第二部25(98) エピローグ1
「お久しゅう…ございます。…本当に、お綺麗に…お幸せそうでいられて…。ゲルトルートは…嬉しゅうございます」
そう言ったゲルトルートの昔と変わらぬ優しい笑顔がみるみるうちに涙で霞んで来る。
「ゲルトルート!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら抱きついてきたユリウスの華奢な身体を抱きしめ返し、髪を優しく撫でる。
「あぁ…。こんなに…、華奢なお身体だったのですね。…こんなに…柔らかな髪だったのですね…。本当に、あの頃は…必死に頑張られておいでだったのですね」
ー さ、涙をお拭きになられて…。せっかくの嬉しい再会の日なのですから。
ゲルトルートがハンカチで優しくユリウスの涙を拭う。
「ゲルトルートの手は…昔と変わらず、優しいね」
ゲルトルートに優しく涙を拭われ、幼子をあやすように背中を優しく摩られたユリウスが、しゃくり上げながら答える。
「ゲルトルートは、お前さんが女の子だと言うことを、とっくに知っていたそうだよ。…知っていながら…ずっと見守っていてくれていたんだ」
ダーヴィトの言葉に、ユリウスの目が再び大きく見開かれ、涙がこみ上げる。
「…そうだったの⁈…ごめんなさい…。あなたを騙していて、本当に…ごめんなさい。…それから…ずっと見守ってくれていて、ありがとう!」
「いいえ。…騙されるよりも、周りを偽り騙していたユリウス様の方がよっぽどお辛かったでしょう。私も…そして…お嬢様も、もう大人になりました。辛い過去の事は水に流して、今の幸せの話を致しましょう」
「お嬢様は…照れるね」
お嬢様と言われたユリウスが、こそばゆそうな泣き笑いの顔になる。
「ゲルトルートもね、あの事件の後執事の息子と結婚して、今は女中頭としてアーレンスマイヤ家と義父の執事を支えながら、可愛いい坊やと優しい旦那様と幸せな家庭を築いているのよ」
「本当?…子供が…いるんだ。きっと優しい、愛情深いお母さんなんだろうね。ゲルトルートは」
「家族というものを知らずに生きてきた私に…、夫と子供は、無上の幸せをもたらしてくれました。…あの、私の息子と…私の家族を…是非みてやってください」
そう言ってゲルトルートはハンドバッグの中から、銀の写真立てを取り出し、開いて見せた。
見開きの写真立ての半面には、生まれたばかりの息子を抱いたゲルトルートと彼女の夫、そして義父の執事が、そしてもう半面には彼女の愛息の写真が収められていた。
「可愛い!」
黒い髪に母親譲りの優しい瞳をした男の子だった。
「畏れながら…、その子には、一番大事な、この世で最も光輝くお方のお名前を頂戴致しました。ー この子、ユリウスというのです」
「ユリウス…」
ユリウスが、15年前にこの地に置いてきたその名を、感慨深げに呟いた。
作品名:第二部25(98) エピローグ1 作家名:orangelatte