第二部23(96) 嵐の後
C/W その頃ユリちゃんは…#4
7月―。
北の都サンクトペテルスブルグも盛夏を迎え、汗ばむような日々が続いている。
産み月を間近に控えたユリウスは、大きなお腹を抱えて、この北の国の貴重な太陽の光を全身に受けとめる。
「…眩しい。ミーチャ、毎日暑いね」
すっかり大きく張り出したお腹に向かって優しく話しかける。
まるで返事をするかのように、ユリウスの問いかけにお腹の中の子供が大きく動いて見せた。
「ふあぁああ・・・・」
奥の寝室からやっと眠りから覚めた様子のアレクセイの大きなあくびが聞こえて来た。
「おはよ!アレクセイ」
数か月ぶりの休暇に、昼近くまでたっぷり朝寝を託っていた夫の枕辺に駆け寄り、ベッドにチョコンと腰かける。
「おはよ…ユーレチカ」
朝のキスを交わし、抱き合って肌のぬくもりを確かめ合う。
「アレクセイ…。汗かいてる」
アレクセイの背中に腕を回して胸に頬を寄せたユリウスが呟いた。
「ああ。暑かったからな。お前も、汗ばんでるぞ」
「今ミーチャと日光浴をしてたんだ」
「ああ…。だからお前の髪、太陽の匂いがするんだな…」
アレクセイがユリウスの金の髪に顔を埋めた。
「暑いな…」
「うん…」
二人の腰かけたベッドにも、窓からさんさんと夏の陽ざしが降り注ぐ。
眩しそうに目を眇めて、二人寄り添いあいながらその太陽を何とはなしにぼうっと眺めていた。
「こんな日は…川に釣りにでも行きたいとこだけど・・・・。お前の今の身体で足場の悪い川辺は危ないな」
「うん…。水遊びしたかったな。…残念」
「こんな日は、裸足で川に入ったら気持ちがいいだろうな…」
「そうだね…」
二人が再び黙り込んで差し込む陽射しのベールを眺める。
「そうだ!川は無理だけど、行水しようぜ。バスタブに水張って。おい、ユリア。俺が髪洗ってやるよ」
臨月になって公衆浴場へ行けなくなり、大儀そうに台所で洗面器に水を張り、髪を洗っていたユリウスの様子を時折目にしていたアレクセイのその提案にユリウスの瞳が輝く。
「本当?」
「ああ。気持ちいいぞ!サラファン脱いで来い」
「うん!」
ユリウスが嬉しそうにベッドからピョコンと立ち上がった。
作品名:第二部23(96) 嵐の後 作家名:orangelatte