第二部25(98) エピローグ1
「15年前は…黙って姿を消したりして、本当にすみませんでした。あれから…ぼくの代わりに姉様が負った苦労を…ダーヴィトから聞きました。本当ならば、二度と姉様の前に顔を出せるようなぼくではないのに、こうしてわざわざパリまで訪ねて来てくださるなんて」
それ以上のユリウスの謝罪を遮るように、マリア・バルバラが慈愛のこもった眼差しで首を横に振る。
「私が、今まで頑張って来られたのは、あなたがどこかで生きている…離れているけど自分にはまだ血を分けた家族がいると思えたからよ。もしあなたと再び会った時に、この家が無くなっていたら…、私が幸せでなかったら、きっとあなたが悲しむ…、出て行った事を後悔する…そう思ったから、私は頑張れた。会えないけれど…どこかで幸せに暮らしているあなたの存在が私の希望だった…」
ー こんなに綺麗になって…。あなた、幸せだったのね…。
「それは…姉様も。昔からお綺麗だったけど、ますますお綺麗で、幸せそう。ダーヴィトと幸せな人生を歩んで来たんだね…。ねぇ、ダーヴィトの傍らにいる、二人によく似た賢そうな面立ちの…ぼくらの甥っ子を紹介してよ」
ユリウスが二人の愛息に、碧の瞳を向け微笑みかけた。
「あ、ああ。そうだったな。僕らの一人息子のコンラートだ。今年10歳になる。…コート、君の叔父様と叔母様だ」
父のダーヴィトに背中を促され、
「初めまして。コンラートと言います。美しい叔母様のお話と、父の悪友で…親友だった叔父様の話は…父から常々聞いておりました。お会い出来て光栄です」
「悪友…か。ハハ…参ったな。だが君のお父上の言う通りだ。俺は、アレクセイ・ミハイロフ。それから、こいつはユリア。…あ、でも親しい人間の間では…」
「昔通り…、ユリウスと呼んで」
アレクセイの続きをユリウスが笑顔で継いだ。
「ユリウス…。光り輝く者…という意味ですね。叔母様にぴったりだ」
叔母が名乗った男名前に、コンラートは一瞬驚いたような顔を見せたものの、如才のなさは流石の父親譲りのようである。
「ぼくらの家族も紹介するよ」
アレクセイが隣室から自分によく似た面差しの少年と、彼に手を引かれたユリウス譲りの綺麗な金髪の女の子を連れて来た。
「長男のドミートリィに、長女のアルラウネだ。それぞれミーチャとネッタと呼ばれている」
「初めまして。ドミートリィ・ミハイロフと言います。今年の夏で15になります。…皆にはミーチャと呼ばれていますので、僕の事はミーチャと呼んでください」
「ネッタ、ご挨拶は?」
母親に優しく促され、兄に背中を優しく押されて
「ネッタです。…よろしく」
とはにかみがちに挨拶すると、
「ムッター、だっこ…」
と母親の方へ走り寄り、足元に抱きついてだっこをせがんだ。
「あら…あらあら」
だっこをせがまれたユリウスが、とびきり優しい母親の顔になり、娘を抱き上げた。
作品名:第二部25(98) エピローグ1 作家名:orangelatte