はじまりのあの日6 海と花火と膝の上
迎える前日の早朝の出来事
「車割り、どうする神威君」
「運転できんの、俺、カイト、テル、アルだろ、車は三台だから」
はじめは一台だけだった大型ワゴン。メンバーが増えて、移動用のワンボックスも増えた。中古でも、車が購入出来るくらいに成れたのは、ありがたいことだ。機材やスタッフは、すでに前日先行している
「おい、かむい。ボクが抜けてるじゃね~か」
「移動距離が長いからな。ヤロウに任せとけ、重音」
「お、さんきゅ~かむい。後で踏んでやるぜ」
軽口を言うテト姉。この日は車で移動する理由の一つは費用の節約。わたし達の暮らす場所から、その街へは、二時間あれば着くらしい。もう二つ、理由があって
「車で行けば、好きに動き回れるからな。何もない町だが、イベント終わったら観光しよう。荷物も積んでおけるじゃない。ま、土産も買ってこよう」
「殿に賛成。混雑回避にもなるだろうし」
という、彼と兄の発案。PROJECTが少しずつ世に広まって、わたし達の周りに、人だかりが出来る。そんなありがたい現象が起きるようになったあの頃。テト姉は、優しい彼らの計らいで運転せずに済んだ
「わたし、がっくんの車が良い~」
車割り会議を車座で行う大人組に、ズケズケと申し出る
「じゃ、リンは俺の車ケッテ~イ」
「ゎたしも、に~さんの車がいいな~」
「よし、IAも決定~」
「あにさまさま、かるも」
「良いじゃない、カル姫様。これで一号車ケッテ~イ。なんだかハーレム状態じゃない」
一号車から三号車まで、各車、割り振りが済む
「先導するからついてこ~い。お・ま・え達~」
「「「「「「「「「「いえ~いアニキ~」」」」」」」」」」
出発を告げる彼。そういえば以前、IA姉が言ってたな『おまえ』って呼ばれるの嫌だったと。それを聞いた彼
「それは済まなかったIA。これからは使わない。許してくれ」
丁寧に謝った。しかし、当のIA姉
「ん、い~よ~、に~さん。ゎたし、神威のに~さんの『お・ま・え・達』好きだから~」
と言うことで、以来問題にならない。わたし達メンバー、彼の『お・ま・え・達』好きなんだよね。なんだろう、気合いが入る。思いやってくれているのが伝わる。ぞんざいな『オマエ』じゃない。本当の『御前(おんまえ)』という響きがするから。その彼、途中、定期的にサービスエリアに寄って休憩時間を取ってくれた。その休憩中、メンバー全員に飲み物を買ってくれた、優しい彼
「これ、限定サイダーみんなに」
「わ、殿ありがとう~」
「そんなのあんだね~がく兄、あんがと~」
「カタジケナイ。拙者モ頂くでゴザル」
メンバーに、サイダーを手渡す彼。蓋を開ける。どういうわけか、レンのものだけ吹き出す炭酸。不意打ちを食らって顔ずぶ濡れ。ルカ姉が拭いてあげる
「このキャラメルも限定~。笹団子味、お米の味~。好きなヤツは召し上がれ~」
「ありがとがっくん。わたしお団子味~」
「はいリン、あ~ん」
「あ~ん」
紙をとって、食べさせてくれる
「私にもいただけますか、神威さん。お米味が気にかかります」
「もちろんだ、テル。運転も体力使うからな」
言って、同じように紙を取る。そして、先生に迫る彼
「お口開けようじゃな~い」
「いや、神威さん、それは無しで」
「「「「「「「「「「え~、見たいんだけど」」」」」」」」」」
女性陣に言われ、仕方なく口を開ける先生。Boysなんたら的構図。なんだか可愛らしかった。このシーン、ミク姉によって激撮され、マンションのディスクに永久保存されている
「そうだ、メイコ。終わったら越後の酒、買い込もうじゃない。美味い銘柄たくさんアルぞ~」
「あら、楽しみ。打ち上げでも吞むわよ~」
「拙者モ期待が膨らむでゴザルヨ~」
「さぁ、その越後に向かおうよ、殿。まずはステージ、成功させなきゃね」
ふたたび乗り込んで出発
「がっくん、飲み物のキャップ開けておくね。あと、トマト味スティック、あ~ん」
「ありがたいじゃな~い、リン。うん、美味しいな」
ナビシート、運転する彼のお世話をさせて頂く。移動時間も、彼となら楽しい以外の何でも無かった
「わ~、何だか萌え萌え~」
「ホントだね、IAちゃん。仲良しこよし~」
IA姉、めぐ姉が、愉快げに話しかけてくる
作品名:はじまりのあの日6 海と花火と膝の上 作家名:代打の代打