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明日香さん、はなしてください!

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第二話 明日香さん、話してください。



「明日香さん、私の裸を銀くんに話してくれませんか」
 十八年も生きてくると耳を疑うような言葉に出くわすことが何度かある。それにしても今日の伏木空の言葉は今までにないくらいの強烈なものだと思う。
 九月五日の金曜日の放課後に空から呼び出され、いきなり冒頭の言葉を投げかけられてしばらくぼう然としてしまった。
「……ねえ、空。確認しておきたいことがあるんだけど」
 我にかえった私は空に社会科資料室の椅子の一つを指して座るように促す。空は素直にスカートが椅子に被らないように両手で押さえながら座る。
「あなたは銀くんと付き合っているはずよね」
 二人が付き合いはじめたことはすぐに噂になった。それもそのはずで当の銀くんが空がいじめられないように先手を打って噂を流したらしい。おかげで昨日のビブリオバトルは私が噂の的になることを避けることができた。
 空は私の質問に軽く頷いて答える。
「だったら、私に頼まないで、恋人であるあなたが見せてあげたらいいんじゃないかしら。その方が早いでしょう」
 出来る限り穏やかな口調でいるように心がける。ただでさえ人を見下したような口調になりがちで、そんなことでトラブルを起こしたくはない。
「さすがにそれは……難しいです」
 まあ、それはそうでしょう。付き合いはじめたからといって簡単に次の行動にステップアップできる方が珍しいと思う。私だってそうなんだから。
「だけど、どうして私なの?」
「私と銀くんの共通の知り合いで私の裸を見たのは明日香さんだけですから」
 簡潔な答えが返ってくる。弐久寿の家で行われた“空ちゃん大改造計画”の時は空はショーツは着ていたから、その時いたミーナも弐久寿も空のクラスメートの睦月清麗奈さんも空の全裸は見ていない。合宿の時に一緒にお風呂に入った私だけが空の裸を見ているのだ。
「それでどういう訳で銀くんにあなたの裸の話しをしなくちゃならなくなったのかしら?彼に頼まれたの?」
「いえ、銀くんはそんなこと頼んだりしません。私が勝手にお願いしてるだけです」
 空は首と両手を同時に振って否定する。そして、初デートの時の話をしてくれた。
「なるほどね。でも、やっぱりわからないな。あなたは彼に自分の裸を自由に想像していいと言ってあげた。だったらそれでいいんじゃない?無理に私が語ったら彼の想像の余地を無くしてしまうじゃない。
 それだって十分一般的じゃないとは思うけど、想像する自由を妨げないだけでも空はいい彼女だと思う。その上、彼氏のために語り部を用意するなんて『いい彼女』を通り越して『都合がいい彼女』になってないかしら」
「『都合がいい』……ですか」
「銀くんから頼まれたならまだしも、そこまでしてあげるのは彼のためにもよくないんじゃないかしら」
「……そう……ですね」
 私の言葉にずいぶん気落ちしたみたいね。少しかわいそうになってくる。
「……いいわ。やってあげる」
 私の変わり身に空は呆気にとられたような顔をした。
「どうしてですか?」
「まあ、一言で言えば面白そうだから。そんな話しをされて銀くんがどんな反応を示すか興味あるもの」
「意地悪ですね」
 空がニヤリと笑いかけてくる。
「だけど、私からは働きかけないわよ。あくまでも銀くんから聞かれたら応えるだけだから」
「はい、それでいいです。ありがとうございます」
 空は膝に手をついて頭を下げた。
「だけどそんなことにはならないでしょうね。銀くんがそんなバカだとは思わないし」
「はい!銀くんはそんなバカじゃありません」
 空はにこやかに断言した。