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第二部25(98) エピローグ1

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「ダーヴィト から聞いてはいたけど…。こんな大きな子供がいたなんて…。異国での出産と子育てはさぞかし不安で…大変だったでしょう?」

「うん…。ミーチャを生んだのは、16になってすぐだったよ。ガキがガキこさえて…って、散々言われたけど、ぼくの周りの人たちは、概ね温かな目で見守ってくれて、手を差し伸べてくれたよ」
ー そう言う人たちの…温かな手があったから、ぼくは異国の地でもこの子を育てていけたんだ。

ユリウスの碧の瞳が当時を振り返るように息子を見つめた。

「実際に、僕が幼い頃は、よく年の離れた姉弟に間違われたものです」

ね?と、ミーチャがユリウスに目配せする。

「でね、親子ですって言うと、みーんな目をこーんなに丸くするの」

ユリウスが茶目っ気たっぷりに両目を指で開いて見せた。

「こいつには…本当に苦労をかけてしまった。知っての通り、俺は第一次ロシア革命に敗れて…6年もの間、シベリア送りとなっていたんだ。こいつはそれから6年間、周りに誰も知る人のいない異国の地で、生まれたばかりの子供を育てながら自活して俺の帰りを待っていてくれた」

「パリの新生ソヴィエトロシアの、『大使』と呼ばれている男の、傑物の外国人妻…と言ったら、その筋じゃちょっと知られた存在だよ」
ー それを聞いて…チラッと君の事が頭によぎったが・・・・まさか本当にユリウス、君だったとは…。

「そんな…そんな大層なものではないよ。小さなミーチャを育てながら必死に働いて…。6年なんて…今にして思えばあっという間だった。それにぼくは…15まで男の子して育ったから…そもそもぼくの中に、既存の女性としての観念が極めて希薄だったのも…却って幸いしたのかもしれない。お陰様で、男性の党員に交じって、その間バリバリ働かせてもらいました。…ぼくの事なんかより…姉様の…姉様たちの方が大変だったのでしょう?…ダーヴィトから大体の事は聞いたよ。ぼくが出奔してしまったばかりに…色々な人たちから…その…命の危険に晒されたって…。本当にごめんなさい。身体はもう大丈夫なの?」

さっきとは一転表情を曇らせながら姉の身体を気遣うユリウスに、

「もう、何年前の事だと思っているのよ。私はこの通り元気で、可愛い息子にも恵まれて、至極充実した人生を過ごして来たわ」

そう言って、傍らの夫と目配せし、笑みを交わした。

「そ、そっか。そうだよね…。良かった」

そんな二人を目の当たりにし、ユリウスも安堵したような表情を浮かべる。

「おい、ミーチャ。ネッタとコートを連れて、コンサバトリーで菓子でも食ってろ」

アレクセイの言葉に、ミーチャがその意を汲み取り、「うん。分かった。二人とも、コンサバトリーで小鳥を見ながらお菓子を食べよう」と妹と従兄弟を連れ、小サロンを後にした。

「さてと。子供は席を外した。…ユリウス、お前ずっと気になっていたんだろう?お前がドイツを出てからの…アーレンスマイヤ家の事。ゆっくりと聞かせて貰おうぜ」

アレクセイの言葉に、ユリウスが無言で頷く。

ユリウスの、緊張で冷たくなった白い手の上に、アレクセイがそっと大きな手を重ねた。