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BLUE MOON 後編

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「ひなたがさ、言ってた奇跡って、俺たちがここに出てきたことかな……。それとも、俺たちが今もこうして一緒にいられることかな……」
 士郎は、アーチャーへ向き直り、真っ直ぐにその鈍色の瞳を見つめた。
「どちらも、だな。ただ、オレにとって奇跡とは……、士郎に出会えたことだがな」
 士郎は、目を丸くする。そうして、ふ、と目尻を下げた。
「まだ、俺を落とす気かよ?」
「フン、十分に落ちきっていると思っていたが?」
「言ってろ」
 照れ隠しに不機嫌な声で言った士郎を引き寄せ、アーチャーは触れるだけのキスをした。
 十六夜のまだ明るい月のはずだというのに、花霞みの空からはずいぶんと柔らかな月光が注いでいる。
「がっつくには、まだ早いぞ?」
「まだがっついではいないだろう?」
「ギリギリのくせに?」
「お前もな」
「ぷ……」
 互いに笑い合ったところで気配を感じ、アーチャーは背後を、士郎はアーチャーの肩越しに現れた影を確認する。
「くだらないものを見せるな、気が滅入る」
「てめぇら……。遠坂との契約は終わったんじゃねえのかよ……」
 もうとっくに座に還ったものと思っていた者たちに、士郎とアーチャーは、やや面食らっている。
「つか、隠れて見てたのかよ」
 士郎がすごめば、
「あの、ごめんなさい! 見るつもりとか、なくてっ」
 色白のシロウが慌てた様子でアーチャーを嗜め、その腕を引いた。
「んなのあったら、そいつ撃ってるって……」
 士郎が呆れて言えば、あちらのアーチャーが身を乗り出す。
「貴様、一度痛い目に合わなければ気がすまないようだな?」
「ああ? てめえの方こそ――」
「士郎、やめておけ。神域の側で揉めるな。またスサノオが笑うぞ……」
「あ……、うぅ……」
 お叱りや小言ではなく、磐座を統べる素戔嗚尊は、士郎が何をしようと笑ってすませるのが常だ。
「まったく。スサノオの過保護が過ぎるから、いつも厄介なことになる……」
 アーチャーがため息をこぼせば、士郎はむっとして、やや引き下がる。
「アーチャー、俺たちもやめておこう。それよりも、訊きたいことがあったんだろう?」
 あちらのシロウの言葉に、士郎とアーチャーは首を傾げた。
「「訊きたいこと?」」
 ハモって訊き返せば、
「我々もだ」
 別の方から声がする。
 現れたのは、剣となる士郎と守護者だ。
「あれ? お前ら、わらび餅買って、とっくに座に還ったんじゃ?」
「ああ。わらび餅は美味しくいただいた。そんなことよりも、気になってな」
 守護者は剣となる士郎を片腕で引き寄せている。その士郎と言えば、そっぽを向いていた。
 あいつは頻繁に拗ねてるみたいだな、と士郎は呆れつつ思う。今も、機嫌が悪いようで、むっつりとしていた。
「俺たちも訊きたい」
 新たな声に、三組の衛宮士郎とアーチャーが振り向けば、土産物屋で器を選んでいた士郎と守護者がいる。
「え? 誰?」
 色白のシロウが困惑顔で訊くが、
「誰って、エミヤシロウに違いはないだろ」
 士郎は呆れながら言う。
「訊きたい」
 土産物屋で会った士郎は、白い外套を翻し、士郎に歩み寄る。
「訊きたいって、何をだよ?」
「お前たちが、いったい、どういう存在なのかをだ」
 士郎が眉をしかめて訊き返すと、白い外套の士郎ではなく、シロウの保護者であるアーチャーが不機嫌に言ってのけた。
「どういう存在って……」
 傍らのアーチャーを見上げて士郎は首を捻る。
