二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Lovin 'you ~If~ 前編

INDEX|5ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

「ああ、やはり…何か引き合うものがあるのかもしれんな。ところでアムロの状態は?」
「感情はやっぱりまだ全然戻らないけれど、赤ちゃんの事は分かるみたいなの。それでね、最近は子供に授乳をするようになって…。母親の本能なのかしらね。」
「そうか…」

カミーユとファがテラスに出ると、暖かい光の中、白衣を着た医師と思われる金髪の男性と、車椅子に乗った赤茶色の髪の女性が佇んでいた。
その女性の手には赤ん坊が抱かれている。
カミーユは二人の元に近付き、女性に向かって問い掛ける。
「子守唄を歌ってたのは貴女ですか?」
カミーユの問いに医師の男性が首を傾げる。
「え?彼女は…歌っていないよ」
『歌うわけがない…歌どころか、声すら発しないのに…』
「え?そんな筈ない、ほら、こんな歌です。」
カミーユは聞こえた子守唄を口ずさむ。
その歌声に、女性がピクリと反応する。
「え?アムロ?」
医師がその反応に驚いて声を掛けるが、女性からは返事が無い。
「カミーユ、いきなり失礼よ!」
ファの制止も聞かず、カミーユは女性の前に膝をつき、その顔を見上げる。
よく見ると、女性はずっと虚ろな表情で、その視線は何も写していないようだった。
ただ、大事そうに赤ん坊を抱いている。
「あの…」
カミーユが女性に触れた瞬間、二人の間に宇宙が広がる。
「え?」
驚くカミーユに対して、女性の表情は変わらない。しかし、カミーユの中に女性の思惟が流れ込んでくる。
それはとても辛く悲しく、切ないものだった。
気付くとカミーユの瞳から涙が溢れる。
そして、同様に、両親を目の前で失ったカミーユの悲しみも女性に伝わる。
赤ん坊を抱いている女性の右手がゆっくりと動き、カミーユの髪を優しく撫ぜる。
表情の無い、女性の瞳からも涙が一筋零れた。
その様子をファと医師が驚いた表情で見つめる。
そして、そんな二人の様子をミライとブライトがそっと見守っていた。
「彼との出会いは…アムロに心を取り戻す"きっかけ"を与えてくれるかもしれないわね…。」
「そうだな…。そう願いたい。」
しばらくカミーユとファは女性と共にテラスで過ごした。
不思議と女性の表情が和んでいるように感じる。カミーユはその女性の手を握り、そこから伝わる悲しみと優しさを感じて、少し懐かしさの様なものを感じる。何故だかわからない…けれど、離れ難いと思った。
その後、女性が目眩を起こしてフラついた為、医師と共に部屋に戻ってしまった。
カミーユとファがその後ろ姿を見つめていると、ミライがそっとファの肩を叩く。
「彼女がさっき言っていた友人よ」
「ミライさん…彼女…」
ファが普通では無い女性の様子に、戸惑いながらもミライに尋ねる。
「ええ、とても辛い事があって…心が壊れてしまったの。だから…ここで静養しているのよ。」
ファは薄っすらと涙を浮かべて頷く。
そして、隣ではカミーユがその両目に涙を滲ませ、女性を見つめている。
「カミーユは…アムロと共感してしまったのね。」
「え?」
「彼女はニュータイプの…アムロ・レイだ。」
カミーユの後ろでブライトが言う。
「アムロ…・レイ?!だって今の方は女性…」
ファの言葉に、カミーユが涙を拭いながらブライトに振り返る。
「ああ、アムロ・レイは女だよ。当時は諸事情があって男の格好をしていたが、本当は女性だ。」
カミーユとファは驚きに目を見開く。
「だって、アムロ・レイって連邦の凄腕パイロットで、一年戦争の英雄でしょう!?“連邦の白い悪魔”なんて渾名まである!それがあんな華奢な女性だなんて!」
「ああ、でも事実だ。」
「カミーユ、お前にはアムロの心が視えたんじゃないか?」
カミーユはさっきの事を思い出し、胸元を握りしめる。
彼女の悲しみと共に、戦場で戦う彼女と赤いモビルスーツが見えた。そして翡翠色の瞳をした褐色の肌の少女と、その死の瞬間。
次に視えたのは研究室の様な場所での拷問のような日々。その中で、縋る様な想いで思い出す“同志になれ”と差し出された赤い男の手。そして、絶望。
カミーユの瞳から再び涙が零れる。
「あんな…辛い…事…」
「カミーユ…」
心配気に覗き込むファの手を思わず握る。
「どうしてあの人があんなに辛い目に遭わなくちゃいけないんですか!なんで!あんな酷い事!!」
「アムロは戦後、連邦のニュータイプ研究所の被験体となり、様々な実験を受けた。」
「実験!?あれは拷問だ!」
「…ああ。あれはアムロが心配停止の重体に陥るまで続けられた。一命をとりとめたアムロをそこでようやく研究室から出してやれたんだが、連邦から出してやる事まではできなくてな。北米のシャイアンで7年間幽閉される事になった。」
「七年も!?」
「ああ、そして…アムロがようやく体調を取り戻した頃…また実験が再開されて…」
「ニュータイプの遺伝性の研究」
カミーユの言葉に、そこまで視えたのか…と、驚きながらブライトが頷く。
「さっき抱いていた赤ん坊は、その実験で産まされた子供だ。」
カミーユが怒りに、拳を握り締める。
「…でも…、アムロさん…赤ちゃんをとても大事そうに抱いていた…」
ファの言葉にミライが頷く。
「彼女の幼馴染がね、経緯はどうあれ血の繋がった子供を愛してあげられないかってアムロを諭したそうなの。それで…、あんな状態になっても赤ちゃんの事だけは分かるみたいで…」
それだけが救いだと、ミライの顔が語っていた…。



