天に昇る気持ち(コレットは死ぬことにした)
「コレット、もう終わっていいわよ!」
「はーい、マリー姉ちゃん、わたし、
ちょっとだけ外に出てきます。」
「え?!こんな夜に?どこに行くの?」
「薬草園を見て回るだけだから」
「わかった、ランタンあるわよ。でも気を付けてね。」
「ありがとう!」
コレットが義姉と会話する声がした。
人影が井戸の方へ近づいてきて、
ハデスは思わず木陰へ身を隠した。
コレットは、薬草園を見て回る、と言いながら、
井戸の前に来ていた。
「思い切って行ってみるか。」
「手紙だけじゃな・・・」
そうひとりごとを言いながら、
「や、待って。まだ心の準備がっ」
「あ、でも、この薬草効くとかなんとか言って
用事作ってしまえば・・・」
ザッザッザッとコレットは暗闇の中で、
ハデスの不眠に効く薬草を袋に詰めた。
そしてそれをリボンで縛り、
胸に抱えたが、再び井戸の前で、
「むむむむ・・・」と、冥府へ行くかどうかを迷っている。
ずっとあのキスの意味はなんなのか、
ひとりで考えても答えの出ない問いが
頭をぐるぐる巡っている。
しかも、「ハデス様とのキスは嫌ではない」
と気づいてしまった。
いや、むしろ、嫌どころか...
「ああああああああ///////」
顔を真っ赤にして井戸の縁に伏して、
コレットはバタバタと悶絶していた。
「わわわ!!」
さっき詰めたばかりの薬草の袋を、
井戸の中に落としそうになった。
こんなことを考えるうちは
ハデス様には会えない!
「ボンノー退散!!////」
そう言いながら、袋を
自分の周りで振り回した。
アイツはまた何をしているのだ。
また何かのおまじないか?
「お前はまた...何をしているのだ。」
聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。
「っ///ハデス様!!!」
暗闇から人影が出てきて、本来ならびっくりするところだが、
その声は明らかにハデスのもので、
驚きより喜びが勝ってしまう。
が、すぐに我に返り、恥ずかしさが襲い、
薬草袋で顔を隠す。
「どっ、どうしてこんなところに?!///」
ゆっくりとハデスはコレットに近づき、
顔を隠している袋をそっと掴んで降ろし、
コレットの顔を見た。
愛しくて会いたかった存在が目の前にいる。
が、と同時に、悲しい気持ちになった。
「お前は...もう視界にも入れたくないくらい
私に会いたくなかったのだな?」
綺麗な顔立ちに、憂いを帯びたその瞳は、
恋するものでなくても魅了してしまう。
「へ?」
その美しさに見とれてしまっていたせいか、
ハデスが発した言葉の意味が
よくわからなかった。
「もう会いたくないのならば、すぐ帰る。
でも最後に、目だけ合わせてくれないか。」
「・・・・・・へっ、はっ?!最後?!」
「どうしてですか?ハデス様、どっか行っちゃうの?!」
コレットはハデスの最後という言葉に驚きを隠せず、
思わずハデスの袖をつかんで顔を見上げた。
パサッと薬草袋が地面に落ちた。
「何を言っている。お前が会いに来ないから...
今も視界を遮るし…私とは会いたくないのかと。」
ハデスのその言葉に、コレットは目をまんまるくした。
「あっ・・・会いたかったです!
ハデス様に会いたくて会いたくて、
でも恥ずかしくて...///顔が見れない・・・
会いたいのにずっと変なんです、私。」
コレットは言いながらまた恥ずかしくなり、
真っ赤になった顔を俯かせた。
「恥ずかしい・・・本当に?」
「嘘なわけないっ!」
と叫んでコレットが顔をあげると同時に、
ぎゅううううううっと、
ハデスは強くコレットを抱きしめた。
あ、ひさしぶりのこの腕の中だ。
コレットは思った。
この腕の中にいると安心する。
コレットは長く考えを巡らせて
こじらせた心が、ゆるく、ふわっと
ほどけていくのを感じた。
作品名:天に昇る気持ち(コレットは死ぬことにした) 作家名:りんりん