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Lovin 'you ~If~ 前編

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「ありがとう!助かるわ!とにかく薬に耐性が出来てしまっていて中々効かないの。それにアナフィラキシーショックも心配で、安易に強い薬は投与出来なくて…。」
封筒からデータの入った記憶媒体を取り出しながらセイラが微笑む。
「それから…赤ん坊の方は?」
「ええ、あの子の方は大丈夫よ。とても強い子で、あんなに小さいのに必死に生きようとしているわ。最近ではミルクもしっかり飲める様になって来たのよ。体重も増えて来たしそろそろ保育器から出せそうなの。」
「…そうですか…」
その、カイの微妙な反応にセイラが疑問の声を上げる。
「カイ?どうしたの。何か気になることでも?」
カイはチラリとアムロに視線を向ける。
「セイラさん、長くなるんでチョット場所を変えませんか?」
何も反応しないとはいえ、聞こえない訳ではない。
アムロにはあまり聞かせたくない内容だと察したセイラは別室へとカイを案内する。
二人が室内に入って少しした後、誰かが扉をノックする。
「どうぞ」
扉を開けると、そこにはミライが立っていた。
「ミライ…、アムロは?」
「看護師の方が見えたから少し代わってもらったの。カイ、私も聞かせて貰っていいかしら?」
「ミライさん、勿論です。」
カイは端末に記憶媒体をセットし、データを画面に表示させる。
「このデータの中に、赤ん坊の…ニュータイプの遺伝性の研究項目があります。前にも話した通り、アムロは…体外受精で無理やり妊娠させられています。」
その言葉にセイラが眉間に皺を寄せる。
「アムロ…どんなに辛かった事か…」
「ええ、そうですね…。記録によると…妊娠初期と出産直前に自殺未遂をしています。」
「…!!」
セイラとミライが息を飲む。
「一回目は鏡を叩き割ってそのカケラで手首を切って、二回目は独房内で全身を自ら壁に打ち付けて…そのまま破水して出産になっています。」
「あの全身の痣と頭部の裂傷はその時の!?」
「ええ、おそらく…」
アムロを救出したのは産後、数ヶ月が経ってからだった。しかし、体力や抵抗力の落ちた身体は治癒力も低下しており、まだ身体中に痕が残っていたのだ。
「アムロが今の状態になったのは出産直後からです。その前もかなり精神的に不安定だった様ですが、出産直後にニュータイプ研究所管理官から言われた言葉が引き金になったらしいです。」
「そんな!一体何を言われたの!?」
カイはセイラを見つめ、少し思案し、視線を彷徨わせた後、意を決したように大きく息を吐く。
「赤ん坊の…父親の名前です。」
「父親?」
と、セイラはある人物の名を思い浮かべる。
アムロが絶望してしまう程の男の名前…それは、アムロと深く関わりがあり、遺恨のある人物。そして、おそらくニュータイプの素質のある者。
「まさか…」
セイラの反応にカイは小さく頷く。
「シャア・アズナブルです」
「ああ!」
セイラが口元に手を当て、悲鳴を上げる。
「なんて事!過去に殺し合いをした相手との子供だなんて!それに…アムロはララァというニュータイプの少女を…兄さんの大切な人を手に掛けてしまった事にとても心を痛めていたわ!」
「ええ…。データには画像データも入っていたんですが…。アムロの絶叫後…、心肺機能が著しく低下して…なんとか蘇生処置で命を取り止めたものの、その後の画像データでは…ずっと今の状態です。」
「ああ!アムロ!」
セイラは涙を流しながら絞り出す様にアムロの名を呼ぶ。
その二人の会話を、少し思案しながらミライが聞いていた。
「ミライさん?」
その様子を疑問に思ったカイが声を掛ける。
「え、ああ。ごめんなさい。」
「ミライ?」
セイラもミライの様子に、涙を拭いながら問いかける。
「実はね、フラウから脱走計画の時の事を聞いたの。」
「例の失敗に終わっとという?」
「ええ、その時はまだ妊娠初期で、妊娠に対しての不安で、アムロはかなり精神的に不安定だったそうなの。」
「そうでしょうね、当然よ」
「それで、フラウが子供を愛してあげられたら精神的に救われるのではと、経緯はどうあれ、子供を愛せないかと…その子は失った家族の代わりにアムロの家族になってくれる存在なのだと言ったそうよ。」
「家族…、アムロにとってはとても魅力的な言葉ね…。」
セイラ自身も、ザビ家によって両親を失い、最愛の兄も自分から離れていった。その場にいるミライもカイも皆、あの戦争で家族を失っている。『家族』という言葉がどんなにアムロの心に響いたか痛いほど理解できるのだ。
「ええ、アムロもそう思う様になってくれたらしくて、少し落ち着いたそうよ。脱走も実のところ、子供をモルモットにしない為に踏み切った様なの…」
「アムロ…」
「最後の自殺未遂は…生まれてくる我が子をモルモットにしない為の最終手段だったのかもしれないわね…」
ミライのその言葉に、カイもセイラも言葉が出なかった。


話合いの後、セイラは海の見えるテラスで夜空を見つめていた。
『キャスバル兄さん…。今、どこにいるの?アムロが兄さんの子供を産んだと知ったら…兄さんはどう思う?兄さんは…アムロをどう思っているの…』
届かないと分かっていながら、夜空に向かって問い掛ける。
ア・バオア・クーで、兄はアムロに同志になれと言っていた。憎んでいる相手に言えるものだろうか?ララァという少女を巡ってアムロと遺恨は残るものの、アムロ自身を憎んでいたとは思えなかった。寧ろ、アムロを求めていた様にも思う。
「そうだわ…兄さんは…アムロを求めていた…」
「私もそう思うわ」
突然、背後からミライに声を掛けられる。
「ミライ」
ミライはセイラの横に立つと、一緒に空を見上げる。そこには無数の星が瞬いていた。
「私も…赤い彗星はアムロを求めていたと思うの。執拗にガンダムを…アムロを追いかけてきたのはララァという少女に対する復讐の為だけとは思えなかった。」
「ミライ…」
「ただの勘なのだけど…もうすぐアムロにとっての好機が訪れる気がするの。」
微笑むミライにつられてセイラも微笑む。
「ミライの勘ならば信憑性があるわね」
「ふふ、実はね。さっきブライトと連絡が取れて、来週辺りに地球へ降りてくるらしいわ。その時にこちらに顔を出すそうよ。」
「あら、久しぶりの夫婦の再会ね」
「ええ、ブライトが…宇宙から"希望"も一緒に連れて来てくれる気がするの。」
「"希望"?」
「そう。なぜだか分からないけれど、そんな気がするの…」


一週間後、アーガマは地球降下の準備に入っていた。
ブライトは艦長室にクワトロを呼び出して作戦の確認をする。
「了解した。この作戦でいこう。」
クワトロが部屋を出ていこうとするのをブライトが呼び止める。
「クワトロ大尉、ジャブローの作戦終了後にカラバの拠点で補給を受けます。その時に少し艦を離れたいのだが良いだろうか?」
「それは問題無いが、何処へ?」
「私的な事なのですが、妻がその近くにいる知人の所に身を寄せているのが分かりまして、出来れば会いに行きたいのです。」
「奥方が見つかったんですか?それは良かった。ええ、構いません。ああ、でも念の為カミーユを護衛に連れて行って下さい。」
「ああ、そうだな。そうする。すまないがよろしく頼みます。」
「了解した。」
作品名:Lovin 'you ~If~ 前編 作家名:koyuho