第二部23(96) 嵐の後
医師と刑事が屋敷を後にし、リビングにはマリア・バルバラとダーヴィト、そして執事の三人が残された。
熱いお茶の香りの高い湯気が二人の強張った心をほぐしていく。
そうして暫く二人は、無言でお茶を囲んでいた。
やがて、マリア・バルバラがその沈黙を破った。
「確かに…我が家と、フォン・ベーリンガ―家の関わった忌まわしい事件の真相は…明らかになりました。ですが、この事件はまだ終わっていないわ」
マリア・バルバラの言葉に、ダーヴィトと執事が耳を傾ける。
「この、ロシア皇帝の隠し財産を巡る事件は、真相がわかったというだけで、まだ何も解決していないわ」
― そうでしょう?
そう言ってマリア・バルバラは、あの鍵をテーブルに置いた。
「これを…元の所有者へ…、ロシア皇帝へ返還します」
厳かに、まるで神託を受けた巫女のように、マリア・バルバラが宣言した。
作品名:第二部23(96) 嵐の後 作家名:orangelatte