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 翌朝。
 クラスメイト達は、左目の下に赤紫色のアザをつけて登校してきたサーシャを見て目をむいた。すぐさま彼の周囲には、何があったのか訊ねようとする生徒たちの人垣ができた。けれど皆がいくら訊ねても、サーシャは詳しく話そうとはせず、ただ「ちょっと運動しただけ」と言ってにっこり笑うのだった。その笑みは普段と同じなのだろうが、青アザのおかげで不気味に見え、妙に凄みがあった。
 だが皆が本当に驚いたのは、その後だった。
 いつもなら、教室の出来事には素知らぬ顔を決め込んでいるミーシャが、肩を押し込むようにして人垣に割り込んできて「よぉ、サーシャ!」と陽気な声をかけたのだ。声をかけられたサーシャも「やあミーシャ、お早う」と明るく応え、驚くみんなを尻目に、二人は屈託のない会話を始めた。
「お、腫れはひいたな。まだ痛むか?」
「もうほとんど痛みもないよ。でも、こんな凄いアザになるとは思わなかった」
「鏡みてビックリしたろ」
「それより前に、母が奇声をあげた」
「ははは、そりゃそうだ」
「これ、消えるのに何日ぐらいかかるかな?」
「うーん、まだ紫だからなあ。まあ4〜5日てとこか」
「今週中は消えないかぁ。こう目立つと、さすがにちょっと恥ずかしい」
「まあいいじゃんか。記念だと思ってつけてろよ」
 その場にいたクラスメイト達は、唖然として顔を見合わせた。話の内容からみて、ミーシャがサーシャのアザの原因を知っているのは明らかだ。となれば、ミーシャが殴った…というのが真っ先に皆の頭に浮かぶ原因だが、それにしては二人とも陽気で楽しそうだ。それにそもそもこの二人、いつの間にこんなに親しくなったんだ…???
 ペーチャ・コーズロフも、事の成り行きの半分までは確信できたが、後の半分はさっぱり分からなかった。昨日の帰りがけに見た二人は、かなり険悪な雰囲気だったのに…。
 皆がキツネにつままれたような顔でサーシャとミーシャを取り囲んでいるところへ、暴君マンスーロフが数人の取り巻きを引き連れて登校してきた。
「おい、なんだお前ら。何の騒ぎだ?」
 そう言いながら近づいてきたマンスーロフは、人垣の真ん中にミーシャがいるのを見て驚いた顔をした。
「なんだ、ミーシカ。今日はずいぶん珍しい所にいるじゃんか」
 そしてニヤッと笑うと、取り巻きのひとり、ロマン・モロトフを振り返って言った。
「ちょうどいいや。なあ? 昨日お前が見たことを皆に聞かせてやれよ」
「昨日の夕方、お前を見かけたんだぜ、ミーシカ」
 マンスーロフに促されたモロトフは、一歩前に出て胸を反らせて言い放った。
「聞けよ、みんな。学校を出て左の方にある角の商店でさ、こいつ、チョコレートを万引きしたんだ!」
「はあ? おれ昨日そんな店に行ってねえけど?」
 ミーシャはバカにしたような顔でそう言ったが、相手は引かなかった。
「そりゃあ、お前は行ってないって言うだろうさ。でも、僕は見てたんだからな」
「それは何時ごろ?」
 そう訊き返したのはサーシャだった。
「昨日ミーシャは、放課後に先生に呼ばれて、みんなより帰りが遅かったんだけど」
「そう、5時半ごろだったかな。学校から帰る生徒もほとんどいなくなった頃だから、誰にも見られないと思ってやったんだろうさ」
 ミーシャは憤慨して言い返そうとしたが、その袖をサーシャが引っ張って止めた。
「5時半ごろか…。ところでローマ、君はそんな時間まで学校の近くで何してたの?」
「…えっ?」
「昨日、僕がピオニール委員会から戻って来たのが5時すぎで、そのとき君はもう教室にいなかったよね。それから30分も学校の近くにいたのは、何のためだろうと思ってさ」
「えーと、それは、その…」
 しどろもどろになったモロトフは、ちらりとマンスーロフの方を見て助けを求めたが、暴君は不快そうに顔をしかめてそっぽを向いた。その途端、周りで聞いていた全員が「なんだ、そういうことか」という顔になった。昨日の朝ミーシャにやり込められたマンスーロフが、仕返しにミーシャに濡れ衣を着せようとして、モロトフに事実無根の目撃談を語らせたのだ。
 暴君に見捨てられて、ひとりで嘘の後始末をしなければならなくなったモロトフに、助け舟を出したのはやっぱりサーシャだった。
「ねえローマ、もしかしてカン違いだったってことはない? 誰にでもあることだよ」
「あ、そ…そうかも知れない。あの店の前を通ったのは、もっと早い時間だったかも…」
「じゃあ、ミーシャを見かけたと思ったのも、見間違いじゃないの?」
「え、見間違い…だったのかな…。そうかも知れないけど…」
「そうだろうね。なにしろ昨日、ミーシャと僕は一緒に帰ったんだ。僕の家に来て食事したんだよ。だから、彼が昨日の帰りにその店に行ってないことは、僕がハッキリ保証できる」
 サーシャはそう言ってにっこりしたが、モロトフの方はすっかり萎縮してしまった。その背後では、マンスーロフも冷や汗をかいていたに違いない。その頃には彼らもとっくにサーシャの青アザに気づいていて、ちらちらと目を向けていたが、もうそれについて訊ねられる雰囲気ではなくなっていた。
 一方のミーシャは、モロトフやマンスーロフに腹を立てるのも忘れて、呆れ顔でサーシャを眺めていた。ミーシャの無実を保証するなら、最初から一緒に帰ったとだけ言えば済むものを、彼は素知らぬ顔で無用の質問から始め、みんなの前で彼らに自らの墓穴を掘らせてしまった。そうしておいて最後のとどめに、最強のカードを切って見せたのだ。
 こいつ、実は怒らせると怖いやつかも…
 ミーシャは内心で舌を巻いたが、同時に心強い相棒ができたという気もしていた。

 その日以来、クラスの雰囲気は大きく変わった。以前に比べて明るく活発になったサーシャと、誰とでも陽気に話すようになったミーシャは、クラスのムードメーカーになった。二人はまさに無敵のコンビだった。マンスーロフは、自分に恥をかかせた二人に何とか一矢むくいようと、その後もしばらくは色々と画策していたが、サーシャとミーシャが結託すると、屁理屈でも暴力でも策略でも勝てないということが分かってきて、徐々に鳴りをひそめていった。
 ミーシャは約束通り、サーシャにケンカの…というよりボクシングの基本を少しずつ教えていった。休みの日にはソコールニキ公園で、一緒にジョギングや縄跳びといった基礎トレーニングもやった。おかげで学校を卒業する頃にはサーシャは、「たいがいの相手には負けない」というミーシャのお墨付きをもらうまでになった(むろんミーシャ自身は、その「たいがいの相手」には含まれないのだが)。

 ところで、先にケンカの罰としてミーシャに与えられた英作文の宿題はどうなったかというと、もちろん期限内に滞りなく提出された。サーシャが手伝ったことは、言うまでもない。
作品名:We have been friends since... 作家名:Angie