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東方『神身伝』

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「うう〜、もっとゆっくり歩いてよ〜。」

そんな彼に対して、琴美が文句を言う。

「おんぶしてもらっといて、文句かよ。」

当然の返事を返すが、その返事に対して不服だったのか、琴美が黒味掛かった笑顔を浮かべて告げる。

「このまま、吐いてもいい?。」

「おま、解った、把握したからそれだけはやめろ。」

琴美発言に焦りながらも、歩の進め具合をゆっくり慎重な物にして彼は自室まで到着した。 
部屋に着いた彼は、琴美をベッドに座らせると、その足で台所に向かい、コップに水を注ぎ彼女に手渡す。

「ぷっはー。」

ただの水を、これ以上無いほど美味しそうに飲み干すと、コップを彼に手渡し、ベッドに仰向けに倒れこむ。

「はあ〜、おまえな〜、毎回毎回何で俺なんだよ。

彼氏に迎えに来てもらえよ。」

「良いじゃない、幼馴染なんだからケチケチしたこと言ってんじゃないわよ〜。」

琴美は悪びれることも無くそう告げると、大きく呼吸をしてから上半身を起こして、眠そうな瞳で睨み付ける様に彼をみる。

「それに、彼氏とは別れた。」

それを聞いた瞬間に、少しばつの悪そうな顔を浮かべ、おでこに手を当て聞こえない声で「それでか。」と呟く。
ベッドに座る彼女の前にしゃがみ込んで、顔をしたから見上げる。

「っで、今回は何が原因だ?」

「知らないわよ、いきなり『別れよう』って言われた。」

少し俯き、表情が見えないようにする彼女を見た彼は、目をそらして『仕方が無い』といった感じにため息を付き、ゆっくりと立ち上って彼女の頭に優しく手を乗せる。
琴美は可愛らしいルックスと、その明るく無邪気な性格で、異性からそれなりにモテるのだが、なぜか決まって3ヶ月から半年程で付き合った異性に『ふられて』しまう。 
その度に自棄酒をしては、彼の家にお世話になっている。
勿論それ以外の場合でも、泥酔状態で家に転がり込んでくる、まるで自分の家のように。 
彼は琴美の頭に乗せた手で彼女を優しく撫でる。

「仕方が無い、夕方からバイトだからそれまでだぞ?」

「・・・・・・・・解った。」

琴美はその言葉を理解したのか、そのままベッドに潜り込んでいった。 
それを見てから、彼は再びパソコンの前に座り込みニコ動廻りの続きをはじめる。

「ねえ、冬馬。」

彼のその背中に琴美が声を掛ける。

「んあ?なんだ?」

冬馬と呼ばれた青年は、振り向かないまま、その呼び掛けに返事をする。

「・・・・・ありがとう。」

サササ・・・・・。

琴美はそれだけ告げると再び蹲る様にして掛け布団を頭からかぶった。
冬馬は、その言葉に小さなため息だけ付くだけで、返事をすることなくパソコンの画面に視線を向けていた。
午前中の出来事から、それなりに時間が経っていた。

「よし、何件か面接の申請出せた。」

冬馬がパソコンの画面を見ながらそんな事を呟いていると、再び携帯のバイブが鳴る。 
携帯を開くとそこには店長と書かれている。
バイトの時間では無いことを確認してから電話にでる。

「はい、お疲れ様です。どうしたんっすか?
え!一人休みで足りないから、今から出てくれ?
わ、解りました、今から向かいます。」

ッピ

携帯の受話器を落とし、ベッドに目を向けと、そこには寝息を立てている琴美がいた、起こそうと近づくと、その瞳からは一筋の涙が流れている。
それを見た冬馬は「ふぅ。」とため息を付いて「・・・・・・今日だけだからな。」そう呟く。
そして、出来るだけ物音を立てないように急いで着替え、出かける準備をする。

テーブルの上にあるメモ帳に走り書きで何かを書き込み、タンスの小さな引き出しから鍵を一つ取り出して、そのメモ帳と一緒にテーブルに置く。
バイト先は、住んでいるところから自転車で10分程の場所にある駅前の喫茶店だ。
近くの駅自体がそれなりに大きく、止まる電車の種類も多い為に栄えている。
だから、時間によってはたかが喫茶店と言えど、その忙しさはそれなりのものだった。
バイト先に到着すると、客席は殆ど埋まっていて、店内は活気が溢れていた。 
これだけの客入りなら、フロアには店員が必ず4人以上は居るはずなのに、今は2人しか見えない。
状況は見るからに忙しそうなのだが、どの店員もそれを決して表情に出すことは無く、客に対する対応もとても丁寧だ。
だがそれは表面上だけで、裏ではもはや戦争になっている事は目に見えていた。 
急いでスタッフルームに駆け込み、制服に着替えて店に出る。 
すぐさま店長から呼び出され、コーヒーやサンドイッチを作る厨房へと入る。

「悪いね、冬馬君。」

「いや、どうせ暇だったから良いですよ。
それより、何をすれば。」

店長の謝罪に対して、気を使われないような返事を簡単に返し、自分への指示を促す。

「じゃあ、外をお願い。」

「はい、解りました。」

早速仕事に取り掛かろうと厨房から出ようとした時に、店長から「バイト代はずむから」と声が聞こえたが、今は無視だ。 
時間帯は午後の1時。 
昼飯時だからだろう、客のテーブルにはサンドイッチやらスパゲティーやらが並んでいて、各々食事を取っている。
客の追加メニューや席への案内、お会計に片付け。
言うだけなら簡単に言えるし、それ程忙しいと思えるような仕事の内容ではない。
しかし、それも数が多くなってしまえば重労働になるのではないだろうか? 
それらの仕事をこなしている内に時間は流れ、店内が落ち着きを取り戻したのは3時過ぎ頃だった。
殆どの客が昼食の休憩時間を利用してここに来ているため、忙しくなる時間帯もそれに比例する。
特に平日とも成ればそれは、そのまま客入りに影響を及ぼす。 
客が帰った後のテーブルの片づけをある程度終わらせると、午前中からいたバイトのメンバーが、私服に着替えて「お疲れ様でした。」の声と共に店を出て行く

「おつかれー・・・・・はふ〜、ようやく落ち着いたなあ〜。」

独り言のように呟きながら、残りの洗い物に手を掛ける。

「助かったよ冬馬君、ほんとうにありがとう。」

そんな冬馬に店長が後ろから声を掛ける。

「いえいえ、困ったときはお互い様です。」

俺はこのバイトをそれなりの期間続けている。
その御陰で、店長や他のバイトのメンバーからも、それなりに頼りにされている。
そうなってくると、ただのバイトであってもそれなりに責任感という物が芽生えて来るもので、
それに答えようと自然と努力してしまう。
俺は、そんな今の自分を嫌いではない。

「あ、そうそう。冬馬君さ、もし君にその気が有るならなんだけど、うちで正式な社員として雇いたいと思ってるんだけど、どうかな?」

不意に店長の口から重要な言葉が、実に軽いノリで出てくる。

「っぶ、っえ?えぇ。ってか店長、そんな重要な話をさらっと言わないでくださいよ。」

驚きながらもしっかりとツッコミを入れる。
それに対して「あはは、ごめんごめん」といいながら、店長も苦笑いを浮かべる。

「っで?どうかな、この話。」

「あ、はい、勿論喜んで受けさせてもらいます。」

フリーターと言う、今の自分の不安定な立場にはまたとないチャンスだし、断る理由も無い。
作品名:東方『神身伝』 作家名:お⑨