそう言ってニヤッと笑うと、音も無くその姿を消した。そしてそこに入れ替わるように光の塊、つまり龍之介たちが現れた。
やがて光が収まり、7人が姿を見せる。
「いました!あそこですー!セフィーナさんですー!」
ラブルが叫び、指を差したその方向には両腕を何かに掴まれ、宙吊りにされているような姿のセフィーナが見えた。その体には既にヴィーン・ボウスーツが装着されていた。
「今、助けてやるからな!」
龍之介はそう叫んで彼女に駆け寄ろうとするが、足場も無いこの空間、彼には移動もままならなかった。
「龍之介さんは下がってて。ここでは天衣が無いとまともに動く事も出来ないわ。」
シルクはそう言うが、
「いや、下がる事も出来ないんですが・・・」
龍之介は手足をじたばたさせて泣き言を言った。
「とにかく、ここはキリス達に任せて下さいって事です、ご主人様。」
キリスがそう言うと同時に、彼女達は着ていたお揃いのゆったりしたパーカーを脱ぎ捨てた。するとその下から天衣に包まれた肢体が現れた。
シルクはスゥイートハニー、キリスは昼間と同じく夏待ちビキニ、ミントはみだれ乙女、セラはこれまた昼と同じくしょうぶのみずぎ、ターニャはシュガーシルエットをその身に纏っていた。
「あんたまたその天衣なの?私なら恥ずかしくてとても着れないわよ・・・」
ミントがターニャを見て呆れたように言う。
作品名:天衣創聖ストライクガールズ 第二章:ターニャ・ナッツ 作家名:andrew