Lovin 'you ~If~ 後編
「カミーユ。彼女の…セイラ・マスの本名はアルテイシア・ソム・ダイクン。私の本名はキャスバル・レム・ダイクンと言う。我々は、ジオン・ズム・ダイクンの子だ。」
「え!ジオン・ズム・ダイクンってジオン公国の…あの“ジオン”ですか!?」
驚くカミーユに頷く。
「え?クワトロ大尉がジオンの赤い彗星で、ジオンの子!?」
パニックになるカミーユを他所に、クワトロがセイラに視線を向ける。
「アルテイシア、それとアムロの子供とどんな関係が…?」
「アムロは体外受精でニュータイプの男性との子供を妊娠したと言ったわよね。それを行なった研究者の名前は…フラナガン博士」
「フラナガン!?まさか!ジオンのフラナガン機関のあのフラナガンか!?あの男が連邦に?!」
と、クワトロの脳裏にある憶測が浮かぶ。
「まさか…」
「ええ、あの子供の父親は…兄さんよ。念の為、私とのDNA鑑定をしたわ。その結果、血縁である事も確認済みよ。」
驚きのあまり言葉の出ないクワトロにセイラが更に付け加える。
「アムロは…多分兄さんに憎まれてると思ってるわ…」
「……そうだな…私はアムロに…そう告げたからな。事実、あの時は本気でアムロを殺そうと思っていた。しかし、あの後アムロと共感して、互いに心が通じ合った。そしてその時、私は心の底でアムロを求めていると気付いた。」
「アムロがそこまで兄さんの心を読み取れたかわからないけれど…兄さんに対して罪悪感を持っている事は確かよ」
「…ララァの事か…」
ララァはシャアを庇い、アムロの手で命を落とした。決してララァを殺すつもりでは無かったとは言え、その命を奪ってしまった事実に変わりはない。
あの時、ララァの叫びと共に、アムロの叫びも聞いた。
そして、その場を離脱する際、『取り返しのつかない事をしてしまった』と自分を責めるアムロの声も…。
「アムロは…シャイアンでの辛い日々を…兄さんの“同志になれ”と差し出された手を心の支えにして耐えていたそうよ。」
「アムロが?」
「きっと、当時も自身の心が伴わないままどんどん覚醒するニュータイプ能力に戸惑い、けれど戦わなければ仲間を守れない状況に、かなり辛い思いをしていたと思うの。」
アムロのそんな心情を、カミーユは少し自身と重ねる。しかし、自分にはニュータイプの能力を理解してくれる大人たちが沢山いる。
そして、おそらくそれはクワトロ大尉やブライト艦長が過去にアムロと接していたからこそ理解をして貰えるのだと思う。
「アムロにとって、ララァという少女は唯一共感出来る存在で、そして、その彼女を受け入れていた兄さんの存在もまた、アムロにとっては大きなものだったと思うわ」
「しかし私はララァを失った悲しみをアムロにぶつけた。自身の力がアムロに及ばなかった為にララァを失う事になったと理解していたクセに、だ。そして、その力が世界を揺るがすほどのものだと気付き、彼女をこの手で葬り去らなければと思った。」
クワトロは自身の手を見つめ、ギュッと握り締める。
そんなクワトロを見つめ、カミーユが口を開く。
「アムロさんと…共感した時。…独房の中で…クワトロ大尉に助けを求める姿を視ました。もう自力で脱走出来なくなって…涙を流しながら助けを求めてた…」
その光景を思い出すカミーユの瞳に涙が滲む。
「アムロさんは…助けを求めながら…クワトロ大尉がアムロさんに告げた言葉を…ララァさんの死に対する恨み言とアムロさんの存在を危険視し、排除しようとする言葉を思い出して…」
カミーユは涙を堪えきれず言葉に詰まる。
「カミーユ…」
