黄金の太陽THE LEGEND OF SOL27
「だから、もう少し本気の度合いを下げるか。行くぜ!」
ロビンは再び目を大きく見開き、デュラハンに視線と波動を放った。
デュラハンはまたしても、体を石にされたかのように、動きを封じられてしまった。
「ご、おお……」
「死ぬなよ、デュラハン!」
ロビンは口元に笑みを浮かべ、デュラハンに向けて急接近した。
そして逆手持ちした刀を目にも止まらぬ速さで抜刀し、デュラハンの背後へと駆け抜けた。
「……炸裂刃……」
ロビンはゆっくりと納刀する。
「……絶っ!」
シャキンっ、と納刀の音を立てると、デュラハンにダメージが加わった。
音速を超える抜刀により発生した衝撃波にズタズタに切り裂かれ、ロビンの一撃も合わさって、デュラハン崩れ落ちた。
「すごい……」
ロビンの圧倒的力によって倒れるデュラハンを見て、仲間の誰かが思わず口にした。
「ロビンが使ってる技、魔術やエナジーじゃない……止刻法ともまた違う。あれは一体……?」
ヒナは、両目の天眼を通してロビンの力を探るものの、その答えは浮かばない。
「姉貴でも分からねえか。……これはオレの勘だが、ロビンがやってること、あれは蛇睨みだ」
ロビンの赤い双眸は、今でこそ煌めくものであるが、以前は赤黒いもので、見る者全てに恐怖を与える眼光だった。
「あいつの眼はとんでもなくおっかねえもんだっただろ? 本気で目の前の敵ぶっ殺そうとしてんだからな。デュラハンも怯えてんじゃねえか?」
ロビンの眼は、捕食者のそれである。
それはあたかも、ロビンという蛇が、デュラハンという蛙を一飲みにしてやろうという構図であった。
「蛇なんて生半可なモンじゃねえぜ、あれは」
ロビンの眼光を蛇に例えるシンに、ジェラルドは差し挟む。
「オレもあいつの眼を近くで見たことがある。そん時本気で死ぬんじゃねえかと感じたさ……」
蛇が蛙を丸飲みにするような小さなものではない。ロビンの気迫は最早、眼前のもの全てを打ち砕いて喰らい尽くすものだ。
「……それこそ、ロビンが破壊の対象とするドラゴンと変わりはねえぜ」
ドラゴンを殺すには、それ以上の力が不可欠である。ドラゴンにも戦慄を与える眼光は、大悪魔デュラハンなど睨み付けるだけで硬直させるに足るものだった。
「シン、漆黒の方も借りるぜ!」
「うおっ!?」
返事を待つことなく、ロビンは手元に無詠唱エナジーでそれを引き寄せた。シンは驚いてしまう。
「ふっ、だいぶオンボロになったもんだなぁ、デュラハン?」
ロビンは漆黒の刃を抜き放つ。
「けど、お楽しみはもうちょっと続くぜ。こいつに耐えきれるかな?」
ロビンは浮遊させるように、納刀した白銀の刃、そして漆黒の刃の鞘を腰に携えた。
そして、抜き身の漆黒の刃は左手に持ち、右手は何も持たない独特の構えを取った。
「あれはオレが編み出した、抜刀と居合いの二刀流……?」
ロビンは見たこともないはずの、シンオリジナルの剣術を使おうとしていた。これも剣の意思を感じ取れる、ロビンにしかできない事だった。
不意に、ロビンは空間に向けて指を指した。
「止刻法!」
ロビンの眼が光ると、入り来る物質の動きを完全に停止する時間の流れない空間が形成される。
しかし、その規模は非常に小さく、人の頭ほどの球体が浮遊するのみであった。
「止刻法!」
ロビンは、その球体をデュラハン本体に当てることはせず、辺りにばら蒔くように発生させている。
「ただでさえ精神力を消費すんのに、あいつ止刻法をあんなに……」
天眼を持つヒナでも、あれほどまでの止刻法の連用は難しいことだった。片目にしか発現していないシンにはなおさらである。
「ロビン、一体何をするつもりかしら……?」
一同が固唾を飲んで見守っている中、ロビンは止刻法の特殊な使用を続ける。
「止刻法! ……フフフ……! これでチェックメイトだ、デュラハン!」
最後に一つ、止刻法の球体を発生させると、ロビンはほくそ笑んだ。
「何……? なっ!?」
デュラハンはようやく気が付いた。
ロビンの攻撃がいつ来るのか、全く分からず、身構えることしかできなかったデュラハンには、自らの周りで何が起こっているのか見抜けなかった。
全ての時の流れが止まった小さな空間は、塵が凝固したかのように灰色であった。その球体がデュラハンを囲むように浮いていた。
「今ごろ気付いたか、だが、もう遅い!」
ロビンは、浮遊する球体に向けて、跳んだ。
次の瞬間、ロビンがまるで、何人もいるような錯覚をしてしまうような速さで、次々とデュラハンを斬りつけていく。
「あれは、幻影刃!?」
ヒナは驚き、声を上げた。
「げん、えい、じん? 何だそれは?」
ガルシアが訊ねた。
「……あたしには、時空間の狭間を見ることができるの」
ヒナは、天眼の力を全開まで引き出した時、普通の人間には見えようがない、元素の流れさえも見ることができるほどの眼力を得る。
その時、時間の流れが空間の位置する部分がぶつかる、時空の交差点を見ることもできた。
交差点は必ず複数近くに存在し、そこへ飛び込むことで一瞬にして別の交差点に移動することができる。傍目から見ればまるで、ヒナが二人いるかのように見えてしまうことから、ヒナはこの技を幻影刃と名付けていた。
「ロビンは止刻法の塊を交差点のように使ってデュラハンを連続的に攻撃した。あたしでも三回渡るのが限界なのに、それを上回ってね……」
「止めだ……!」
ロビンは瞬間的に七回の攻撃を加え、最後にデュラハンの上空から襲いかかった。
落下の勢いを漆黒の刃に乗せてデュラハンをなで斬りにし、地に足がついた瞬間、白銀の刃を抜刀してデュラハンの横を駆け抜けた。
「源流・八艘飛び!」
漆黒の刃の血を払い、白銀の刃を納刀すると、全てのダメージがデュラハンに加わった。
デュラハンは、力なくその場に崩れ落ちた。最早痛みに叫ぶ力もなく、わずかばかりの呻き声を上げるだけだった。
「シン」
ロビンはシンの双刀を投げて返した。シンはなんなくそれらを受け取った。
ロビンは、シンに双刀を返すとほぼ同時に、別の剣を手にしていた。
「いつの間に……!?」
ガルシアは、腰が軽くなったことに驚く。
ロビンが引き寄せたのは、ソルブレードに並ぶほどの聖剣、エクスカリバーであった。
「さて、デュラハン。貴様に与える対価、オレのショーもいよいよフィナーレだ。これでオレの言うことを聞いてもらうぞ……」
デュラハンの再生は始まっているものの、最早完全な再生は追い付かなくなっていた。
ずたぼろになり、最早動くことも出来ないデュラハンに、ロビンはエクスカリバーを向ける。
「ホント、ずいぶんと面白い姿になったなぁ
、デュラハン」
ロビンは口角をつり上げる 。
「ほら立てよ。フィナーレを受けてもらわなきゃならねえからな」
しかし、デュラハンは呻くばかりで、立ち上がる素振りを見せない。
「なんだよ、最後なのにつまんねえな。まあいい、無理にでも立ってもらうぞ!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL27 作家名:綾田宗