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プロローグ1:ミーシャの回想

 ベルリンが陥落した時、おれは11だった。国は戦争に勝ったが、おれの親父は帰ってこなかった。ドイツ軍を押し返しながらベルリンへ向けて進軍する途上、ポーランドで戦死したのだ。
 おふくろに、泣いている暇はなかった。母子ふたりになったおれたちはまず、終戦とともにソコールニキ地区の共同アパートに引っ越さなければならなかった。親父が亡くなったので、軍専用のアパートに住めなくなったからだ。それと同時に軍の支給品も手に入らなくなり、生活水準は低下した。軍からの恩給も出るには出たが、特別な戦功もなかった下士官の遺族に支払われる金額など、たかが知れている。
 それでもおれは、パグラチオン作戦に参加してミンスクを解放した親父を誇りに思っていた。それに、戦争で親父を亡くしたり、生活が窮乏したりしたのは、なにもおれの家だけじゃない。貧乏暮らしで劣等感を感じる理由などあるはずがない。むしろ堂々と胸を張るべきだと思っていた。
 けれど学校では、その理屈が通用しなかった。

 おれが通っていた学校は、入学した直後から英語の授業があり、4年生からは全科目の授業が英語で行われるという、外国語に重点を置いた特別校だった。そして、党の幹部とか中央官僚とかの特権階級や、一般市民の中でもいわゆるホワイトカラーというべき知的職業に就いている親たちが子弟を送り込む、事実上の「上流階級向け」の学校だ。そこでは、戦争で父親を亡くした生徒というのは極めて少数だった。
 たかが下士官の息子であるおれが、そんな学校に通っていた理由は単純だ。社会階級が存在しないという建前の国の、それも首都に、上流階級の子弟だけの学校なんてものがあってはマズイ。だから一般労働者の子供に限定した一定数の入学枠が、毎年必ず設けられていた。そしておれは、その枠内で入学した生徒のひとりというわけだ。
 けれど、そんな欺瞞的な方法で「平等」を演出したところで、現実が変わるワケではない。特定枠で入学した労働者階級の生徒たちは、クラスの大半を占める「上流階級」の生徒たちとは生活環境が違いすぎて、話が合わずに孤立してしまう。そして結局1年か2年で普通学校に転校していくことになるのだ。3年生になる頃には、特定枠で入学した生徒はおれ一人だけになっていた。
 もちろんおれだって、他のクラスメイトとうまく折り合ってたワケじゃない。ハッキリ言って、学校では完全に浮いていた。それでもおれが転校しなかったのは、尻尾まいて逃げ出すような真似だけは嫌だという、ただそれだけの意地だった。
 そんなワケで、おれはクラスメイトから一定の距離を置いて無関心を決め込んでいた。当然、親しい友人というのは一人もいなかった。だが一方で、どうにも気に入らないヤツというのだけは二人いた。

 一人はオレグ・マンスーロフという悪ガキで、親父が党の上級幹部だか何だか、とにかく特権階級の中でもだいぶ上の方らしく、その親の身分をカサにきてふんぞり返っている、鼻もちならん野郎だった。同じく特権階級の親を持つ連中を取り巻きにし、それ以外の生徒たちを家来のように扱っていたが、何よりハラが立ったのは、教師どもがヤツに気を使って特別扱いしていたことだ。明らかにヤツに非がある場合でさえ、教師がやんわりと遠回しに注意するのは余程のことで、大抵のことは不問になった。そのせいでヤツはますます図に乗って、まるでツァーリのように振る舞っていた。
 もう一人はサーシャ・ザイコフといって、こちらは絵に描いたような優等生だった。品行方正で頭がよく、どの教科でも成績はいつも一番で、お約束のようにクラス委員をやっていた。教師どもからは絶対の信用があり、来賓への挨拶とか学校対抗の弁論大会とかがあると、ほぼ必ず代表に選ばれた。けれどもそれを鼻にかける様子はなく、どちらかといえば控えめな生徒で、自分から前に出ることは稀だった。それでも頼まれれば大概のことは引き受け、誰に対しても態度は穏やかで親切だったから、クラスでは人望を集めていた。
暴君マンスーロフでさえサーシャに対しては気後れするらしく、彼のいる所では少しばかり鳴りをひそめていたほどだ。
 こうして書き出すと、まるで文句のつけようがない。サーシャのどこがどう気に入らないかと訊かれたら、文句のつけようがないから気に入らないと言うしかない。とにかく、そのあまりにも完璧な優等生ぶりは、なんだか気味が悪かった。あるいはそれは、おれの単なるヒガミだったのかも知れないが。
 とにかくサーシャ・ザイコフは、気に入らないクラスメイトだった。
作品名:We have been friends since... 作家名:Angie