二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

明日香さん、はなしてください!

INDEX|3ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 


「ねえ、さっきの『硫化銀』ちゃんだけどさ」
 ミーナさんが話題を戻します。いえ、彼女は「硫化銀」を否定していたんですから、その名前で呼ぶのはちょっと……。
「もしかして、タケちゃんってことないよね?」
 ……なんですか、それ?反射的にiPadを使ってYouTubeに書き込みをしている武人くんを想像してしまいました。以前、コミケで銀くんと一緒に女装している武人くんを想像して笑ってしまったことがありましたが、あの時銀くんはどんな格好を想像していたんでしょうか?私は目の前にあったキュアサンシャインの衣装で想像しましたけど。もっとも銀くんの場合は自分も女の子のコスプレをしているからいくらでも思いつくでしょうが。
「いや、ソラ×ギン×タケのそれぞれが恋人同士だったら平和的解決になりそうじゃない?」
 どうして私まで掛け算に巻き込まれてるんですか。それだと私は攻めってことですか?ミーナさんは暴力的なシチュエーションは受け付けないと言っていたので、私が一番か弱いということですかね、銀くんよりも。……だったらいいか。
「人の実在の彼氏で掛け算するのはやめてほしいんですが」
 私の主張にミーナさんは
「ええ!フシギちゃん、合宿の時は喜んで話しに参加してくれたじゃない、ギン×タケ」と不平を口にします。
「喜んでません。第一あの時と状況は違うじゃないですか。あの時は二人とも単なる部員でしかなかったんですから」
「でも、これだったら三人の関係は強固になるでしょう?」
 そうでしょうか?むしろ武人くんと銀くんの仲が深まって私はかえってのけ者になりそうな気がします。どう見ても二人のほうが女の私よりお似合いのカップルに見えます。男同士なのに。なんて不条理な。
「あれ?明日香さんじゃない」
 弐久寿の声で我にかえりました。たしかに社会科資料室から出てきたのは高等部十二年で我がBB部の副部長、菊池明日香さんです。
「明日香さーん」
 ミーナさんが明日香さんに声をかけます。
「あら?」
 明日香さんもこちらに気がついたようです。
「今日、緊急ミーティングありましたか?」
 私たちBB部の活動日は木曜日です。たまに緊急ミーティングと称して集合が金曜日にかかることがありますが、今日はそんなメールは届いてなかったはずです。
「いえ、ちょっと用事があって……。あなたたちは?」
 専用の部室棟がないBISでは他の教室などを間借りすることがほとんどです。BB部はミーティング等をこの社会科資料室でビブリオバトルの実演は図書室を借りて行います。
 ですから、今日は誰も使っていないだろうと目論んで「恋バナ女子トーク会」をこの社会科資料室で行うはずだったらしいです。ミーナさんの話しでは。
「明日香さんも参加しませんか?『恋バナ女子トーク会』」
 ミーナさんが明日香さんにも声をかけます。明日香さんもつい最近、恋人ができましたから十分参加資格はあるでしょう。でも、私たち全員その場面を目撃してるんですよ。今さら何を聞くんですか?
「私はパス。明日の文化祭のビブリオバトルのために練習したいから」
 あっけなく断られました。当たり前です。明日香さんは明日の文化祭のビブリオバトルに賭けてるんですから。そこで全国高等学校ビブリオバトル2014関東・甲信越大会の出場権を獲得して恋人である真鶴《まなづる》高校ミステリ研究会会長、早乙女寿美歌《さおとめすみか》さんと全国大会で対決したいと昨日教えてくれました。もちろん私も全国大会に出たいと思っています。だから、ここでこんなことをしてる場合じゃないはずなんですが。相変わらず強引に誘われると弱いです。喫茶店でやるとか言われなかったのも大きかったですが。お金ないし。
 明日香さんは右手をあごにかけて考え込んでいます。しばらくして社会科資料室のドアをコンコンとノックしました。
「銀くん?」
 明日香さんの口から意外な言葉が出ました。
 ……銀くん?どういうこと?部屋の中にいるの?他にも誰かいるの?いないんだったらさっきまで明日香さんと二人きりだったってこと?
 さっきの「硫化銀」さんを思い出します。もしかして、あれは明日香さん?
 いえ、そんなわけはありません。明日香さんには立派な恋人がいるのですから。しかも……。
 でも、銀くんだったら可能性があるんじゃないかと思ってしまいます。それに、理系の明日香さんなら元素記号でアカウントを作るなんてこともあるかもしれません。
 ああ、否定する材料も肯定する材料も同じように出てきます。たった一言でこんなに心がかき乱されるなんて……。
「空たちが部室を使いたいって言ってるんだけど。……立てる?」
 立てる?何?今、銀くんは中で倒れてるんですか?……どうしてそれで明日香さんは部屋から出てきたんですか?
 思わず部屋のドアを開けようとノブに手をかけます。しかし、ドアは開きません。
 明日香さんがノブにかけている私の手を両手で押さえているからです。なぜ?
「明日香さん、離してください!」
 しかし、明日香さんは手を離しません。それどころかよりいっそう力を込めて押さえにかかっています。
 どうして邪魔をするんですか?中で何があったんですか?
 ミーナさんも弐久寿も戸惑っているようです。それはそうでしょう。二人とも明日香さんのことは私よりもよく知っています。無意味な意地悪や嫌がらせなどからもっとも遠い人です。それがわかっているから、今の明日香さんの行為に何か意味があると考えて私の手助けができないのでしょう。
 でも、私にとってはそれどころではありません。銀くんが部屋の中で倒れてるかもしれないんです。
「銀くん!大丈夫?」
 扉の向こうにいるはずの銀くんに向かって声をかけます。
「空、落ち着いて。大丈夫だから」
 明日香さんが代わりに返事をします。
 だったらどうしてその手を退けてくれないんですか?私が中に入れない理由が何かあるんですか?二人きりで何をしてたんですか?
 あなたは銀くんの二人目の彼女候補なんですか?「硫化銀」さんなんですか?
 だったらそれでも構いません。明日香さんだったら相手にとって不足はないです。
 でも、今は中にいる銀くんが心配です。
「銀くん!」
「……空さん」
 中から声が聞こえました。間違いなく銀くんの声です。
「僕は大丈夫だから。自分で開けるから手を離して」
 その言葉に従って手を引っ込めます。明日香さんもドアから手を離しました。
 扉が開いて中から銀くんの姿が現れました。ちゃんと立っています。ダンスを習っているせいか、姿勢がよくて立ち姿が決まってるんです。贔屓目ですかね。
 でも、心なしか顔が紅潮しているようにも見えます。少しかがんで銀くんの前髪を右手でかき上げて彼のおでこに私のおでこを軽く当てます。昔、母がしてくれたように。
 銀くんが息を止めてるのがわかります。私に息を吹きかけないように気づかってくれてるのね。
「……熱はないみたいだけど心配だから一緒に帰ろう」
 私がそう言うと銀くんはいっそう顔を赤くして首を振ります。
「いえ……今日はダンスのレッスンがあるから……一人で帰れるから心配しないで」