東方『神身伝』
でも、確かに今の冬馬の中には心の底から萃香に勝ちたいと言う心が芽生えた、その瞬間だった。
「よ〜し、そろそろ良いかな〜。」
そう言って萃香は、竜巻を起こすために集めていた風を、一気に散そうとする。
しかし、その時、竜巻の中で何か光るものが見えた、それは一瞬の出来事だったのだが、確かに萃香の目には映った。
霊夢も同様に、萃香が発生させた竜巻の中で、何かが不自然に光ったのを確認する。
「何か、起きたかしら?」
霊夢の、その呟きと共に、萃香は集めていた風を、巻き込んだ木々などの破片を風に乗せるような形で拡散させていく。
気を失っているであろうと予想される冬馬に、これ以上、危害が加わらないように地面に下ろすためだ。
先程まで憎まれ口はたたいていたものの、敗者に追い討ちを掛ける様な真似は決してしない。
むしろ敬意表して、その身を安全に確保するための策だったのだ。
しかし、どれだけ探しても、宙に浮いているであろう冬馬の姿を、見つけることが出来ない。
「ど、何処に行っちまったんだい。」
「あんた、加減間違えて、吹き飛ばしたとかじゃないでしょうねぇ。
それ、本当に洒落に成ってないわよ。」
霊夢が、少し離れたところから、怒鳴るような声で萃香に叫ぶ。
「そこまで、酔っちゃいないよ〜。」
上空を見つめながら、霊夢に返すと、再び目を凝らして冬馬の姿を探す。
その時だ。
「何じゃこりゃあああああああああ。」
丁度萃香の後ろ、10メートル程の距離に冬馬は立ち、叫び声を上げていた。
「松田優作かっ!!。」(分からない人はお父さんに聞いて見よう。)
萃香は振り向きざまに、指差しながら軽快に突っ込む。
「・・・・・・何よそれ。」
そんな萃香に、怪訝な目を向る。
「いや〜、その言葉には、こう返せと紫に教えられてて。
それよりも、あんた、よく意識を保て・・・・・た・・・・・もんだぁ?」
萃香が、冬馬に指をさしたまま固まる。
不思議に思った霊夢も、冬馬の方にめをむける、そして萃香同様に固まる。
そこには、腰まで有る、真っ白髪の青年が立っていた。
それだけならまだ人間と呼べるだろう、しかし、その青年は、獣の様な耳が頭から生えていて、おまけに髪と同色のふわふわした尻尾が生えていたのだ。
「と、冬馬なの?」
先程まで、見ていた姿とまるっきり違う者、しかし、見覚えのある顔に、聞き覚えのある声。
それらが、その者が冬馬である事を証明する。
霊夢や萃香の驚きも然る事ながら、それ以上に当の本人が、一番驚き焦っていた。
「た、多分。」
故に、当の本人から帰ってくる言葉も、何処か自信なさげだ。
「あ、あんた妖怪だったのかい?」
萃香が、気を取り直して聞く。
「んな訳あるか、俺は正真正銘の人間だ。」
強気に答えるが、その姿で言っても、何の説得力も無い。
「こ、これは、どうするの?続けるの?」
突如として起きた事に、ゲームの続きをするかどうかを二人に問う霊夢。
「萃香は、当然。」
と答え、腕をぐるぐると回し、やる気満々なのをアピールする。
冬馬は、暫く自分の体を確認して、両手に目を向けて呆然と立ち尽くす、そして。
「今更、うだうだ考えてても仕方が無い、やる。」
そう言うと、重心を落として構えを取り、アニメなどで見た戦闘体勢の真似事をする。
双方の同意を確認した霊夢は、「そう。」っとだけ呟くと、2,3歩後ろに下がり、ゲームの行く末を見届ける。
「あんた、本当に面白いね〜、昨日から見てたけど、更に興味が沸いてきたよ。」
「昨日?何処で見てたんだ。」
