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「はい。あんまり気は進まないんですけど…」
はぁっと溜め息を吐くアムロにレズンが驚く。
「大丈夫かい？アイツああ見えても強化人間だし、そこそこ腕も立つよ。」
「うーん。それよりもあの人に怒られそうでやだなぁ」
金髪のキラキラした人を思い出して大きな溜め息を漏らす。
「あの人？」
「あ、なんでも無いです。それよりもレズン少尉のギラドーガも後で動作確認してみて下さい。不具合があれば直ぐに調整しますので。」
「あ、ああ。」
腕の立つパイロットと戦う事についてはそんなに気にしていないアムロに、呆気に取られつつも返事を返す。
「それじゃ、また後で」
「ああ、アムロも頑張って」
「ありがとうございます」
そう言って手を振り、去っていくアムロに、何か不思議なものを感じる。
「彼女…何者なんだ？」

アムロはギラドーガのコックピットに座り、起動準備を始める。
「オクトパーさん、データ拾えてますか？」
〈ああ、バッチリだ〉
「了解。それじゃ出ます。」
〈程々にな〉
「…了解」
何が程々に？と思いながらもカタパルトデッキに向かいギラドーガを発進させる。
レウルーラの周辺を旋回していると、ギュネイのヤクト・ドーガも出てきた。
〈アムロ大尉、いきます！〉
その掛け声と共にギュネイのヤクト・ドーガがライフルを撃ち放つ。
それを避けながら一気に急上昇する。
「うん、バーニアの出力は問題ないな。他も上手く動作してる。」
戦いつつも動作確認をしていく。
〈余裕じゃないか！〉
迫り来るヤクトに振り向き、サーベルで斬りかかる。
出力は抑えてあるとはいえ、互いのサーベルが激しくぶつかり合う。
「やるね、ギュネイ准尉！」
〈まだまだ！本気で来いよ！〉
「一応、動作テストが目的の模擬戦なんだけど」
〈そんなのはどうでもいい！俺は本気のあんたと戦いたい！〉
有無を言わさず突っ込んでくるギュネイに、アムロは小さく溜め息を吐く。
「わかったよ、本気で行く。そのかわり、後で一緒にシャアに怒られてよ！これがバレたら絶対にあの人怒るから！」
〈かもな！あんたが本気で戦ってくれるなら、後で土下座でもなんでもしてやる！〉
「その言葉忘れるな！いくぞ！」
〈おう！〉
二機は激しくぶつかり合いながら急上昇と急降下を繰り返し、サーベルで打ち合う。
それをモニターしながら、オクトパーがゲンナリとした顔をエドヴァルドに向ける。
「チーフ、なんか本気でやり合い始めましたけど…。これ、総帥にバレたら不味くないですか？」
「ははは、あくまでテストだ。ちゃんとデータは取っておけよ。ついでにアムロと彼の戦闘データも記録しておけ。」
「ああ！チーフ！こっちが本命ですか！」
オクトパーの言葉に、エドヴァルドが不敵な笑みを浮かべる。
「ニュータイプと強化人間の戦闘データだぞ。こんなの滅多に手に入らん！」
オクトパーは呆れながらも、しっかりとデータを記録していく。
「それにしても凄いですね。ギラ・ドーガとヤクト・ドーガの動きとは思えない。スピードといい、反応といい、機体性能を最大限まで引き出していますね。」
「ああ、ヤクト・ドーガの方は、アムロが上手いことギュネイ准尉を煽って能力を引き出しているな。」
「ええ、そう思います。」
「ははは、いいデータ取れそうだ。」
「チーフ…」
能天気なエドヴァルドに対し、オクトパーは胃のあたりを押さえながら作業を進める。

