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BLUE MOON 後編

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 そこにいたのは……、その店で、器を選んでいたのは……………………。
「また違う、おとーさんとアーチャーだぁ……」
 ひなたの間延びした声に、視線の先の二人は眉間にシワを寄せた。
 どの世界でもオレにはさほどの差はないが、士郎は千差万別。また違うタイプの士郎が存在している……。
 今度の士郎は、やや暗い感じがする。不機嫌な表情を隠さず見せるところなど、士郎がキレた時と同じような感じだ。
「あのー、もしかして、守護者の方ですか?」
 陸……、物怖じしないのはお前の取り柄だとは思うが……、そんな身も蓋もない……。
「いかにも」
 と、あちらのオレが、
「そうだ」
 と、あちらの士郎がムッとして答える。
「それは、お世話をかけました」
 にこり、と笑って、陸は礼を言う。
「陸、別にお前のせいじゃ、」
「うん。でもさ、士郎。こんなにも守護者が集まるってことは、あれは、相当な大事件だったんじゃないかなって。だよね? アーチャー?」
 陸はオレに窺う。
「そう……、だな。そうかもしれない」
 凛の召喚したあいつらは抜きにしても、守護者が二組現れている。それは由々しき事態の証明なのだろう。
「だから、お礼、言っとかないとって」
「そっか。まあ、お前がそう思うんなら……」
 士郎は仕方がない、と匙を投げた。
 礼を言われた方の、どこかの世界の我々は居心地悪そうにだが、礼には及ばない、と返している。
「あ……。あんたが……」
 あちらの士郎が何かに気づいたらしく、士郎の目の前へと歩み寄った。少しオレの士郎よりは背が低いので、士郎を見上げている。
「風を、吹かせた?」
「え? あ、ああ、うん」
 驚きつつも頷く士郎は、あちらの士郎に矯めつ眇めつ眺められ、半歩下がった。
「ふーん」
 納得したのか、あちらの士郎は、あちらのオレの傍に戻っていく。そして、何事もなかったように、また器を選びはじめた。
 なんだったのだろうか……。
「士郎?」
「ああ、行こっか」
 その店から出て、やけに疲れた感じの士郎と並ぶ。
「どうかしたか?」
「あー、まあ、お前とたぶん、おんなじようなこと、思ってる」
「オレと?」
「いろんな俺とアーチャーがいるんだなって……」
 苦笑いを浮かべつつ、こちらを見上げる士郎は、どこか照れているようにも見える。
「ああ、確かに、オレもそう思った」
「……うん。でさ、どいつもこいつも、……アーチャーに夢中なんだよな」
 ああ、照れ臭そうなのは、そういうことか。
「そうだな。どこの世界のオレも、士郎に誑しこまれているようだ」
「あー。なんか、鏡見てるみたいで、いたたまれねー」
「できれば、もう会いたくはないな……」
「同感」
 頷き合って、オレたちは笑い合う。いつものように。
「んでも、あいつらには、あいつらなりの何かがあるんだろうな。きっと、俺たち同様、一筋縄じゃいかないような」
 可笑しそうに笑う士郎は、もう、あの苦しい日々の翳りはない。磐座で過ごすうちに士郎の傷は癒えていった。オレと再会する前の酷い十年の間のことも克服しつつあるようだ。
 絡みまくった士郎の心は、今、ほどけはじめている。絡んだ蜘蛛の糸を一筋ずつほどき出すような微々たる成果だが、神々に愛され、労られ、少しずつ前に進んでいる。
「楽しそうね、士郎。なんの話?」
 前を行く凛が振り返って訊く。
「もう、あいつらには会いたくないな、ってさ」
「あら、意外ね。士郎なら、仲良くやろうって言いそうだけど?」
「さすがに同じ顔の奴らとは……、なあ?」
 オレに水を向ける士郎に頷く。
「オレは、見るに耐えない。あんなものばかりとは、情けない」
「あなたを筆頭にねー」
 凛がほくそ笑む。
「む……」
「俺は……、ちょっとややこしいから、勘弁だ」
「ややこしい?」
 士郎は何がややこしいと言うのだろうか?
「だってさ、俺の方は何かしら違いがあったじゃないか。けど、アーチャーは、みーんなおんなじだし、概念武装で揃われたら、どれがどれだかわからな……、あ……、ハッ!」
 士郎は両手で自分の口を押さえている。
「士郎、口は災いの元、という諺を知っているか?」
「ひッ! あ、アーチャー、あ、あの、ち、ちがうんだって、その、わ、わかるんだぞ! アーチャーは、わかるんだけど、ほ、他の奴らが、な? な?」
「今、どれがどれだか、と聞こえたが?」
「いいいいいいいい言ってません!」
 言いながら逃げた。逃げ足だけは相変わらず早い。先を行く陸たちを追い越し、人通りの多い坂道をすり抜け、駆けていく。
「貴様っ! この期に及んで、往生際が悪いぞ!」
 もちろん、オレは追いかける。
 人が多かろうと、人目を引くと言われようと関係ない。
「あらあら、いつになったら大人げが出てくるのかしらねー、あの二人」
 凛の呆れ声が、遠くで聞こえていた。
 オレたちは、磐座にいようが、外に出ていようが、変わらないようだ。まあ、変わるつもりもないのだが。
「お、お前! しつっこいぞ!」
「観念しろ」
「するか! バカ!」
 反省の色のない士郎のジャケットの襟を掴んだ。
「離せよ!」
 振り返りざま、士郎は拳を繰り出してくる。が、難なく受け止めれば、ぐぬぬと唸っている。
「この往来で何をする気だ……」
「お前から逃げ切る」
「フン、たわけたことを」
 呆れてやれば、膨れっ面だ。
「はぁ……。士郎、そういう可愛い顔は、戻ってからにしてくれ」
「じゃあ、怒んなよ……」
「わかった、わかった。あとは磐座に戻ってからだな」
「へへ……」
 満面の笑顔で士郎は頷いた。
「まったく……」
 だったら、いらんことを言うな、と言っても、オレと士郎は何かしら言い合っていなければすまないのだから仕方がない。
「覚えていろよ……」
 ぼそり、とこぼせば、
「ん? 何が?」
 きょとんとして士郎は首を傾げている。
 絶対に、忘れたとは言わせない、と固く誓った。


