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代打の代打
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はじまりのあの日1 始めましたの六人

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リビングの、西洋式。両開きのドアを開け入る彼

「こっちこっち~」

さっきくつろいでいた、ソファを抜け、テーブルスペースへ。彼の手を引きながら。シャンデリア。大時計。張り出したエントランス。置かれた大テーブルの上

「すごいな―」

開口一番、彼。中央、麻婆豆腐に茄子の味噌炒め。野菜サラダ、シーフードサラダ。ロールキャベツ。まっ赤な万願寺唐辛子を、まるごと使ったブータン料理。各々には、小さいながらも、尾頭付きの鯛。スープに浮かぶ水餃子。新しく来る人の歓迎会。楽しいことが大好きなみんな。買い出しから調理まで。料理ができるのも。できないのも。お祭り騒ぎで準備した。新しく来る歌い手は、どんな人だろう。どんな声だろう。どんな歌を紡いでくれるんだろう。みんなでわいわいと、話しながら、想像しながら

「オレ、料理得意でさ。何が好みか分からないから、じゃあ、いっそって思ってね。和洋中。奇をてらって、プラス、ブータンって感じ。すごく辛いから、気をつけて、ブータン。あ、餃子は、ニンニク使ってないから、安心して食べて」

白いシャツに、ピンクのベスト。薄いグレーパンツのカイ兄、笑いながら

「作ったのか、これ全部」

料理の数に目を丸くしていたのが、このキレイな人には似合わずに、つい吹き出してしまう。みんな、ユニフォームから私服に着替えて

「来てくれる新人さん。みんなでおもてなししたいからね」
「わざわざ―ありがとうカイト、みんなも」
「かたいかたい、あたし達のほ~が楽しんだくらいなんだからさっ。ところで神威君、お酒は飲めるかな」

グレーのロングパーカーに、白のホットパンツのめー姉が聞く

「ああ。飲めるもなにも、むしろ好きだ」
「あら、嬉しい。飲み友確保。好きなお酒は」
「何でもいけるが、好きなのはポン酒とか焼酎とか―」

交わされる大人組の会話に、わたしの気分も上を向く

「リンも手伝ったんだよ~。普段、こんなごちそう食べられないから嬉しいんだ~」

まだ自分のことを名前で呼んでいた頃。会話に参加したくて、わりこみたくて。紫のひとにそう告げる。

「そうか、リン、お利口さんじゃない。そうか、普段は食べられないか。俺が来て、一つ役にたったかな」

そう言って撫でられる。その大きな手の感触が、ひたすらに心地よかった

「じゃ~乾杯は日本酒っ。アタシとっときの純米。ミク~ぐい飲み~」
「は~い」

白いフリルドレス、グレーのハイニーソを着たミク姉が、キッチンへかけてゆく。ワンポイントは、エメラルドのリボンタイ

「じゃぼくはバナナ・オ・レ」

薄水色のパーカー。ライトベージュジーンズのレン、手を伸ばす。ぐい飲みと、自分の野菜ジュース、わたしのオレンジジュースをトレイに載せて。ミク姉が、そろそろと戻ってくる

銘々のグラスに、飲み物がみたされ

「じゃ~、発声は神威君」

めー姉が言う。歓迎会、発声を命じるのはめー姉。ミク姉の歓迎会からの伝統だという

「俺」
「そ、本日の主役だから」

そうかとつぶやき少し考えて、彼は言った

「今日は本当にわざわざありがとう。この料理をみれば、皆の人となりが見てとれる。これから末永くよろしく。いろいろと教えてくれ。そして一曲でも多く、俺と歌ってくれると嬉しい。では―」

かかげるぐい飲み。ユニフォームのサムライ姿を思い出したのだろう。めー姉がつぶやく

「ぐい飲み、ポン酒、サムライ。戦国の出陣式みたいね」

みんなが笑い、場の雰囲気が、よりいっそう華やいだ

「「「「「「かんぱいっ」」」」」」
「いざ、出陣じゃぁぁぁぁぁ」

めー姉のコメントにのった彼が、場の雰囲気をさらに盛り上げた。カイ兄の料理は、いつも以上においしかった覚えがある。それは、新しく来た彼のもたらした、非日常の雰囲気。そして、カイ兄の心遣い。やって来る歌い手をもてなそうという心遣い。その相乗効果が引き出した味だった。とにかく、彼と話したくて、わたしは声をかけた

「がっくん、これもおいしよ」
「ありがとリン。俺、茄子の味噌炒め好きなんだよ。嬉しいじゃない」
「ほら、ほらっ。メニューにいれてよかったでしょレン」

得意気に、弟を見る私。レンは、茄子の味噌炒め、ご馳走の中に要らないのではと反対していた。何故なら

「ぼく、なすキライなんだもん」
「ま、でかくなりゃ、食べられるようになるんじゃない」

という自分本位な理由で。紫様は、ご機嫌の時、くだけた時。本当に、相手に心を許した時。わりと、語尾に「じゃない」が付く。気付いたのもこの時だ

「リンはすきだよっ、なすみそっ」
「へぇ、やっぱり、リンのがお姉さんだな」

そう言って彼は目を細めた。どきりとした、覚えがある。なでられた覚えがある。得意げに笑った、覚えもある。歓迎会が本格化する前、ぱんぱん、とカイ兄が手を鳴らす

「じゃあ、酔いがまわらないうちに、みんなで歌披露。オレら歌い手の本分だからね」
「リン歌う」

真っ先に手を上げる。意外そうな顔をした、カイ兄を覚えている。聞いてほしかった、彼に。一番に、わたしの歌声を。あの当時、持てる限りの全てを込めて歌い上げる。思いの丈を。気持ちを。あの日のわたしの、すべてをこめて。歌い終わって、最初に話しかけてきたのは、他でもない、彼だった。まるで子供のように、微笑み、わたしの手をとって

「PROJECTに参加できてよかった。君の、リンの声を、歌を聴けてよかった。リンに会えてよかった。俺の歌が、何かが、かわるかもしれない。みんな、俺の歌、聴いてくれ」

そういって、そのまま彼は歌い始めた。わたしの目の前で。引き込まれたなんて言葉では、安すぎる。のみこまれた。歌に。声に。彼に。彼のすべてに

「わ~、すごいねぇリンちゃんも、がくさんも」
「神威君とリンがねぇ。神威君の声、確かにすごいわ」
「リンと対称的なのに。こんなにキレイに重なるんだ、初めてで」
「ぼくも負けない」

彼の歌の途中、歌いたい衝動。彼と、歌いたい衝動が抑えきれずにわたしは、声を重ねた。はじめは、遠慮がちに。途中からは、本気で。歌い終わって彼の方から手招きされる。もう一曲、はじめから歌おうと。歌い出したら、もうあっという間。彼とはじめて声を重ねた時間。歌い終わって興奮冷めやらないわたしたちに、かけられたのがそんな言葉だったはず。うろ覚えなのは、彼と歌った感動の方が、何倍も大きかったから。それからは、みんなの歌披露。彼は、どの歌い手と曲にも目をきらめかせ、感動しきりだった。子供のように、目を輝かせて。でも、わたしのように、声を重ねることはなかった。それは、いまでも、密かに、わたしの誇りだ

「リン、ありがとう。言葉が見つからないな。でも、これだけは
言わせて。キミと歌えて本当に良かった」
「わたしも、がっくん。すっごく楽しかった。これからいっぱい歌おうね」