そして、その二人の戦いを…否、アムロの動きを見て、レズンが呟く。
「あの動き…、まさか…アムロ…・レイ？」
レズンは、自身のギラ・ドーガの飛行テストの為、船外を流しつつ二人の戦いを側で見ていた。
そのアムロの動きが、あの戦いの時に見た、νガンダムの動きにそっくりなのだ。
「まさかな、連邦のアムロ・レイはあの戦いでMIAの認定を受けて、確か死亡の扱いになっていた筈だ…」
…しかし、死体が見つかった訳じゃない。
そして、苗字は違うが同じ名前のメカニック。
「いや、しかしメカニックのアムロは女だった」
レズンの脳裏に、ある考えが浮かんでくるが、信じられないという思いがそれを押しとどめる。
「まさか…な」

〈アムロ・レイ！覚悟！〉
ギュネイのヤクト・ドーガが、ギラ・ドーガへとビームを放つ。
それを、アムロがギリギリの位置で躱し、怯んだ隙にヤクト・ドーガが、アムロのギラドーガへとサーベルを振り下ろす。
〈終わりだ！アムロ・レイ！〉
「まだだ！」
アムロはそれをサーベルではね退け、そのままヤクトへの頭部へと振り下ろす。
ギュネイはそれを自身のサーベルで受け止める。
“止めた”と思った瞬間、コックピットに模擬弾が炸裂する。
〈なに！？〉
「フェイクだよ」
〈なっ！くそ！もう一回だ！〉
「えええっと、ちょっと待って。オクトパーさんに確認する。オクトパーさん、データ取れましたか？一応、私の方でも記録してますけど…」
〈ああ、アムロ。バッチリだ。ギュネイ准尉、申し訳ないが騒がれる前に終わりたい。今回はこれで終了して下さい。〉
〈“今回は”って事は次があるって事だな？〉
〈おお、あるぞ！〉
横からエドヴァルドが通信に割って入る。
〈ちょっと！チーフ！〉
〈いいじゃないかオクトパー。ギュネイ准尉、次もよろしく頼む！〉
〈はい！〉
〈チーフ！なに勝手なこと言ってるんですか！〉
通信の向こう側でオクトパーとエドヴァルドが何やら言い争いをしているのを聞きながら、アムロが溜め息を吐く。
「エド…、勝手に話を進めないでよ…」
〈いいじゃないか、アムロ。それよりそろそろ戻ってこい。そっちのデータも回収したい〉
「はぁ…、了解」
技術屋って言うのはみんなこんなモンなのか？
自分の研究や興味の為なら勝手に無茶を通す。
『ああ、父さんやモスク・ハン博士もこんな感じだったな。』
遠い過去、子供の事も忘れて研究に没頭する父と、ガンダムのマグネットコーティングをするために、無茶な事をして大怪我をしつつも、自分にデータを取って帰って来いと言った大柄な研究者の顔が脳裏に浮かぶ。
「こうやって模擬戦やってる私も似たようなものか。」
一人、呟きながら、アームレイカーを握り直し、レウルーラへと帰艦した。

ドックへ入ると、コックピットから降りたアムロの元にギュネイがやって来る。
「次は絶対勝ってやる！覚悟しとけよ！」
アムロを指差し、言いたい事を言うだけ言って去っていく。
「ホント、負けず嫌いだな」
そんな事を呟いていると、ポンっと肩を叩かれる。
「お疲れ！なかなかやるじゃないか！」
「レズン少尉」
振り向くと、レズンが嬉しそうにこちらを見ていた。
「次は私とも頼むよ！」
「はぁ…、あ、機体の調子はどうですか？」
「ああ！バッチリだよ。あんなに手にしっくりくるって言うか、自分の手足みたいにスムーズに反応するなんてびっくりだ！あんた良い腕してるね。私の専属メカニックにならないか？」
「お！それいいね！レズン少尉！姉ちゃん、アナハイム辞めてネオ・ジオンに来いよ！歓迎するぜ！」
横からネオ・ジオンのメカニックチーフがレズンに賛同する。
「ははは、有難いですけど。まだまだエドの下で修行したいので」