第二部23(96) 嵐の後
朝食後、一同はリビングに場所を移した。
「先生・・・・、犯人の容態をもっと詳しく聞かせてはいただけないでしょうかね。…私の経験からすると、あの症状は、かなりヤバイと見たが。回復には、大体どのぐらいかかる?」
早速刑事が今後の取り調べの青写真を描きながら、医師にアネロッテの症状の説明を求めた。
「命の危機は脱したが…、依然油断のならない状況だね。あの毒はどうやら神経毒の可能性が高い。後遺症が残る可能性がかなり高いと思われます」
医師の診断に、マリア・バルバラが息をのむ。
「じゃあ、連行は難しいか?」
「まだ分かりませんが、現時点では無理でしょう」
「言語能力は?供述さえ取れればこっちはいいんだ!」
「身体に麻痺が残ったら…言語能力も保証は致しかねますな。いずれにしても、回復にはかなり時間がかかると思われます」
「畜生!…先生、後ほど警察の方からも医師を寄越して、もう一度犯人の容態を見させるが、その時はご同伴願えますかな?服毒時の詳しい状況などを説明してやってほしい。フロイライン、後日この屋敷に医師を派遣するが、その時はまたご協力願えますか?」
「勿論」
「分かりましたわ」
医師とマリア・バルバラが簡潔に応じた。
「結局…鬼も蛇も出て来たけれど、今回は…双方痛み分け…と言ったところでしょうか」
そう言ったダーヴィトに刑事が忌々し気に舌打ちする。
「何が、痛み分けなものか?!ハン!真相は明らかになったものの、犯人は重体、物証はなし!とんだ絵にかいた餅だ!!」
苛立たし気にそう言い放つ。
「まあまあ…。落ち着いて一服してくださいよ」
ダーヴィトが自分のタバコを一本刑事に勧めた。
「フン!何が、一服だ。…ったく、ガキのくせに」
そう言いながらもダーヴィトから勧められたタバコを咥えると、ゆっくりとくゆらし、紫煙を吐き出した。
その様子に、ダーヴィトがそっとマリア・バルバラに向かって目配せし肩を竦めて見せた。
「いいか、今回は何の物証も証言も得られなかったが、これからも証拠を求めて嗅いで嗅いで嗅ぎまわって、絶対に物証を掴んでやるからな」
帰り際にそう捨て台詞を残し、刑事と、それから医師はアーレンスマイヤ家を後にした。
あの、恐ろしい一夜は、こうして終焉を迎えた。
作品名:第二部23(96) 嵐の後 作家名:orangelatte