はじまりのあの日4 摩天楼とむらさ・きいろ
TVに映る、NY最大手新聞の字幕。あの経験、本当におおきなものだったな。記憶の扉、もはや自動ドア状態で開けられる―
「ルカ姉にあ~う」
「妹分ながら嫉妬しちまうぜ」
「ありがとうございます。お二人だって綺麗ですよ」
NYでの四日間の公演。日を追うごとに、来場者の数が増えていったそうだ。そしてご褒美、オフの時間。光のさざ波のもと、カフェで休憩。キャラメルカプチーノが美味しかった。夕刻、世界一のクリスマスツリーを観る。タクシーで移動。高級ショッピング店が立ち並ぶ、五番街でお買い物洋服のお店の中。みんなで試着。ミク姉、テト姉と共に感嘆。薄桃のドレス。本当にキレイ。まるで花嫁だ。紅いドレスのテト姉、エメラルドグリーンのミク姉。黄色いチビは見劣りしている気がしてならなかったあの日。まあ、今でも勝てる気はしない
「ありがと~ルカ姉」
「ふっ、ふん。嬉しくなんかねぇんだからっ」
「なんでこうなってんの」
「あら、似合ってるじゃない、レン。将来が心配なほど」
「だよね、め~ちゃん」
「レン君とてもかわいらしいですよ」
「可愛いぞ、レン。リンも愛らし~じゃない」
「ありがとがっくん」
紫の彼の言葉。簡単に気持ちが向上する、単純なわたし
「そのまんまお買い上げでいいんじゃネ、レン。あ~あ。ウチもルカみたくキレイに成れたらな~」
「リリィさんも、濃金色ドレス。大変良くお似合いです。お綺麗ですよ。レンさんも、とても可愛らしいですね」
薄茶色の燕尾服を纏うキヨテル先生。言われてリリ姉、まっかっか
「僕も似合うと思うんだけどな~レン」
「俺も。コレで歌うってのアリだよな」
「あたしも。がくちゃん、かいちゃん。レンクン、挟んで立ってみて」
同行した、プロデューサー達の声。ダークシルバーのタキシードの彼、オモシロそうに。ブラックのモーニングを着たカイ兄、吹き出しながら。中央に、黒のフリフリドレスのレン、不満げに
「れんれん、いちばんお姫様」
「「「よし、これ行こう」」」
「~~~~~カンベンしてくれ~~~~~」
後日、これがきっかけで、あるユニットと名曲が生みだされた。その後、寄ったアクセサリーのお店。華やぐ姉達から、やや距離を置く。一番ちびで、女らしくないわたし。可憐な宝石類なんて、どうせ似合いやしないから。と
「なにしてんの。リンも選ぼうじゃない」
「え、がっくん」
わたしの手をひいて。躊躇なく、選び始める彼
「わたし、にあわないよ~」
「俺が似合うの、選ぼうじゃない」
彼がアクセサリーを選んでくれる。イスに座らされ、とっかえひっかえ試着。照れ、幸福、恥ずかしさ。ぐるぐるにまざる感情で、全身が熱を持って。頭のてっぺんまで熱くなって。足が床に付いていないような感覚
「これ。リンにぴったり。Sorry―」
「が、っくん」
「お買い上げ~」
「そんな、悪いってば~」
わたしを尻目に、店員さんと英会話。もう止められない。そうしてわたしに贈ってくれた、ネックレス。銀のリングにプラチナリボンのついた、ショートチェーンのネックレス
「ちょっと早い誕生日のプレゼント」
彼に連れられ店の外。摩天楼、電飾装飾が光り輝く、クリスマスシーズン夜空の下。そんな、映画のようなシチュエーション
「寒いけど、少しだけ」
防寒のため、巻いていたマフラーが外される。かがんで、さっそく首に掛けてくれる。目が合う。ぞくりとするほど優しい目。イルミネーションの燦めきに、完全に勝るそのキレイな瞳の目尻が下がる。そして、ショーウインドウのガラスに、わたしを向ける。写し出される、デザイン違い。白いコートのわたしと彼。首元に輝く白銀の首飾り
「ほら、お似合い。大人になっていくじゃない。11歳、おめでとう、リン」
わたしの頬を優しくなでて、くれながら。一週間後、十二月二十七日。わたしと、レンの誕生日。覚えていてくれた彼。幸せで涙が込み上げる。鼻声で、彼に告げる
「ありがとう、がっくん。大切にするね」
「喜びすぎなんじゃない」
「さ~次、化粧品行くわよ~男共~あら、神威君、リン」
華やかに出てくる、めー姉。姉達も、百花繚乱。女王と姫が家臣達を引き連れている風情。店の前、佇むわたし達に気がついた
「リン、マフラー外すな。風邪をひくじゃん」
「りんりん、ねっくれす似合ってる。かあいい」
気付かないレン、気付いてくれたカル姉
「わわっ、かわいいネックレス。ぽ兄ちゃんが買ってあげたのかな。リンちゃん、すっごく可愛いよ~」
「私も、そう感じます。大変お似合いですよ。まるで、リンさんのために作られたかのようです」
破顔しながら、めぐ姉。眼鏡をつまみ、微笑みながら先生
「そ、リンにちょ~っと早い誕生日プレゼント。後でレンにも。ドレス買ってあげようじゃな~い」
「いらね~からっ、がく兄」
「うそうそ、コレ。レンに。おめでとうレン。大きくなっていくじゃない」
彼がレンに手渡したのは、青水晶の数珠ブレス。ネックレスと一緒に購入していたらしい
「え、ほんとっ、ありがとっがく兄、やった~」
たちまち、喜んで、腕にはめ、飛び跳ねるレン
「お似合いです。かっこいいですよ、レンくん」
褒めるルカ姉。ますます喜ぶレンの後ろで
「神威君」
「殿」
「「ありがと」」
「NYのごたごたと、夢見心地で、リンとレンの誕生日」
「また、トビそうになってた。本当にありがとう、殿」
「忘れちゃダメじゃない。また泣かせる気か」
溢れる彼の優しさに、改めてふれた摩天楼での夜。宝石店のCMのBGMで、意識が今へと帰ってくる。あのネックレス、今も大切にしまってある。ここ一番の時に身につけるため―
作品名:はじまりのあの日4 摩天楼とむらさ・きいろ 作家名:代打の代打