「すみません…。アムロさんは…自分に助けなど来ないと…そして、ララァさんを殺してしまった自分は大尉に償わなければと…更に自分を追い詰めてしまったんです。そして、お腹の子供を守れないのならと…子供と共に死のうとしました…。」
カミーユの蒼い瞳から涙が止め処なく流れる。
完全にアムロとシンクロしてしまったのだ。
「ごめん、ごめん、産んであげられなくてごめんって子供に謝りながら…身体を壁に打ち付けて!!」
カミーユがその場に崩れ落ちる。
「カミーユ!」
クワトロがカミーユに駆け寄り、その身体を支えるとカミーユがクワトロの腕に縋り付く。
「大尉!アムロさんを救って下さい!大尉にしか出来ない!大尉がもう一度アムロさんに生きる希望を…救いの手を差し伸べて下さい!」
泣き叫ぶカミーユの肩をクワトロが抱き締める。
「そうだな…。私が彼女を追い詰めた…。私には彼女を救う責任がある。」
「責任だけなの?兄さん」
セイラの言葉にクワトロが苦笑いを浮かべる。
「すまない。こんな時まで体面を気にして…情けないな。そうだ。私自身の気持ちとして彼女を救いたい。彼女の、あの光り輝く瞳を…笑顔を見たい。…私の名を呼ぶ声を聞きたい。彼女が欲しい…。」
「兄さん…」
「アムロさんも…大尉を求めています。色々な過去や…遺恨があっても…心の底では切ないくらい…大尉を求めています。」
「そうか…。そうだと嬉しいな…」
「僕の言葉を疑うんですか?!」
少し怒りながら告げるカミーユに、小さく首を振る。
「私は臆病者でね。アムロの口から直接聞かなければ安心出来ない。」
その蕩けそうな笑顔にカミーユが渋い顔をする。
「実は自信があるんでしょう?」
「どうかな」
そんな話をしていると、アルフレッドが治療の終了を告げに現れた。
「お待たせしました。今、目が覚めていますのでどうぞ…」
クワトロは立ち上がると、アルフレッドに案内され、アムロの部屋へと向かう。カミーユとセイラもその後に続いた。
ブライトとミライは部屋に残り、その後ろ姿を見守る。
「ミライ…俺はまだ、此の期に及んで二人を会わせるべきか迷っている。アムロが海へと入ったのも、俺が大尉を呼び寄せたからではないかと…バカな事を考えてしまうんだ。」
辛そうに眉をひそめるブライトの手を、ミライがそっと握る。
「アムロが海に入ったのは…多分別の理由よ。」
「別の?」
「ええ、別に自殺をしようとした訳ではないわ。多分…探していたの…。」
「探す?一体何を?」
「…“希望”…かしら」
「希望?」
ミライの言葉に首を傾げる。
そんなブライトにミライが優しく微笑む。
「やっぱり貴方が“希望”を宇宙から連れて来てくれたわ。」
アムロの部屋の前まで来ると、クワトロは小さく深呼吸をしてノックの後、扉をゆっくりと開けて中へと入る。
ベッドの背を上げた状態で、アムロが虚ろな瞳でベッドに背中を預けていた。
クワトロはベッドサイドの椅子に座り、アムロへと声を掛ける。
「アムロ。私だ。シャア・アズナブルだ。」
クワトロの言葉にも、アムロは何の反応も返さない。
クワトロはアムロの頬に触れながら、もう一度、耳元で囁く
「アムロ…目を覚ませ…。君を迎えに来た…。私の手を取ってくれ…アムロ」
その言葉に、ピクリとアムロの指が反応する。
ーーーーー
真っ暗な闇の中、膝を抱えて蹲るアムロの元に懐かしい声が届く。
〈アムロ…〉
『誰?』
その声にアムロが顔を上げる。
『私を呼ぶのは…誰?…お願い、誰も私に触れないで…。もう辛いのは…悲しいのは嫌なの…。ここで…眠らせて…私を壊さないで…』
〈アムロ…目を覚ませ…〉
作品名:Lovin 'you ~If~ 後編 作家名:koyuho