第二部25(98) エピローグ1
「さてと…どこから…一体どこから話したら良いのかしらね…」
ー 今にして思うと、あれは…あの出来事は、あまりにも異常で、それ故にこうして過ぎ去ってみると…最早現実味さえも湧かなくなってしまったわ…。
その話に取り掛かかろうとしたマリア・バルバラが往時を回顧し、自嘲気味に小さく笑うと微かな溜め息をもらした。
「現実は小説よりも奇なり…とはよく言ったものだね。まさに僕らの経験したあの事件はそれそのものだったよ。…と、その前に、僕らは今日君たち夫妻に、サプライズをレーゲンスブルグから持ってきたんだ。ね?マリア。まずは君からそのサプライズを披露したらどうだい?」
傍の夫に促され、「そうだったわ」と黒い瞳を少女のように一瞬輝かせると、マリア・バルバラはドアのそばで俯きがちに控えていた伴のメイドであろう、地味だが仕立てのいいスーツを身につけた小柄な女性を振り返り、彼女を呼んだ。
「ゲルトルート、いらっしゃい」
その女性がゆっくりと顔を上げて、十数年振りに会う主人の名を呼んだ。
「ユリウス様…」
名前を呼ばれたユリウスの碧の瞳が、驚愕で一回り大きく見開かれた。
作品名:第二部25(98) エピローグ1 作家名:orangelatte