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Lovin 'you ~If~ 後編

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そこに現れた人物に、クワトロが驚きの声を上げる。
「アルテイシア!?」
そんなクワトロを見つめ、少し緊張した面持ちでセイラが答える。
「お久しぶりね。兄さん」
「……」
突然の事にクワトロは咄嗟に言葉が出ない。
そんなクワトロに、セイラはゆっくりと近付きその顔を見上げる。
「兄さん…もう二度と会えないと思っていたけれど…まさかこんな形で会う事になるなんて…」
セイラのスカイブルーの瞳に涙が滲む。
「アルテイシア…すまない…お前には辛い思いをさせた…」
セイラはそっとクワトロの胸に手を添えると小さく横に首を振る。
「いいえ、兄さんが私の元を去ってしまったのはとても辛かったけれど…当時の私は色々な事が分かっていなかった。兄さんがどんな思いでいたのかも…」
「お前はまだ幼かったのだから分からなくて当然だ。それに、私もまた子供だった。自分の心に積もった怒りを抑える事が出来なかった。お前が哀しもうとも…どんな犠牲を払おうとも…復讐の心を抑えられなかったのだ…」
本物のシャア・アズナブルを自分の身代わりに犠牲にして…その名と、ジオンの士官学校の入学証書を手に入れた。クワトロは唇を噛み締めながら、セイラをその胸に抱き寄せる。
「すまなかった…」
「キャスバル兄さん…」
クワトロの背中に腕を回し、セイラもその背をギュッと抱き締める。
そして、その手を離すともう一度クワトロを見上げる。
「兄さんを此処に呼んだのは私なの」
「アルテイシア?」
「アムロの事を…説明するわ。長くなるから…座ってちょうだい」
クワトロを席へと促すと、セイラはゆっくりと話し始める。
アムロの身に何が起こったのかを、そして今、どういう状態なのかを。
全てを聞き終え、クワトロが組んだ拳を強く握り締める。
「なんて事だ…」
そんなクワトロにセイラが尋ねる。
「兄さん、兄さんはまだ…アムロの事を憎んでいて?」
セイラの問いにクワトロが首を横に振る。
「いや、憎んでいない。確かに、一時はアムロを憎んだ。私の手を振り払い、私の大切なものを奪い、そしてその類稀な戦闘能力に嫉妬した。」
「兄さん…」
心配気に見つめるセイラに小さく微笑む。
「しかし、同時にアムロを求めた。パイロットとして、私と互角以上の力を持つ彼女と全力で戦いたかった。そして、ニュータイプとして覚醒した彼女を傍に置きたかった。何より、強い光を放つ瞳を持つ彼女自身を私のものにしたかった。」
「大尉はアムロが女だと知っていたのですか?」
アムロをすんなりと女性として扱うクワトロにブライトが疑問の声を上げる。
「ああ、ア・バオア・クーで直接剣を交えた時に気付いた。しかし、何故アムロは少年兵の格好を?」
逆にクワトロに問われ、ブライトはハヤトから聞いていた事情を話す。
「アムロは父親と二人暮らしで、その父親も多忙な軍属の技術士官だった為、留守がちな家に女の子を置いておくのは心配だと男の格好をさせていたそうです。」
「…なるほどな…」
「まぁ、当時はあいつもあまり女性らしい体型でも無かったし…恥ずかしい話し、実は私も長い事男だと思っていまして…」
ブライトは罰が悪そうに頭を搔く。
「そうね。ブライトったら出撃を渋るアムロを殴ってたわね。」
クスクスと笑いながらミライがブライトを見つめる。
「ミライ…君こそ気付いていたなら教えてくれればよかったじゃないか。」
「アムロに内緒にして欲しいって言われてたのよ。ブライトに弱みを握られるみたいで嫌だったみたい。当時はあなた達しょっちゅうぶつかっていたから。」
「それはあいつが反抗的で生意気な事ばかり言うから!」
「ブライトも大概横柄だったわよ。あんな態度を取られたらアムロじゃなくったって歯向かうわ。」
「なっ!」
そんなブライトとミライの会話をカミーユ達が呆然と聞く。
自分にとってブライト・ノアは一年戦争で功績を挙げた立派な艦長だ。実際、アーガマでのブライトは頼り甲斐があり、安心して命を預けられる存在だと思う。
「ふふふ、なんだかんだ言って、アムロはブライトに甘えていたのよ。だから腹が立てば思いっきり反抗したし…褒められた時は…結構嬉しそうだったわ。」
セイラが当時を思い出しながら笑う。
「少し羨ましいな」
呟くクワトロにミライが微笑む。
「ホワイトベースは…私たちにとって家の様な場所だったのかもしれないわね。みんな家族だった。」
「そうか…ソロモンで、モビルスーツ越しにだが、同志になる様にとアムロを誘ったが、あっさりと断られてしまった。家族を裏切れなかったのだな。」
「兄さん?!」
まさかソロモンで既にアムロを引き抜こうとしていたと聞きセイラが驚く。
「あの時、アムロとララァは互いに心を通わせていた。決して良いとは言えない環境にも関わらず、そんな彼女の誘いもアムロは断ったんだ。連邦内での君たちの立場は決して良いものでは無かっただろう?」
クワトロの言葉にブライトがグッと言葉を詰める。
事実、ホワイトベースの主な任務は陽動作戦だった。囮としか扱われておらず、乗組員は殆どが民間人上がりの素人で、補給すらもままなら無かった。
「…そうですね。そして、アムロがいなくなっていたら…連邦の勝利はおろか、我々は皆、生きてこの場にはいなかったでしょう。」
その言葉に皆が目を伏せる。
そして、クワトロがグッと拳を握り締めながら呟く。
「そんなアムロに連邦はなんて事を…!」

そこにファが顔を出す。
「あの…お話中にすみません。アルフレッドさん。アムロさんをベッドに運びましたので怪我の治療をお願いします。」
「あ、ああ。ありがとう。今行くよ。」
アルフレッドがファと共に部屋を出て行こうとするのをクワトロが引き止める。
「ドクター。治療が終わったらアムロに会えるだろうか?」
その問いに、アルフレッドがセイラやミライへと視線を向ける。
それに答える様にセイラが頷く。
「分かりました。終わり次第声を掛けます。」
「すまない。よろしく頼む。」

アルフレッドが出て行った後、クワトロがセイラへと問い掛ける。
「アルテイシア、アムロが抱いていたあの赤ん坊は…アムロの?」
子供の事まではまだ話せずにいたセイラは少し思案し、ゆっくりと話し始める。
「ええ、さっき話した様に、あの子は…研究所での実験で…出来た子供よ」
「そうか…」
「ええ、本当に酷い話だわ…。でもね、彼女の幼馴染みのお蔭でアムロはあの子を愛せる様になったの」
「……」
「兄さん。私は…ジオンの血を残す事は後々の事を考えると不安で…正直子供を生む事を諦めているわ。」
「アルテイシア…」
クワトロにはセイラの言わんとしていることが痛い程分かる。
おそらく、自分たちの子供は、自身の意思とは関係なく、ミネバ・ザビ同様ジオンの残党に利用される危険がある。もしくは反乱を恐れる連邦に命を狙われるかもしれない。いずれにせよ、その子供の運命は荒波に揉まれる事になるだろう。
セイラの言葉に、クワトロの本当の素性を知らないカミーユが首を傾げる。
「ジオン?」
そんなカミーユにクワトロが真実を告げる。
作品名:Lovin 'you ~If~ 後編 作家名:koyuho