「話せば長くなるな」
 アーチャーがハナから話す気もない顔で答える。
「ああ、うん。長くなる」
「では、要点だけでいい」
「いや、それより、俺は何者かが知りたい。守護者じゃないだろ?」
 剣となる士郎が言えば、その傍らのアーチャーも頷く。
「えーっと……、こいつはスサノオの神使。そんで、俺は、人のまま神域に厄介になってる。スサノオとは友達だ」
 それぞれに絶句するエミヤシロウが六名。
「いや、待て。素戔嗚と言えば、神だろう?」
「そうだ、神使ということは、神に仕えている、ということか? では、守護者はどうした?」
「廃業した」
「は? 廃業?」
 次々に疑問を口にするアーチャーたちと、それに応対するアーチャー。
 うわぁ、すげー、ややこしい…………と、その状態に士郎は苦笑いをこぼす。
「俺が“世界”との契約からアーチャーを奪った。そんで、アーチャーは俺を追って来てくれた。それだけの話だ」
 士郎が、ややうんざりしながら説明し、そろそろ時間だから、と八坂神社へ向かいはじめた。
「幸福のカタチは、それぞれ、ということだ」
 アーチャーはそう言って、士郎に続いた。
「……不思議なこともあるんだなぁ」
 色白のシロウが、ぽつり、と呟く。
「不思議どころか、常軌を逸している。あいつの左手を見たか? あれは……」
 士郎の左手の甲、赤黒い刻印を基点にした、膨大な力を彼らは感じていた。
「あれは、神に匹敵するものだ。いや、神そのもの……」
「それに、あれは、宝具をぶら下げているような……」
 それぞれに呆然とし、それぞれ顔を見合わせ、それぞれに仕事を終えた守護者たちは座に還っていった。



「士郎、アーチャー」
 本殿の前まで来ると、陸が待っている。
「陸、やることがあったんじゃ……?」
 陸とは、今回の件の諸々の後処理があるために宵のうちに別れたのだ。
「あ、うん……、惣領が、行ってこいって」
「そっか」
「うん。会うことなんて……、こんな奇跡なんて、もう起こることはないからって……」
「はは! あの人も丸くなったんじゃないか?」
「かもしれない……」
 陸は視線を落とす。
「陸?」
「ほんと、ありがと。今回は、助かっ――」
「ばーか。俺たちの後継者を見捨てておくとか、するわけないだろー?」
 笑う士郎に、陸は無理に笑顔を作った。
「はは……、素直に言えばいいのにー」
「何をだよ?」
「おれが心配だってー」
 陸は、にへら、と笑う。
「陸、遠坂の性格、うつっただろー」
「かもね! だって、凛ねえとも長い付き合いだしさ」
「ったく、もう……」
 士郎が呆れていれば、
「陸」
 アーチャーが穏やかに声をかける。
「身体は大丈夫なのか?」
「うん。もう平気」
「イザナミはどうだ?」
「おとなしくしてる。なんていうか、睡眠状態ってやつ。疲れたんだって」
「そうか。では、礼を言っておいてくれ。彼女がいなければ、お前はもっと酷い状態だったはずだからな」
「うん、了解。それにしても、イザナミもさー、自分だけ逃げることもできたのに、お人好しなんだよね……」
 陸は笑う。そして、ぽろ、と涙を落とした。
「陸?」
「お、おい、陸? どうした?」
 士郎が泡を食って陸の頬に触れた。
「しろう、おれ、ほんとはさ……」
 俯いて言葉に詰まってしまった陸は手の甲で口を押え、嗚咽を堪えている。
 少し前、あっさりと別れを済ませたはずの陸は、今、士郎とアーチャーを前に声を詰まらせている。
 やせ我慢していたのだと、士郎はやっと気づいた。陸はもう大人だからと、どこか士郎も構えていた節がある。もうあの頃とは違う、陸は大人なのだと、自分に言い聞かせていた。
「陸……」
作品名:BLUE MOON 後編 作家名:さやけ