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林殊と霓凰

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普段、霓凰でも、楽々飛べるのだ。
「霓凰、飛ぶぞ。」
「、、、、、。」
霓凰の返事が無い。
「、、、、、霓凰?。」
振り返って霓凰を見ると、もうそれどころではないのが分かった。
とても霓凰が自分で飛ぶ事は、出来なさそうだった。
━━━なら、手を繋いで、私が引き上げて飛べばいいや。━━━
林殊は霓凰の手を取るが、霓凰は恐怖で、もう体が強ばって固まってしまっている。
━━━こりゃ、ダメかも、、、。━━━
間も無く滝だった。
「霓凰、掴まってろ!。」
そう言うと、林殊は自分の身体に霓凰を引き寄せる。
霓凰は林殊の身体にしがみついた。
───怖い、、。───
川の流れは、滝に近付くほどに速さを増した。
━━━、、、落ちる。━━━
筏ごと、滝壺に落ちてゆく。
林殊は霓凰の頭と身体が、水面に打ち付けられないように、咄嗟に自分の腕で包んで庇っていた。
筏の木がどう落ちて、どう動くかも予想出来ない。
霓凰にだけは筏が当たらないように、視線を絶えず動かしていた。
一瞬の事だったが、林殊の刻はゆっくりと動いていった。

ドボンと滝壺の深い所に、頭から上手く落ちれた。
そして筏が当たるのも避けられた。
林殊は自然に沈むのに任せていたが、霓凰だけはしっかり抱きしめて離さなかった。
段々と沈む勢いが小さくなる。
━━━今だ。━━━
林殊は霓凰を腕で抱えて、浮上していった。
霓凰も林殊に合わせて、腕を掻いて水面に上がるのを協力していた。
思ったよりも、霓凰は落ち着いているみたいで、一安心だった。
水面まで浮き上がり、そのまま二人で岸まで流れていった。

川岸に上がり、大岩に二人で登って腰を下ろした。
「あ〜〜〜、面白かった!!。」
林殊が大の字でひっくり返った。
「、、林殊哥哥、、、面白かったの?。」
「うん。」
そう返事して、霓凰の方を見た。
━━━霓凰は怒っているみたいだな。━━━
怖かったのだろう。
ツンと口を尖らせて、そっぽを向いて何処かを見ていた。
━━━泣いてる?そんなに怖かったのか?。━━━━
ドキッと胸が鳴った。
いつもは勝気で生意気で、、、こんな霓凰を見たのは初めてだった。
━━━女の子みたいぞ、霓凰、、。━━━
林殊は、何だか言葉に困り、後が続かなかった。

ふと、林殊が気付いた。
「あれ?霓凰、髪飾りが無くなってる。」
「え??、、ほんとに?。」
霓凰が頭を探ると三つ付けていたうちの、1番大きな1つが無くなっていた。
「あれ、失くしたら、マズいだろ?、、。探して来るよ。多分滝壺の中だ。」
「やだ、もう良いわ。要らない、大丈夫だもん。」
「大丈夫だって、だいたいどの辺にあるか、わかるから。
あの髪飾りは、大皇大后に貰った物だって、言ってたじゃないか。」
そして林殊は、優しい笑顔を向けるのだ。
「ホントに要らない、失くしたって言えば、誰も怒ったりしないもの。ほんとに平気だから、、。」
林殊は霓凰の言葉を、最後まで聞かずに立ち上がった。
そして、スタスタと滝の方に向かって歩いて行った。
「霓凰、百、数えてろ。その間に見つけて来るから。」
霓凰の方を振り向いて、につこりと笑うのだ。
この微笑みが、霓凰は好きなのだ。
こんな眼差しをされると、安心感に包まれる。
林殊は水の中に入り、やがて深くなり、水面から姿を消した。
心配だったが、林殊はやるといったら、後には引かない。
待っているしかないのだ。
「一、、、二、、、三、、、四、、、五、、、六、、、、」
霓凰は、滝に乱される水面を見ながら、言われた通りに数を数えていった。
二十三と四十九まで数えた所で、一度林殊が顔を出した。
息を吸うために上がってきたのだ。
そして、七十の所でまた顔を出し。
「あった!!、今、取ってくるからな〜〜!!。」
そう言って、霓凰に向かって大きく手を振った。
「うん、林殊哥哥!!」
───良かった。これで哥哥が上がってくる。───
霓凰はほっと一安心をしていた。
───いつも遊んでる場所だけど、何だか今日は怖い、、。───
この怖さは、ただ水の量が多いせいとは、思えなかった。


