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赦される日 - Final Episode 2 -

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 12月に入って、雪の降る日が多くなった。降った雪はもはや融けることなく地表に留まって、徐々にその厚さを増していく。村も、森も、マクシモヴィチのイズバも、一面の白に染まっていった。
 マーシャは相変わらず週に2回、イズバに通ってきていたが、村からそこへ行く道は雪かきをする人もなく、だいぶ歩きづらくなってきていた。少し前までは村のはずれから20分も歩けば着けたのだが、一歩ごとにくるぶし辺りまで雪に埋まるようになると、倍の時間がかかる。それでもマーシャは、息を切らせながらイズバまで歩いていたが、ある火曜日の晩にどっさりと雪が降って、翌日の水曜日には膝下までの新雪の層ができあがっていた。
 どうしたもんかねぇ…。
 マーシャはしばらく考えていたが、やがていいことを思いついた。さっそく納戸を開け、中をごそごそとかき回して、長らく使っていなかったスキーを引っ張り出した。道はほぼ平坦だから、足さえ雪に埋まらなければ楽に歩いていける。もっと早く思いつけば良かった。

 地面がすっかり雪に覆われても、マクシモヴィチは森歩きをやめなかった。雪が降りしきってさえいなければ、いつも通りに出かけていって、数時間後に雪まみれになって戻ってくるのだ。しかしその日は珍しいことに、イズバの主は外出もせず、シャベルを手に前庭の雪かきをしているところだった。マーシャが門の向こうに姿を現すと、マクシモヴィチは驚いた顔をして言った。
「…来たのかね?」
「そりゃあ、来ましたよ。今日は水曜日ですからね」
「道が雪に埋まって、ここまで来るのは大変だっただろうに」
「ちっとも大変じゃありませんでしたよ」
 マーシャは門を開けながら得意そうに言うと、スキーを脱いでかざして見せた。
「ほら、見てください。いいアイディアでしょ?」
 マクシモヴィチはシャベルを足下に突き立ててそれに寄り掛かると、呆れたようにマーシャを見た。
「そうまでして来てもらっては、申し訳ない」
「なあに、大したことじゃありません」
 マーシャはそう言ってからからと笑ったが、マクシモヴィチは真面目な顔で続けた。
「あんたがそう言っても、私の方は気が引ける。冬の間は私が自分で動くから、当分ここへ通って来るのはやめたまえ」
「あたしが来るのは迷惑ですか?」
 マーシャはちょっと心配になって訊ねた。
「迷惑だとは言ってない。正直なところ、あんたが来てくれるようになって、私はずいぶん助かっている。だが、季節が季節だ。これからは吹雪くことだってあるだろう。あんたの負担が大きくなりすぎる」
 これを聞いて、マーシャはなんだか感激してしまった。来てくれて助かるなんて、言ってもらったのは初めてだ。マクシモヴィチは好きにやらせてくれてはいるが、マーシャが強引に始めた事だけに、本当はどう思っているのかと、いつもちょっぴり不安だったのだ。
「アレクサンドル・マクシモヴィチ。あたしは来たいから来るんですよ」
 マーシャは言った。
「あんたの迷惑にならないんだったら、好きにさせてくださいな」
 マクシモヴィチは困ったような顔をして、ふぅ、とため息をついた。そしてしばらく考え込んでいたが、やがて頷いてこう言った。
「分かったよ。だが、絶対に無理はしないと約束してくれたまえ。ここに来る途中であんたに何かあれば、私だって責任を感じる」
「ええ、無茶はしませんとも。約束します」
「激しい雪の日や極端に寒い日は、来てはいけないよ。いいかね?」
「はい。ありがとうございます」
 マーシャが嬉しそうにそう言うと、マクシモヴィチはクスッと笑った。
「なんです? あたしは何かおかしな事を言いましたかね?」
「いや…。あべこべだと思ってね」
「あべこべ?」
「礼を言うのは私の方だ」
 これでマーシャは、もうすっかり感激してしまった。思わず目が潤んでくるのをごまかそうと、慌てて話題を変えた。
「それにしても、珍しいこと。今日は森に行かなかったんですか?」
「行こうと思ったら、門が埋まって開かなかったんでね」
 マクシモヴィチはそう言って、またシャベルを取り上げた。

 村人たちは、甥っ子のアリョーシャだけでなくマーシャまでが、すっかりアレクサンドル・マクシモヴィチに懐いてしまった様子を見て、少なからず驚いていた。大方の人々は、たぶん歳が暮れるまでにはマーシャも気難し屋の老人に音を上げて、使いを辞めるだろうと予想していたのだが、イズバへ向かうマーシャの様子は音を上げるどころか、近頃ではなにやら嬉々として見える。その頃には皆ももう、いちいち老人の様子を訊ねたりしなくなっていたが(なにしろ、マーシャの話はいつまでたっても大して変わり映えがしなかったので)、それでもマクシモヴィチの人柄について、村人の間には謂れのない誤解があると言うマーシャの言葉は、ようやく真実味を持って受け止められるようになったのだった。
 とはいえ、マーシャに倣って老人を訪ねてみようなどと考える物好きは(マクシモヴィチにとって幸いなことに)現れなかった。

 そうして歳は暮れてゆき、また新しい歳が始まったのだった。
作品名:赦される日 - Final Episode 2 - 作家名:Angie