「おー、けっこう景色がいいなー」
 清水寺の舞台に出て、街を眺める。
「あーあ、昨夜ので桜はぜーんぶ散っちゃったわねー」
 凛に苦言を呈されても、
「あー、悪い悪い」
 全く悪いと思っていない謝罪をして士郎は笑っている。
(こんな日々を願ったのだろうか、士郎は……)
 ふと、そんなことを思う。
 あの二年の苦しい日々の中、士郎はこんなふうに笑って過ごす日を夢見ていたのだろうか。
 少し、感傷めいた思いに至ってしまった。
「アーチャー……、奇跡ってさ……」
 街を眺める横顔は少し寂しげに見えて、あの頃のオレならば、きっと落ち着かなくなっただろう。
「案外、起こるもんだなー」
 だが、オレを見上げて、ふわり、と笑った士郎には、一片の翳りすらない。
「ああ。そうだな」
 欄干に肘をつき、夕焼けに染まる街を見下ろし、しばし現実の人の世界を、士郎とともに堪能していた。



***

「そろそろ行こっか」
「ああ」
 凛と陸が用意したこちらでの衣服を着替え、いつでも会えるような気軽さで、名残惜しみもしない、さっぱりとした別れも済ませ、士郎とアーチャーは帰り支度だ。
 八坂神社の東隣、円山公園の花の終わった枝垂れ桜の下で朧月を見上げる。
作品名:BLUE MOON 後編 作家名:さやけ