水の中、林殊はやっと見つける事ができた。
大体の水の流れは想像が出来た。すぐに見つけられると思っていたのだ。
だが、見つけられず、焦っていた。
もっと、滝の近くに落ちていると思っていた。
銀製の髪飾りだったが、水の流れが思ったよりも強いのだろう、ずっと滝からは離れていた。
大き目の平たい飾りだった。煽られて流されたのかも知れない。
岩の凸凹した所に、上手く引っ掛かっていた。
━━━こんな所にあった。一度水面に出よう、息も続かないし。━━━
林殊は浮上して水面に顔を出した。
大きな岩の上で、膝を抱えて心配げにこちらを見ていた。
「あった!!、今、取ってくるからな〜〜!!。」
林殊の言葉に、霓凰の表情が明るくなるのがわかった。
「うん、林殊哥哥!!」
霓凰もまた、林殊に手を振っている。
━━━よしっ、、。━━━
林殊は大きく息を吸って、また潜っていった。
━━━それにしても、この辺は流れが強いな、、。━━━
雨が降って、水量が増えた為だけではないような気がした。
霓凰の髪飾りを拾った。そして懐に入れる。
霓凰の飾りが落ちていた場所は、殊更、流れが強いようだった。
ぐんと体が持っていかれるような強さだった。
━━━なんでここだけ流れが速いんだ???━━━
滝壺から、滝の下の急流へと流れる方向とは、明らかに違っている。
林殊が岩に掴まっていないと、そのままそちらに、流されてしまいそうな流れなのだ。
━━━変だぞ、何でこんな方向に、こんなに強い流れがあるんだろう。━━━
岩に掴まりながら、流れの奥を見ていた。
積み重なった岩の間に、ぽっかり岩一つが、抜けたような大きな空間があり、流れの水はそこに吸い込まれているように思えた。
結構な大きさの洞だった。人も呑まれてしまいそうな大きさだ。
━━━この水は、あの奥に吸い込まれていくんだ、、。何があるんだ??━━━
水中の洞の中は、真っ暗で分からない。
━━━ん───、見えないなぁ、、。━━━
いくらでも洞の中を確かめたくて、掴まった岩から、身を乗り出した瞬間だった。
━━━まずい!!━━━
あっ、と思った時には手遅れだった。
一瞬で強い水流に身体を押されて、岩を掴んでいた手が剥された。
どんなにじたばたしても、水の中では無力で、たちまち流れの中に取り込まれていく。
そのまま林殊は流され、暗い水中の洞窟の中に吸い込まれていった。



───、、、おかしいわ、、。見つけたのなら、拾ってとっくに上がってもいい位なのに、、、。───
霓凰は待っていた。
見つけた、と聞いてからは、数えるのを止めたが、数えていればもう、二百どころでは無い。
あたりは滝の水が落ちる音しかしないのだ。
「林殊哥哥!、ねぇ、出て来て!!!。ふざけて隠れてるんなら、承知しないから!!。」
どんなに返事を待っても、滝以外の音は無い。
「哥哥!!ねぇ、返事して!!」
───やだ、何かあったの??どうして答えてくれないの??───
何かあったに違いない。
霓凰の体が震える。
「哥哥〜〜〜!!」
作品名:林殊と霓凰 作家名:古槍ノ標