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赦される日 - Final Episode 2 -

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「まあ待ちたまえ。森の中をまっすぐ歩くのは難しいものだ。方角を教えたところで、君ひとりではまた迷ってしまうし、2ヶ所のうちどちらが君のいた所なのか分からない。それに見たまえ、あと1時間もすれば陽が暮れて、森の中は暗くなる。もとの場所に戻るより、ひとまず私の家へ行く方がいいだろう。それだって近くはないが、ともかく迷わずに村まで帰れる」
「だって、パパたちは?」
「君の両親も、遅かれ早かれ村に戻ってくるさ」
 サーシャがそう言うと、少年はみるみる目に涙をためて抗議した。
「そんなことない! パパとママは、僕を置いて帰ったりしない! きっと僕を探してる!」
「それはもちろんだ。だが、君の両親だけで探すには、この森は大きすぎる。それに従兄弟たちがいると言ったね? 彼らは何歳だ?」
「10歳と12歳」
「それではまだ大人とはいえない。君の両親だって、彼らを放ってもおけないだろう。賭けてもいいが、君の両親はひとまず従兄弟たちを村に送り返し、代わりに大勢の大人を集めて、君を探しに戻ると思うね。だったら、彼らが森へ引き返す前に、君が村に帰り着く方が良くないかね?」
 そう言われて少年は少し考えこんでいたが、まだ不安が残るようだった。
「でも、もしパパたちが村に戻らずに森で僕を探していたら?」
「そうだな、日が暮れても探し続けるなら、君と同じように森の中で迷ってしまうだろうね」
 少し脅かすようにそう言うと、少年はまた目に涙を浮かべた。
「そしたら? どうすればいいの?」
 サーシャはちょっと笑って答えた。
「さあ、その時は、君が村人を集めて助けに行くんだな。そのためにも君は無事に村へ戻った方がいい。そうじゃないかね?」
 少年はようやくコックリと頷いた。それを見てサーシャは立ち上がった。
「よろしい、それじゃ行こうか。話している間に、どんどん日が暮れていく。暗くなる前に森を出よう。まだもう少し歩けるかね? それとも君をおぶって行かなきゃいけないかな?」
 すると少年は、袖口でぐいと涙を拭って、しっかりとこう答えた。
「大丈夫だよ。僕、自分で歩ける」

 ヴァロージャから事情を聞いたマーシャは、文字どおり大騒ぎした。森に詳しそうなのは誰かと近所を訊ねて回り、あちこちに電話をかけまくり、甥っ子の捜索に協力を求めた。その騒ぎは波状効果をきたし、約30分後には150軒ほどある村中に話が伝わった。ほどなくして村の中央広場には、あの森の地理に詳しいという男たちが20人ほど、手に手に懐中電灯を持って集まってきた。その中のひとりが地形図を持ってきて、どこでピクニックをしていたかをヴァロージャに確認した。次いでその地点を中心に、どのあたりを集中的に探すべきかが議論され、数ヶ所を手分けして探すため少人数のグループが編成されて、いよいよ出かけることになった。
 その時だった。
 広場に子供の声が響いたかと思うと、当のアリョーシャが父親をめがけて駆けて来るではないか。皆が呆気にとられる中、ヴァロージャは駆けてきた息子を抱き上げるなり大声で訊ねた。
「アリョーシャ! お前、いったい何処にいたんだ? いま、何処から帰って来た?」
 すると子供は後ろを指さして、こう答えた。
「ジェードゥシカ・サーシャが連れてきてくれたんだ」
「ジェードゥシカ・サーシャ?」
 アリョーシャの指す方向を見ると、背の高い人影がこちらに近づいてくる所だった。集まった男たちの間から、ざわめきが起こった。
「…アレクサンドル・マクシモヴィチ…!」
「もう何人か、探しに出てしまったかね?」
 アレクサンドル・マクシモヴィチは軽く会釈を返しながら、そう訊ねた。
「いや、これから出かける所だったんで…」
「そうか。では、間に合って良かった」
「でも、どうしてあんたがこの子を? 何処で見つけたんです?」
「森を散歩していたら、ばったり出くわしたんだよ」
 老人はそう言って肩をすくめた。
「その時にはもう陽が暮れかけていたし、この子も疲れているようだったので、とりあえず私の家に連れて帰ったんだ。私が村へ知らせに行く間、家で休んでいるように言ったんだが、どうしても一緒に行くと言って聞かないのでね。まあとにかく、皆が探しに出てしまう前に着いて良かった」
 それだけ言うと、アレクサンドル・マクシモヴィチはさっさと踵を返そうとしたので、ヴァロージャは慌てて礼を言った。
「あ、あの! どうもありがとうございました。ホントにご面倒をかけまして…」
「私は何もしていないよ。散歩していて偶然に出会っただけだ」
 マクシモヴィチは片手を振って、何でもなさそうにそう言うと、今度こそ踵を返して行ってしまった。その場に集まっていた男たちは、互いに顔を見合わせた。これが村の他の男だったら、大騒ぎして手柄を讚え、そのまま酒を酌み交わすところだ。そうでなくても引き止めて、もっと丁重に礼を言ってもてなすのが筋じゃなかろうか。だが、あの老人が迷子を見つけて連れてくるとはあまりに意外で、誰もが呆気に取られてしまい、その間に当人はさっさと帰ってしまったのだった。

 ともかくアリョーシャは無事に戻り、ヴァロージャも騒がせた詫びと礼を述べたので、男たちは解散することにした。彼らはもちろん子供の無事を喜んだが、それと同時に何だか勢いをくじかれたような、どうにもきまりが悪いような、ついでに言えば酒宴の口実を逃したような、なんとも中途半端な気分を抱えて、それぞれの家に引き上げていった。
作品名:赦される日 - Final Episode 2 - 作家名:Angie