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明日香さん、はなしてください!

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 彼は俯きながら、そう言ってバッグを手にそそくさと私の傍らを抜けて廊下に出ました。
 途中、明日香さんの方を振り返って
「明日香さん、すみませんでした」そう言って頭を下げました。
 明日香さんはなんでもないという風に手をひらひらさせます。
 廊下を足早に歩く銀くんの背中を見つめていると、明日香さんがそっと私に近づいて囁きかけました。
「空、約束は守ったから」
 ……約束?……!?……ああああああああああ!
 思い出しました!たしかに、あの約束が守られたなら、いままでの状況がすべて説明がつきます。よりにもよって銀くん、どうしてこのタイミングで……。
 いえ、銀くんの責任じゃありません。もちろん明日香さんのせいでもないです。私がお願いしなければ、明日香さんは銀くんの頼みを断っていたはずですから。
「空ちゃん……これ」
 声の方を振り返ると弐久寿が私のトートバッグとテキスト、それにケータイを持っていました。どうやら思わず放り投げてしまったようですね。
「ありがとう」
 お礼を言って荷物を受け取ります。ミーナさんが近づいてきて
「ねえ……約束ってなに?」
 と聞いてきました。どうやら明日香さんの声が聞こえたんですね。でも、それは言えません。銀くんの名誉のためにも。墓場まで持っていきます。ごめんなさい。
 ミーナさんはそれ以上は尋ねようとはしません。なにか事情はあると察してくれているのでしょう。ありがたいです。
 明日香さんは何ごともなかったように歩き出します。私はその背中に向かって声をかけました。
「明日香さん!」