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第二部25(98) エピローグ1

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「姉様とダーヴィトは、どうして出会ったの?」

「僕らが出会ったのは、お前さんが失踪して二カ月程経った頃の、1905年の年明けてすぐ頃だった。一向に行方の分からないお前さんに続き、お前さんのお母上までが相次いで出奔し、途方にくれたマリアが、お前さんの演奏パートナーだった僕に何か手がかりとなりそうな事がなかったか…失踪前のお前さんのことについて色々聞きたいと、イザークを通して引き合わされたのが、きっかけだった」

「そうだったの…」

「僕はマリアに、お前さんが実は女の子で、失踪の原因は、ずっと好き合っていた上級生の生徒と駆け落ちしたのだろう…と伝えたんだ。その生徒はクラウスと名乗っていたがどうやらロシア人の可能性か高く、同時期に退学して街を去っていることからロシアへお前さんを伴って帰国した可能性が高い…と。まあ、あの時点では、全てが憶測ではあったのだけど、結果的には全て僕の憶測通りだったという事だな」

「あなたが女の子だという事実を告げられた時は、とても驚いたけど…、思い返してみれば、色々な点で、ああ、そういう事だったのか…と全て合点がいって、不思議とその事実をすっと受け止める事が出来たわ」

「マリアは僕の奇想天外なその告白を、取り乱すことも、馬鹿にしすることもなく実に自然に受け入れてくれた。僕はそんな彼女の柔軟性と懐の深さを、とても好ましく思った。彼女とならば良い友人関係が築けると初対面で直感した。マリアの方も、僕をそう思ってくれたようで、こうして僕らの交友はスタートしたんだ」

そうだったね?とでも言うように目配せしたダーヴィトに、観るとマリア、バルバラが微笑みで答えた。

「こうして足繁く、アーレンスマイヤ家に通い始めた僕が、あの家の醸し出す何とも言いようのない漠とした不協和音を感じ始めたのは、わりと早い時期だった。それはあの家に頻繁に顔を出すようになった僕が監視されているのに気づいた事が、最初だったかな」

「監視?それってもしかして…」

ユリウスの心当たりがあるようなその言葉の続きをダーヴィトが答える。

「ヤーコプだ。…お前さんも…心当たりがあるんだな」

ユリウスが神妙な面持ちで頷く。

「しかも、ヤーコプを動かしている人間は…アネロッテ一人ではなかった。ヤーコプは、アネロッテ以外にも、彼女とは全く目的を異にする主がいたんだ」

「そいつは、誰だ?」

アレクセイの疑問に簡潔に答える。

「校長。聖セバスチャン校長、ハインツ・フレンスドルフ氏だ」

ダーヴィトの答えにアレクセイが驚きに、目を見張る。

「なぜ?…なぜ校長が、お前を監視する?」

「その時は、アネロッテは兎も角、何故僕がフレンスドルフ校長から監視されているのか、その理由がさっぱり分からなかったよ。しばらくはその事実は、繋がりを持たない断片的なパズルのピースのように僕の中で散乱していたよ。これらのピースが…にわかに繋がりを見せ始めたのは、ほんの偶然の出来事からだった」

「それは?」

「僕のことを監視したりと、何かと不審な行動の多かったアーレンスマイヤ家の従僕…ヤーコプが、今度は街を出奔した筈のヘルマン・ヴィルクリヒ先生と密会している現場を偶然目撃した。先生は周りの目を憚って、お忍びでレーゲンスブルグへ戻って来ているようだった」

「せ、先生が?その時に…ダーヴィト、先生とは接触出来たの?…母さんの…母さんの消息は…」

縋るように母親の消息を訊ねるユリウスに、申し訳なさそうに目を伏せ、ダーヴィトが首を横に振った。

「…ごめんな。ユリウス。まさかその時は…後年こうしてお前さんと再会するなど露ほども思わなかったから…せっかく掴んだ重要なキーマンの先生を刺激しないように、今の居どころ等は一切詮索しなかったんだ」

「そ…そんな…」

「本当に…ごめんな。こんな事ならば、何が何でも、無理にでも聞いておくべきだった」

落胆で碧の瞳を曇らせたユリウスに、

「ダーヴィトを責めるな…。ユリウス。仕方ない事だ。…済まなかったな、ダーヴィト。先を続けてくれ」
と落胆止まぬ妻の肩を優しく抱き慰めながら、先を促す。

「そこで僕は、ヴィルクリヒ先生と校長が血縁関係だと言う事、そして校長が何らかの恨みをアーレンスマイヤ家に抱いていて、その復讐を企んでいることを聞き出した。そこで初めて、アーレンスマイヤ家を狙う二人の人物が明らかになった。…一人はアーレンスマイヤ家の遺産を狙うアネロッテ。そしてもう一人は、あの家に復讐したいフレンスドルフ校長」

「そこで私たちは…、まず私とは…アーレンスマイヤ家とは何も関わりのない筈の校長先生が、何故我が家への復讐を企てているのか、その理由を探る事から始めた。何故校長先生が我が家に恨みを持っているのか、その動機は一体何なのか。私達を、アーレンスマイヤ家を取り巻く闇を探る作業は、まず《呪われたアーレンスマイヤ家》と言われるようになった原因を作った先代当主、つまりお父様の過去をさかのぼる事から始まったの」

ー 呪われた、アーレンスマイヤ家…。

レーゲンスブルグに、ゼバスにいた頃、当事者のユリウスのみならず、アレクセイも又度々耳にしたその言葉。

その重苦しい響きに、部屋が沈鬱な空気に包まれる。

ユリウスとアレクセイがお互いの手を握り合って、話の行方を無言で促した。