こらぼでほすと 秋刀魚1
ジブジブいうサンマを、口にして紅はビールを飲んでいる。これが特区の秋の醍醐味だ。ただし、ここには特区の人間はいなかったりする。軽い世間話をしながら、食事は進む。ある程度、落ち着いた頃に、そうそうとトダカが爾燕に切り出した。
「二週間後に、私の知り合いが来訪するんだが、この料理で頼めないか? 爾燕さん。」
「大丈夫です。人数は? 」
「いや、もう面倒だから貸し切りにさせてもらうつもりだ。人数は三十人くらいかな。」
「は? 」
「ちょうど店の予約がなかったから。麗しい女性陣じゃなくて、ムサイじじいたちなんだ。それに、面が割れるとマズいじじいたちでね。メインの奴らは私を入れて五人。こちらは、ビップルームに引きこもる。残りは、そのじじいたちの部下。メインホールで立食にしておけばいい。」
「そういうことなら、どっかのホテルでやるほうがいいんじゃないか? トダカさん。」
爾燕や紅でも、トダカの言うメンツの予想はつく。それだとオーヴのお偉いさんたちだ。そういう極秘裏な会談を、わざわざホストクラブでやらなくてもいいだろう。すると、いやいや、と、トダカは手を横に振る。
「店じゃなきゃダメなんだ。指名が、うちの娘さんだからさ。」
「「「はい? 」」」
「どーしても、うちの娘さんとお話ししたいと言うもんだから、ぼったくってやろうと思ってさ。」
「俺? ・・・・ん? まさか、あの人たちですか? トダカさん。」
「そうそう、ウヅミーズラブ一桁組のじじいどもさ、娘さん。仕事で特区に来るから、話し相手をして欲しいそうだ。」
「そんなことなら、トダカさんとこで、俺が食事の準備すれぱいいんでは? 」
「ダメダメ、そんな甘やかしたことをしたら、ちょくちょく来るだろう。あんまり来られても迷惑なだけだから、時間制限つけられる店のほうがいい。それに、うちの売上に貢献させておくのもいいことだ。はははははは。」
まあ、オーヴのお偉いさんたちだから資金面は問題ない。のんびり飲むなら、店のほうが何かと融通がつくのもいいらしい。最初だけ、キラも顔出しさせておけば、後は無礼講ということになる。
「他にリクエストは? 」
「爾燕くんたちの地域の料理も頼めるかい? あれなら珍しい。」
「わかりました。メニューのリストを作成しますからチェックしてください。」
「酒のほうは三蔵さんの上司さんから、たくさん貰ってるのがあるから、そこいらを出すつもりだ。あとは特区の日本酒あたりだな。」
「じゃあ、そこいらとのマッチングも考えます。」
二週間もあれば食材の手配も可能なので、爾燕も作る気満々だ。予算も適当でいいなら、凝った料理も試せる。三十人分となると、少し大がかりになるのでニールと八戒に手伝わせれば、なんとかなる。滅多にないことだから、トダカのほうも乗り気であるらしい。
「娘さんは、何を着てもらおうかな。」
「はい? トダカさん? スーツじゃないんですか? 」
「せっかくなら、普段は着ないもので着飾ったほうがいいんじゃないか? 着物とかチャイナ服なんか、どうかな? 」
「リクエストがあるなら着ますよ? 女装じゃないなら。」
「それは考えておくさ。」
「まさか、カガリも? 」
「いや、カガリ様は後日だ。国際会議なんだが、先に実務レベルの会合があるんだよ。うちの関係者は、そちらに出席。カガリ様は、代表者レベルに出席するから、数日後にいらっしゃる。・・・・まあ、きみのところには顔を出すだろうけどね。」
「寺に来るなら、いつも通りですね。あいつ、お好み焼きとかでいいから楽ですよ。」
カガリは時間があれば寺のほうに顔を出すだろうから、気にしない。それなら素のカガリが来るだけだから、丁寧なことはしなくていいからだ。ただのカガリが遊びにくるなら、寺でダラダラさせておけぱ機嫌も良い。食事も、焼きそばだのチャーハンなんぞで十分だ。
その数日前に店のほうでトダカがアスランと八戒にも貸し切りの話をした。そういうことなら、その日は、それでいきましょう、と、双方が頷いた。
「施術希望の方はいらっしゃいますか? トダカさん。」
「それはないだろうと思うんだが。」
「キラは最初だけとしても、ママニールだけで接待させていただくのは大変だから、何人かヘルプはつけさせてください。」
「それなら僕と悟浄がつきましょうか? みなさん、顔を知らない人間のほうがよろしいでしょうから。」
「そうだな。あと、ハイネも呼んでくれ。顔繋ぎさせておこう。」
さすがにシンやレイをヘルプにつけるのはマズいので、人外組がつくことにした。ハイネは諜報活動の兼ね合いがあるのとニール自身のヘルプをしてもらうために来てもらうことにした。さて、衣装は、どうしましょうか、ということになるのだが、そちらはニールも交えてやることにする。一番派手なのは訪問着だが、これは女装でもあるからだ。トダカとしては、ドヤ顔で自慢したいところなので、派手なほうが喜ばしい。なんなら、オーヴの民族衣装でもいいかな、と、考えている。
俺は、なんでもいいですが女装チックでなけれぱ、と、ニールはリクエストした。店では、そういうイベントには、いろいろと着せられるから慣れたものだ。店にバイトに出た日に、アスランたちと打ち合わせになった。
「俺は、訪問着が、お勧めですね、ママニール。」
「僕は包かな。僕のように女物で下はパンツを履けば派手で見栄えもよろしいかと。」
「訪問着かぁ。動きが制限されて接待には向かないぜ? アスラン。」
「いや、トダカさんの横に座っててください。接待のほうは八戒さんたちにお願いすればいいですよ。お酌ぐらいなら、それで十分です。」
「配膳や飲み物を作るのは、僕と悟浄でさせてもらいます。トダカさん的には、ニールを見せびらかしたいのだと思われるので動かないで会話に集中してもらうほうがいい。」
「とは言っても、俺、あんま小難しい話は苦手なんだけど。」
「その心配はないでしょう。難しい話なら、同席させませんよ。極秘事項なんて、僕らも聞きたくありません。」
そういう意図の会談であるなら、店の誰も入れずにやるはずだ。一応、トダカは、あちらからは引退しているので、愚痴あたりがメインになるだろうし、アイデア提供とか相談なら、わざわざ店ではやらない。
「まあ、そういうことなら、どちらでも。おふたりに衣装の選定は任せます。」
「どちらも用意して、スタッフの評価が高いものにしますか? 八戒さん。」
「それなら、先に、みんなに話して衣装を用意させてみましょうか? 用意できる衣装のリストを出してみれぱ、面白い。」
「わかりました。それじゃあ、オーナーの衣装部にかけあってみましょう。」
こういう面白いことは、スタッフも楽しみたいだろうから全員参加にする。アスランがメールで、そちらの手配をしていると事務室の扉が開いて、虎が顔を出した。トレイに人数分のコーヒーがある。新作のお披露目であるらしい。
「いい豆が手に入った。味見してくれ。さっぱりした感じになってるはずだ。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚1 作家名:篠義