「ひ・み・つ。行くよ。」
その言葉と共に、萃香は地面を蹴り、冬馬との距離を一気に詰める。
「ッシ。」
萃香は鋭く息を吐きながら、拳を放つ。冬馬はその拳にタイミングを合わせ、手の平で軽く横から押して拳の起動を変え、拳の起動と逆の方向に、少し体をずらして交わす。
冬馬には、やはり萃香の動きがスローモーションの様に見えていた。
普段は、こんな事は有りえないのに、動きが見える。
だからこそ、出来た回避行動だった。
「っとと、まだまだ。」
しかし、萃香もそれを踏まえた上での攻撃だったのか、そのまま冬馬の直ぐ後ろに着地すると、後ろに飛んで全体重を乗せたヒップアタックをお見舞いする。
「ぐあ。」
まじかで起こされた予想外の動きに対処できず、諸にそのヒップアタックを食らい、体が勢い良く吹き飛ぶ。
「くそ。」
スローモーションに見えると言っても、それに迅速に対応しなければ意味が無い。
3メートルほど後方に飛ばされながらも、体勢を直ぐに立て直し構える。
そこに、すぐさま萃香が飛び込んでくる。
「ほらほら、反撃してこないのかい?」
萃香の言うとおりだ、攻撃を受けているだけでは、決して勝てない。しかし、冬馬は攻撃できなかった。
相手は『女の子』だ、勢い良く続きをするとは言ったものの、冬馬はその考えの所為で、手を出せずにいた。
女の子に手を上げる、女の子が手を上げてきても、それだけは出来ない。
そんな、ジェントルメン思考が冬馬に攻撃の手を出させないのだ。
「あんた、まさか私が女だからだとか、そう言った理由で攻撃してこないんじゃないだろうね〜。」
萃香は、攻撃の手を緩める事無く、冬馬の思考を呼んだかのように、的確な言葉を放つ。
図星だった冬馬は、黙ったまま攻撃をかわし続ける。
「もし、そうなら、本気で殺すよ?そこまで侮辱されちゃ、あたしも黙ってられないからね。」
その言葉に、嘘は無いのだろう。その証拠に、言葉の後に放たれた拳は、今までの物とは速さも威力も違っていたのだ。
スローモーションに見える世界でも、その速度は、大の大人が投げる野球ボール程の速さが有った。
当たれば確実に「相手を殺す」一撃、避けることは出来てもその衝撃で体が横に吹き飛ぶ。
「くうう。」
ズザザザザ。
受身を取れないまま、地面をすべるように転がる。
「ふん、やっぱりそうなのかい?女だからとか男だからだとか、そんな使用も無い理由で手を抜いているのかい?
舐めるのも大概にしろよ、お前の目の前に居るのは鬼だよ?
知ってるか知らないけど、鬼は人間を食らう、その事に何の引け目も感じやしない、上手いから食うんだ。
あんたがもし、そんな理由であたしに負けてみろ、骨も残さずに食らい尽くしてやる。」
明らかに、今までとは違う物が萃香から発せられている、俗に言う殺気という物なのだろうか、それは冬馬には解らない。
でも、、自分を取り巻く空気がチリチリと嫌な感覚を覚えさせる。
そして、何より自分が善しと思ってしている事が、目の前の女の子を、酷く傷つけ怒らせている事を理解させる。
冬馬は立ち上がると、再び構える、頬に何か伝う物がある、汗かと思ったが違う、先程避けたの萃香の一撃で、冬馬の頬の肉をスッパリと切れていたのだ。
だが、そんな事はもう気しない、竜巻に巻き込まれ、地面を転がり、体中は傷だらけ、そこたら中に痛みが走っている
「いくぞ。」
初めて冬馬のほうから攻める、地面を蹴り、思いっきり萃香に突っ込むと拳を突き出す。
「ふん。」
しかし、あっさりとかわされる。