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第二部25(98) エピローグ1

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「とっかかりは、以前マリアが調査を依頼したヤーコプの身辺調査書だった。あ、その際は、お前さんの以前に依頼した調査書も役に立ったよ。…ん?憶えてないか?あの乙女なポエムと一緒にシューベルトのソナチネの楽譜に挟まれてた…」

ニヤリと笑ってダーヴィトが最後の一言を付け足した。
何のことだかすぐに思い出せずにきょとんとした顔をしていたユリウスが、暫しの後にその―、かつて自分が書き綴った心の呟きを思い出し、一瞬にして耳まで真っ赤になる

「いやーーーーーーー!!」

真っ赤な顔を両手で覆い、絶叫したユリウスに、

「はは…。思い出したか?…いいじゃないか。切なくも瑞々しい感性が迸る…とても心を打つ詩だったよ」

「やめてやめてーーーーーー!いやーーー!恥ずかしい…もぅ…」
― 穴があったら…入りたい・・・・・。

両手で顔を覆ったままユリウスが傍らのアレクセイの肩にコツンと頭を預ける。

「はは…。一体、それどんなのだったんだよ。こいつがこんなにうろたえるその名作、俺も読んでみたかったぜ。なあ、ダーヴィト。その詩、写しかなんかないのかよ」

「いい!いい!!読まなくていい!知らなくていい!!もう、バカ!!!」
ユリウスは赤い顔のまま半泣きで夫の肩をポカスカ叩く。
「イテテ…。叩くなよ。アハハ」

「今度生まれるならば―」

そんな取り乱しているユリウスの声に、おもむろにマリア・バルバラの落ち着いた低めの声がかぶる。

「今度生まれるならば、あの白い花に生まれよう。
そうして、ありのままの姿で咲き誇り
あの人の目に留まり、あの人の指に手折られよう。
今度生まれるならば、あの小鳥に生まれよう。
そうしたならば、あの人の肩に止り、心のままに愛を囀ることもできるのに。」

マリア・バルバラが諳んじたその詩に、その場の三人が思わず押し黙る。

「この詩を…初めて目にした時…あなたの心の嘆きとその切ない祈りに心を打たれて…胸に熱いものがこみ上げた。…あなたが残したあの詩はね…その直後に起きた火災で…残念ながら焼けてしまったのだけど、あなたの残した切ない呟きは私の心に永遠に刻まれた。…一途な恋心を言葉にした…素敵な詩だわ。だから…私は是非この詩を…少女の頃に綴ったあなたのその言葉を…気持ちを…、あなたの旦那様にいつか伝えられたらとずっと思って、心に仕舞い続けていたのよ」

「ねえさま…」

今初めて明かされた自分を想う姉の心の内にユリウスがふと我に返り、マリア・バルバラの慈愛に満ちた面差しをじっと見つめる。

「ユリウス…ユーレチカ」

そんなユリウスの耳元でアレクセイが囁いて、金の頭をギュッと抱きしめる。

「…嬉しいよ。15の頃のお前に…切ない気持ちを黒い制服の下にひた隠して健気に生きていた…15の頃のお前に…久々に再会したような気がしたよ。…あの頃は…何もしてやれなくてゴメンな。でも…俺にとってはどんな姿をしていてもお前は唯一無二の白い花だったし…言葉にしなくてもお前の囀った恋心は…ちゃんと俺に届いていたよ」

そうしてユリウスの形の整った鼻の先と、柔らかな唇を啄むようにそっと口づけた。

「ま、結局その白い花は…こうして意中の人の指に手折られたわけだから…結果オーライということだな。…お二人さん、先を続けてもいいかな?」

「あ、ああ。悪かった。…続けてくれ」

ユリウスの頭を胸に抱いたままアレクセイが先を促した。