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代打の代打
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はじまりのあの日5 過ぎゆく時・育む想い

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さて、そろそろ始めようと調理にかかる。彼がくれたエプロンを付ける。味玉子用に、玉子を茹でる。料理酒。酒の気を飛ばし出汁を取る。テレビをBGMに、夕食の準備。手をあわせ、感謝して、魚のアラを取る。きょうの煮付けは鯒(あらかぶ)だ。気象予報士が、天気を告げる。明日の気圧は不安定。突然の雷雨に注意せよとのこと。折りたたみ傘をもつと良いという。折りたたみ傘。いざって時に無いんだよね。それに、雷雨じゃアレでは役不足。前にあったな、ゲリラ雷雨。11歳。五月だったな。わたしの意識、記憶の階段、降りてゆく。今日はもうそんな日だ―

「わ~」

土砂降りの雨の中を走る。バス停から、家(マンション)まで十分。バスの中では晴天だった。到着したとき、黒い雲が現れた。嫌な予感に、走り始めて数十秒。稲妻と共に土砂降りに。よりによって、こんな日に。いつも同じバスに乗るレンとミク姉、仕事で公欠。私一人貧乏くじ。そんなに、日頃の行いが悪かったのか。せめて十分くらい待っとけと、雨雲に悪態をつく




「ええっ」

マンションに着く。玄関前のテラスに駆け入る。開けようとして、固く閉ざされた玄関の戸。今日、全員が居なくなることはないと言っていたのに。だから、鍵を持っていない。瞬く閃光。轟く轟音。吹きすさぶ強風。ますます雨脚が強まる。込み上げる、絶望感。しゃがみ込む。なんでみんなまで居ないんだろう。なぜ、こんなめに遭うのだろう。寒くなってくる。どんどんと、マイナス思考になり始め、泣きそうになった時

「大丈夫、リン。防犯カメラの映像(え)たまたま観たら、濡れ鼠で来るじゃない。他のヤツ。買い出し行ってたり、緊急の仕事入ったり。俺、仕事午前で退けたから」
「が、っくん」

傘を持ち、かがんでわたしを見下ろす彼。微笑んで

「家(うち)おいで。風邪引くじゃない」

絶望感が、たちどころに幸福感。マイナス思考が吹き飛ぶ。彼の暖かさで結局、涙腺は決壊する

「ありがとう~がっくん~」
「泣かなくてもいいじゃな~い」

さしのべられる手。その手を取る。引っ張って、立たせてくれる。歩き出す。相合い傘で、彼の家へ。玄関にはいる。彼が持ってきてくれた、タオルを使う。水気を切る

「靴下だけ脱いで、そのまま入って。今、風呂焚いてる。まだぬるいかもだけど、シャワーしてる間に、ちょうど良くなるんじゃない。そのままじゃ風邪引く。体、あっためようじゃない」
「う~ほんとにありがとう~がっくん」
「服は適当に洗濯しとこうじゃない」
「ありがとう~」

そうして入った檜風呂。初めて入った隣家の風呂。広い浴槽。高い天井。暖色のLED。温泉に来たかのようだ。暖まる。気持ちよさにぼわ~っとしていると

「着替え、此処おいとくから。ドライヤーも使って」

外から彼の声。そうだ、着替えがない。彼は、用意してくれたという。ありがたさと同時に、込み上げた思い。有るんだろうか、アンダーウエア。何だか顔が熱くなった