アムロを連れて部屋に戻ってきた医師は、赤ん坊をベビーベッドに寝かせて、アムロを支えながらゆっくりと車椅子から立たせる。フラつく身体を慌てて引き寄せて、そのままそっと胸に抱き締める。
「初めて…感情を動かしたね。涙を流すなんて……それに、いつも心の中で子守唄を歌っていたのかい?坊やが時々不意に泣き止んで、ホッとした表情を浮かべるのを見るけど、もしかして君が子守唄を歌ったからかな?」
医師は優しく微笑むと、アムロをベッドへと寝かせる。
そのまま眠りに落ちていくアムロを見つめ、優しく髪を梳く。
「いつか…君の笑顔が見たいよ。僕には身体を治すことしか出来ないけれど、君の心を治してくれる誰かが、きっと君を救ってくれるよ」
『それが僕だと嬉しいけれど…ね』
医師、アルフレッド・ウォレスはベッド脇の椅子に座り、カイ・シデンから受け取ったデータに目を通し始める。
アムロへの最善の治療法を思案しながら…。


カミーユ達はセイラの好意で、夕食を共にし、そのまま屋敷に泊まる事になった。
結局、夕食の時もアムロは現れず、カミーユはアムロの気配を感じる方向を何度も目で追っていた。
「アムロが気になる?」
そんなカミーユにミライが問い掛ける。
「はい…。どうしたらアムロさんを救えるんでしょうか…。アムロさん…俺の為に泣いてくれたんです。とても…優しい人なんです…。そんな人があのままなんて悲しすぎます。」
「そうね…。でも、その為にはアムロの悲しみの元を取り去ってあげなければね…。」
「悲しみの元?」
「ええ、その悲しみを取り去り、救いの手を差し伸べてあげられれば…。」
「救いの手…」
カミーユはアムロと共感した時に見た赤い男の手を思い出す。
作品名:Lovin 'you ~If~ 前編 作家名:koyuho