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はじまりのあの日1 始めましたの六人

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歓迎会に戻る前、言葉を交わす。宴もたけなわ。飲むほどに赤くなるめー姉とカイ兄。全く顔色が変わらない彼。わたしは、新しくできた兄の上。大きな彼の、膝の上。話したくて。構ってほしくて。よじ登った、膝の上。わたしの『指定席』となる、膝の上。あの日は『兄』と思っていた。他愛のない会話に、相槌をうち。笑い。はしゃぐ。楽しくてしょうがなかった

「でも神威サン。サムライっていうより『殿(との)』って感じだなあ。うんオレ『殿』って呼ぶよ」
「おい、変なあだなつけんじゃない」
「い~じゃないの神威君。お殿様~」
「うんっ決めた、今決めた。文句は許しませんの。先輩権限」
「権力乱用じゃな~い」
「神威君、許したげて。こんなにハメはずしてるカイトあんまりないの。うれしいのよ、年の近いトモダチできて」

わたし達歌い手は、人里から離れた場所で生活する。プライベートをなるべく、見せないように。買い物も、極力協力者の店で済ます。スタッフなどに、年の近い人はいても、友達ではない。カイ兄は本当に嬉しかったのだと思う。友達ができて。相当、ハメをはずしていた。空になった彼のぐい飲みに、焼酎をなみなみとそそぐめー姉も、すごく楽しそうだった

「がっくん、たのし」

あの日のわたしが問いかける

「ん」

ふいを付かれ、不思議そうな顔をする彼に、たたみかける

「今日楽し」

ふっ、と息をつくと、頬を、目元を緩め、わたしの頭をわしゃわしゃなでる。たまらずに、ぴゃ~と声をあげる

「たのしいね。ほんと楽しい。憧れのみんなに会えて。歌を、声を聴けて。聴いてもらって。こんなに歓迎してもらって。リン、君とも出会えて。ほんとに楽しいじゃない。幸せだよ」

リン、君とも出会えて。ほんとに楽しい。幸せだ。その言葉を、何度心の中で反芻したかわからない。宴が進み、うつらうつらし始めたわたしを、部屋までだっこで、連れてきてくれたのも彼だった

「おやすみリン、良い夢を」

初めて彼にかけられた、良い夢の魔法。幸福感に包まれて、眠りについたことを覚えてる。想いをはせていた私。鳥の鳴き声に、意識は今へと引き戻される。庭先で惚けていたか。いけない、いけない。午前中に、家仕事をしなければ。わたしは、記憶の森から帰ってくる―